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1-1.始まりは、桜の季節に

 神社の鳥居をくぐり、お守りを売っている授与所と向かう。 ふと空を見上げると、盛りを過ぎた梅の枝が、風に揺れて ざわざわと泣いていた。


「あぁ、残念だけれども、あれは、期間限定っ。 売り切れだよ。 代わりに こっちの御守り・・・ 災いを打ち払って、運を開くんだけれども、どうかな? 梅じゃなくて、【桜のお守り】だけどね。」


 な・・なんと、ボクが買いに来た【梅の御守り】は、もう売ってないらしい。 この神社の梅の花は、その強い香りが、邪気を祓うと言われているのだ。


 困った。 気温が上がり暖かくなってから、写真を撮ったら、心霊写真になったり、寝ていると、金縛りにあったり・・・ なんだか、ろくな事が起こらないため、邪気を払うというこの神社の【梅の御守り】を買いに来たのに。


「そうだね。 どうしても必要なら、来年の2月頃に また来てくれたら売っていると思うよ。 どうする? 買うのをやめとく? それとも、こっちにしとく?」


 とりあえず、無いよりはマシだろう。 巫女姿のお姉さんのおススメする その【桜の御守り】を買ってみることにした。


 社の横の立て看板によると、【桜の御守り】の中には、昭和47年の大祭前夜に、雷が落ちた 霊木の木片が、納められているらしい。 看板の案内に従って、石畳を、とぼとぼと、歩きながら、本殿近くの その桜の大木の前へ。


 これが、その桜の霊木・・・ ここかな? なんか、燃えた感じがあるけれども、雷で燃えた? いや、流石に昭和のままってことはないだろう。 まぁどうせ、この手のお守りなんて 飾りなんだし、要は、気持ちの問題だっ。


 そう思い、指先に、お守りのヒモを引っ掛け、クルクルと回す。


 ・・・その時、どこからともなく、女の子の声が聞こえた。




[乃木坂の事件簿]  【 1-1.お揃いの御守り 】




「ところが、そうじゃないのよねっ。」


「だ・・だれ?」


 きょろきょろと、周りを見渡す・・・ 誰も居ない。 幻聴? 耳がおかしくなった? いや、頭か・・・ そう言いたくなる。


「こっちよっ。」


 声の先は、上であった。太い桜の枝に、女の子が、腰かけていたのだ。


「きみ、危ないよ。 それに、見えちゃう。」


「ちょっ・・・ あなた、どこ見てるのよ。」


 ぴょんっと、枝から飛び降りると、女の子は、少し短めのスカートをパタパタと払った。腕に引っかかっているのは、ボクと同じ桜のお守り。


「私の名前は、【泰葉】よっ。 あなたは?」


「ボクは、【乃木坂 利通】。 っていうか、あんなところで何してたの?」


「あら、気持ちいいのよ。 桜の木の上って。 あなたも 登ってみればいいのに。」


「で、泰葉ちゃん。『ところが、そうじゃない』って、どういう意味かな?」


「お守りが、お飾りって言ってたでしょ? あの【梅の御守り】は、ホントにヤバいのよ。 悪霊じゃなくても、払われちゃう。 こっちの【桜の御守り】は、お飾りに近いだけど。」


「あれ? ボク、言ったっけ? 御守りが、飾りだと思ったこと。」


「気づいてなかったのね。 ほら、私の手を見て。透けてるでしょ?」


 おかしなことに、泰葉が広げた手の後ろに、桜の木が透けて見える。


「えっ・・・ ナニコレ?」


「私、桜の精なの。 その【桜の御守り】ってね。 この桜の木の欠片なんだよ。 だから、波長が合っちゃったのかなぁ。あっ、あなたが、頭で考えたことも、こっちに伝わるからね。」


 泰葉は、透き通った手に持ったお守りを振りながら、クスリと笑った。


「え? 幽霊・・・ってこと?」


「ちがぁぁう。 よ ・ う ・ せ ・ いっ。 妖精よっ。 なんで、幽霊なんかと 一緒にされなきゃダメなのよ。 間違えないでよね。 それより、お揃いだよ。 わたしも、【桜の御守り】もってるんだから。」


 泰葉は、ボクと色違いの御守りを、くるくると振り回す。


 桜の妖精と言われても、見た目は、ただの小さな女の子。 しかし、手は、透き通っている・・・。 関わるべきだろうか・・・ 見なかったことにすべきだろうか? っていうか、見なかったことに できるんだろうか? 悪霊とかだったら、憑りつかれたことになるんだよな。


 そっと 視線をそらして、あとずさりする・・・。


「ちょっと、あなた・・・ 私から、逃げようとしてない?」


「そ・・ そんなことないよ。」


 辺りを見渡すふりをして、目をそらして一気に逃げようと思ったのだが、おかしなことに、周りの人が、ボクに注目している。


「おい、木の上から飛び降りたりして騒ぐから、目立ってるじゃないか。」


「何言ってるの? ほかの人には、私は見えてないわよ。 あなたが一人で、騒いでるって思われてるんじゃない?」


 え? 嘘だろ? それ、ただの危ない人じゃん。



******************************



 あわてて、境内を抜け、外にある 古い公園へと 逃げ出す。


 ふぅ・・・ ここまでくれば、大丈夫か・・・。 って・・・ なんでお前、ついてきてるんだよ。


「あら、私と、一緒に居られるのが、そんなに嬉しい? そうねぇ、じゃぁ、お揃いの【桜の御守り】を持っている仲間だし、【梅の御守り】の代わりに、私が、利通くんを 守ってあげよう。」


 そう言って、泰葉は、ふわりと浮き上がった。 うわっ、ホントに浮かんでる・・・。 てか、お前、なんで肩の上に乗るんだ。


「ん? 妖精って言うものは、普通、自分の宿る主に、座っているものよ?」


 そんな話聞いたことない。っていうか、宿る主って、宿主ってことじゃないか。寄生虫か?なんか、変なものに憑りつかれた気分だ。


「しっつれいね。 こんな可愛い寄生虫が 居るわけないでしょ。 あなた、モテないでしょ。」


 うるさいっ。どうせ、彼女なんていないよっ。


 こうして、ボクと、自称【桜の妖精】泰葉の不思議な生活が始まった。

梅より桜が好きな人は、高評価を押して次の話へ⇒

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