1-7.透明和紙の謎を解け! その6
ボクの透明和紙を見た 輝彦は、事態を理解したようだ。 フッと顔を緩める。
「ん? 利通っ、なんだ? この紙は。」
「ボクが、作った透明和紙だよ。」
「まぁ、見ればわかる質問だったな。 悪い。 あっ、小川さん、検品と採点を お願いします。」
未だ、何か言いたそうな表情の小川さんが、ボクの透明和紙の隅に、小さく数字を書き込む。 200点・・・。 まぁ、そうでしょうね。
ちなみに、ボクの3人あとに、検品と採点をしてもらった、輝彦の和紙は、80点だった。 そこそこ、いい点数。 さすが輝彦といった 所だろう。
「乃木坂くんと、大久保くんだったよね。 実習が終わったこの後、2階に来てもらえるかな? 帰りは、車で送ってあげるから。」
こうして、ボクと、巻き込まれた輝彦は、小川さんとお茶をすることになった。 もちろん、ボクにくっついている 泰葉も・・・。
[乃木坂の事件簿] 【 1-7.透明和紙の秘密 】
工房の2階は、下の作業スペースとは違い小川さんの趣味全開。 古いレコード屋さんみたいだ。 ジャケット面が見えるように 壁一面にレコードが 飾ってある。
紅茶と甘そうなお菓子が、テーブルに出される。
「すまない。 もう一度、あの和紙を 見せてほしい。」
ボクは、持ち帰るために段ボール箱に詰めた透明和紙を 1枚取り出し 真ん中にあるちょっと大きめのテーブル・・・ 紅茶が置かれているのとは別だ。 その真ん中に置いた。
「これだ。 ボクの物は、トレーシングペーパーよりは、透き通っている。 しかし、完全に透明か? と聞かれたらNOだっ。 やや曇りがある。 しかし、君のものは、完全に透明。 どうやって作ったんだい?」
この答えは、階段を上っている間に、泰葉と決めていたので、迷う必要は無かった。
「隣の工房ありますよね? 昔、あそこで作られていた方法を 使いました。」
「そ・・・そうか。 君は、知ってるんだね。」
輝彦が、驚いたようにボクの顔を見ている。 そうして、小川さんは、ボクの透明和紙を 軽く持ち上げると、天井のLEDの光に透かした。
「うん。 ボクが、作りたかったのは、これなんだ。 何が 違うのかな?」
「そちらの作り方が、分からないので、答えようが ないですね。」
うん。 それはそうだ。 小川さんが どうやって作ったか分からなければ、こちらとの 違いなんて答えようがない。 まぁ、正直に答えるかどうかは、横に置いといてね。
「そうだね。 先に こっちの作り方を 説明するべきだね。 これを 見てくれるかい?」
そう言って、小川さんが 備え付けられた 大きめの引き出しから 取り出したのは、黄ばみのある繊維・・・。 ボクの 透明繊維の 劣化版だ。
「これで、もう残りは無いんだ。 これが、ぼくの透明和紙の材料になる繊維だ。 この工房を整理している時に、棚の奥から、これが出てきたんだ。 もっと 量は 多かったけどね。」
これを使えば、新しい和紙が作れるかもしれない。 そう考えた小川さんの工夫は、そこから 始まったらしい。 古い黄ばんだ透明繊維と、楮 を組み合わせ、トロロアオイの ねり とあわせる。 1回ずつ 割合を変えて・・・。 そうして出来上がったのが、地域探索プログラムの最初に見せられた 透明和紙だったのだ。
「そうですね。 まず、材料が古いか、新しいかの差があると思います。 ボクの繊維は、今朝、皮を剥いで 用意したばかりのものです。 それと、ねりの材料が違いますね。」
「おい、利通。 朝、寝坊したって 言ってなかったか?」
輝彦が、ボクをにらむ。
忘れてた。 そういえば、朝、コイツは、ボクを待ってたんだった。
「あっ、ごめん。 ホントは、この和紙の材料を 用意してたんだ。」
輝彦の方を向いてしまったボクに、ふたたび、小川さんが、声をかける。
「乃木坂くん。 どうだろう? この材料と作り方を 教えてもらえないか?」
「教える必要 ないわよっ。」
間髪入れずに、泰葉が言う。
うーん・・・ でも、この人、頑張って 自分で 配合を試して 和紙作りをしてるじゃん。 努力しているし、このままだと、泰葉のおばあちゃんの和紙、無くなっちゃうよ?
「でも、おばあちゃんの和紙を、自分の和紙って、発表した人だよ。」
そうだな。 じゃぁ、この透明和紙が、泰葉のおばあちゃんの作った紙だって、小川さんが、発表するなら、材料と作り方を 教えていいかな?
「えっ。 うーん・・・。 それでも、この人じゃないほうがいい。」
それだと、難しいかもしれない。 だって、この地域で動いている工房は、小川さんの和紙工房だけ。 ってことは、この人がやめちゃったら、たぶんもう絶滅・・・。 まぁ、半分、絶滅しているような この地域の和紙作りを、北海道から移住してきた この人が、復活させたようなものだもんな。
「利通が、発表してくれれば いいじゃないの。」
いや、高校生じゃ無理だしっ。 それに、この人が、もう発表しちゃってるから、小川さんの和紙を 盗んだと思われちゃうかも。
「もぉ、いいわよっ。 この人で。 じゃぁ、おばあちゃんの和紙だと 発表してもらえるように、利通が、話をしてよね。」
よしっ、泰葉の説得に 成功っ!
「どうだろうか? 教えてもらえないだろうか?」
ボクが、泰葉と会話をしていた 沈黙を、ボクの迷っている時間だと 思っていたのだろう。 少し不安げに、小川さんが 話しかけてきた。
「条件が あります・・・。」
不安気に ボクを見つめる小川さん。 そしてなぜか輝彦も不安気だ。 やめろよ。ボクまで、不安に なるじゃないか。
そう思いながら、ボクは、小川さんに 条件を提示した。
透明和紙を作ったのは、隣の工房をやっていた 泰葉のおばあちゃんであることこと。 昔の材料を見つけた小川さんが、それを再び作り出したこと。 この全てを正直に発表し終えたら、透明和紙の製造方法と材料を教える。
全く迷いは、無かった。 小川さんの答えは、Yes。
「ただ、発表まで、1か月だけ時間が欲しい。 いや、これは、何か誤魔化そうとかいう話じゃない。 この工房を改造したり、和紙作りの活動をしたりするのに、お金を出してくれたスポンサーの人たちがいる。 先に、その人たちに、説明をしておきたいんだ。」
ボクは、そのくらいならOKだし、泰葉も、一度、許したなら、そのくらいどうでもいいことみたいだ。 スポンサーの人たちに見せるための 透明和紙を1枚、小川さんに渡す。
これで、地域探索プログラムで起こった 透明和紙の事件は、全てを幕を閉じた・・・ はずだった。
イヤ、だって、まさか1週間後の中間試験で、あんな事件が起こるなんて、誰にも 想像できるもんじゃないだろ?
スポンサーの人に謝って回ったことがある人は、高評価を押して次の話へ⇒
☆☆☆☆☆ → ★★★★★
申し訳ありませんが、少し更新ペースを落とします。
これにて、透明和紙が終了。次話より中間テストのお話へ。