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1-6.透明和紙の謎を解け! その5

 危ないっ。 見つかる所だった。 入って来た正面のドアから出ようとすると、外で、輝彦が、ウロウロしていたのだ。


「泰葉っ。 裏から出よう。」


 泰葉に 裏口を教えてもらって、そこから外に出る。 鍵は・・・ かけない。 というか、かけられない。 持っている表の鍵と、裏口のカギは 違うからだ。


「大丈夫よ。 どうせ 取られるものなんて 無いから。」


 危うく 遅刻しそうになったけれども、ぎりぎり セーフ。


 っていうか、輝彦が、1分遅刻。 朝から、ボクの姿が見当たらないので、心配して表で待ってくれていたらしい。 悪いことをした。


「利通、お前、今日、学校サボってたろ。」


「わりぃ。 寝坊したから、もういいや って、先に こっちに来てたんだ。」


 どうせ、確認しようがないだろうから、適当に答えておく。


 そうして、ボクたちの 和紙作りが始まった。




[乃木坂の事件簿]  【 1-6.透明和紙の出来上がり 】



 「楮-コウゾ」を蒸す。 そうして、その黒皮を剥がなければならない。・・・と思っていたんだけれども、すでに、繊維状になったものが用意されていた。 そんなところから 始めようとしたら、時間が足りないらしい。 皆に、 楮 が配られる。


「あっ、利通っ・・・ 待って。 持って来た方の 楮 を 使って。」


 小川さんの指示をどおり、用意された 楮 を使って作業を始めようとした所、泰葉に止められた。 泰葉が、用意している方の 楮 を使うらしい。 っていうか、圧倒的に少ない。 こんな量で、必要な量の和紙なんて 作れるんだろうか?


「透明繊維が、2種類あるでしょ? それを足したら、みんなと同じくらいの繊維になるから。 大丈夫よ。」


 あぁ、なるほど。


 渡された 楮の繊維 は、輝彦の方に 押しやって、こっそり置いておく。 証拠隠滅だ。


 渡された「トロロアオイ」も、何気に邪魔だ。 この根を潰して「ねり」として使う必要があるけれども、ボクのカバンの中には、「トロロノリナト」の根をつぶした「ねり」が、もう用意されているのだ。


 よし、これも、輝彦の所に置いておこう。 他のみんなは、漉くための 水槽・・・ 紙漉き舟の中に、ほぐした楮と、水、トロロアオイの根を混ぜていく。 あっ、なぜか、他の人より 材料が多かった輝彦だけ、まだ準備段階だ。


 ボクは、紙漉き舟に、他の人よりの 少ない自分の 楮 と、2種類の 透明繊維、それから、水、トロロノリナトの根・・・ これらの材料を混ぜ、かき混ぜた。


 そうして、天井より吊るした 簀桁 を 漉き舟 の中に入れる。


 そういえば、この工房の漉き舟や、簀桁は、泰葉の おばあちゃんの工房に合ったものと 比べると、かなり小さい。 おかげで扱いやすいけれども、なんでだろう?


「何十年も前の こども体験学習用の設備を、ほとんど そのまま使ってるのよ。 私も、ここで紙を 漉いたことがあるから、間違いないわ。」


 いま、何十年も前 っていったよな? 何十年って、お前、何歳なんだ。


「せ・・・設備が、何十年も前なのっ。 年なんて 関係ないでしょ。」


 泰葉は、慌てたように 言いつくろうと、ふわりと 窓から 飛び出してしまった。


 仕方がない。 真面目に 紙を漉こう。 漉き舟の中で 簀桁を揺らす。 漉くときは、縦と横に 揺らすが、これをルール通りにしないと、紙の質が、全く 変わってきてしまうらしい。


 泰葉が居なくなったので、ちょっと不安だったけれども、何とか湿紙・・・ 漉き終わった湿った紙が、出来上がる。 これは、丁寧に1枚ずつ重ねる。


「うん。 上手くできたわね。」


 なんだ、居たのかよ。 紙を重ねた 紙床 を、天秤式の圧搾機にセットしていると、いつの間にか戻って来ていた 泰葉が、ツンツンと それをつついた。 圧搾機で、圧力をかけ、水を絞りだす。


 脱水が終わったら乾燥だ。 周りの作業工程をみながら、目立たないよう タイミングを合わせなければならない。 みんなの脱水の作業が終わるのを 確認したら、鉄板に、ほんの少し湿り気のある ボクの紙を貼り付けるように並べていく。


 あっ、輝彦だけは、まだ、漉き舟で 簀桁を揺らしている。 かなり遅いな。 うん。


 鉄板は、熱伝導が良い。 これを、高温に熱することで、紙を完全に乾かすのだ。 白い煙のようなものが、並べた鉄板の周りに 立ち込める。


 穴、破れ、異物の混入の有無、厚みなど、光に透かしながら 出来上がった紙を 1枚1枚チェックしていく。


 こうして自己チェックが終わった紙を、小川さんの元に持っていき、検品してもらったら、作業は 終了だ。


 ただし、他の人より、だいぶん 早く ボクの作業は終わっている。 目立つのは良くない。 ボクは、1番手に 検品に並ぶのを避けて、輝彦の作業を 手伝うことにした。


 まだ、紙漉き工程の 輝彦の湿紙を、重ねて、圧搾機で絞るのだ。 絞った物は、鉄板に貼り付けていく。 このお手伝いをしている間に、他の人たちが、検品に向かい始めた。


 よしっ、もういいだろう。 輝彦に、紙を鉄板に貼り終えたことを告げて、自分の和紙を キャスター付きの台に乗せる。 さぁ、小川さんの前の列に並ぼう。


 作られた紙の端は、最終的に 切り取られる。


 小川さんによって、その部分に、小さく数字が書かれていくのが見えた。 どうやら、紙の出来・・・ 点数らしい。


 おぉ、ボクの前の子は、90点と 書かれている。 やるなっ。


 そうして、ボクの順番がやって来る。 キャスター付きの台の上の紙が、小川さんの前に 差し出される。


 その瞬間、彼の息をのむ音が聞こえた。 


「こ・・・これは、透明和紙っ。 そんな・・・。」


 そう、ボクの和紙は、完全に透明っ。 紙の下にある 台のキズまで 透けて見ることが出来る。


「どうやって、これを 作ったんだい?」


 ボクが、返事に困っていると、泰葉が、横で囁いた。


「あなたが、盗んだ方法ですって、答えてやれば いいのよ。」


 盗んだ?


「うん。 たぶん、おばあちゃんの書いていたノートか 何かを見て 透明和紙を作っていたんじゃないかな? 自分で開発したって 言ったけれども。」


 あぁ、それで、泰葉は、急に 透明和紙を作ろう って 言いだしたのか。


「これは、僕が作った 透明和紙より透明だ・・・。 一体、何をしたんだい?」


 小川さんが、ボクの肩を掴んで 前後に激しく揺らす。


「ちょっと、何してるんですか。」


 やっと、できあがった自分の和紙を持った 輝彦が、ボクと 小川さんの間に入った。


「あぁ、すまない。 しかし、この紙は・・・」


「ん? 利通っ、なんだ? この紙は・・・」

待ちぼうけをしたことがある人は、高評価を押して次の話へ⇒

☆☆☆☆☆ → ★★★★★


ちょっとペースを落としましょう。疲れた。人間には、寝る時間が必要です。

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