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攻略前なのに、推しがグイグイくるのですが  作者: りすこ
チュートリアル 学園生活の始まり
9/16

気になる下級生 (後)

 

 セオドアは桜の木が好きだ。異国から来た春の木を見上げるたびに、その美しさに息を飲んでいた。


 薄桃色の花びらは風が吹くと、あっけなく舞い上がり、雨が降れば、花ごと枝から落ちてしまう。儚い花なのに、咲くときは雄大だ。


 青空を背景に見る桜の木はきれいで、ずっと見ていられた。今年は最後の学園生活。桜の木を見ようと、セオドアは足を止めた。


 今年も咲き誇った花に微笑して、上へ上へと顔をあげる。そして、気づいた。


 青空の中に黒い精霊と、女子生徒がいることに。


 セオドアは目を見張り、魔法をとなえ、拡大して二人を見た。二人は会話をしていたが、読話術を使っても、何を話しているのか分からない。


 不思議な光景に目を奪われ、セオドアは言葉を失った。



 セオドアはありのままの光景を端的にブルーノに伝えた。ブルーノは最初こそ笑っていたが、セオドアが射抜くように見ると、話を信じた。


「……本当の話なんだね……」

「あぁ。不意に魔法がとけて彼女が落下してきたから慌てたな」


 サクラが空から落ちる寸前、ペンギンのかみさまがセオドアを見た。拡大して見ていたので、目が合ったのがハッキリ見えた。


 ──頼むね。と、しゃべっていたような気がするが、ペンギンのかみさまはすぐに消えてしまった。


 消えたのに驚いて、彼女が空から落ちてきたのに絶句した。


「風魔法を起こしたが、乱れてうまくコントロールできなかったな……」

「らしくないね」

「……そうだな。彼女が桜の木に落下してくれたのは、運がよかった」


 サクラの落下がゆるまったのは、セオドアが魔法を使ったからだった。


 しかし、セオドアは彼女に空を飛んでいたことを尋ねられなかった。その場では、言えない理由があったからだ。その理由をブルーノも薄々、気づいている。


 セオドアはサクラを見たときから、頭にあった仮説を口にした。


「サクラは〝流れ星の子〟なのかもしれない」




 流れ星の子は、願いを叶える特別な存在として、セオドアの家で語りつがれていた。


 容姿は愛らしい少女。軽やかに跳ねる姿は、精霊みたいだったと言われている。


 パッと現れることから、精霊が人になったのでは、と言われているが、正体は不明だ。何より、眼鏡をかけていなかった。


 眼鏡がいらない人は一般的には、魔力が低い――といわれているが、流れ星の子に関していえば定義が違う。


 彼女は奇跡ともいえる魔法をひとつだけ使える。その対象者は、自分ではなく誰かのためだった。


 難病にかかった人を回復させた。飢饉が起きた田畑を復活させたなど、奇跡としか言えない魔法を使ってみせたのだ。


 しかし、流れ星の子の奇跡が、広く知れ渡った頃。

 奇跡の魔法を巡って、王族間で争奪戦が起こった。流れ星の子は監禁され、報償金のような扱いをされた。

 争いで荒れた城の様子を見て、流れ星の子は嘆き悲しんだ。


 権力争いに勝ち抜いたのは、後に暴虐王と呼ばれる男だ。男は流れ星の子に、この世のありとあらゆる魔法を自分に与えるように命令した。魔法で、世界を制覇しようと男は企んでいた。


 流れ星の子は抵抗した。そんなものを男に与えたら、この国はどうなってしまうのか。

 流れ星の子の抵抗を見て、男は彼女に付き添っていた従者を殺すと脅した。


 流れ星の子は、暴虐王に力を与えるふりをして、従者を遠くの地へ逃がすために、奇跡の魔法を使った。


 男は裏切りに憤り、流れ星の子を惨殺した。

 そして、怒りのままに国を支配した。治世は、二代続いたが、今の王家の血筋の者に倒される。


 暴虐王の血筋は散り散りになり、以来、今の王家によって、国の形は保たれている。


 今から二百年前の話であった。



 流れ星の子が助けた従者が、セオドアの祖先だった。


 セオドアの家は暴虐王を討つべく、今の王家側に付いた。クーデターを起こした際には活躍して、以後も、王家に仕えている。


 そして、国内の治安維持につとめた。


 父がセオドアに常々言っていたのは、心優しい人が命を奪われる国にするな、暴虐者を許すな、ということだった。


 セオドアも流れ星の子の存在は、幼少期から聞いていて、暴虐王が許せないと思ったものだ。


 そして、ブルーノは表向きは、スクールカウンセラーをしているが、元々、セオドア家の補佐役として動いてきた家なのだった。


「流れ星の子か……そう考えると名簿に不意に現れた理由にも説明が付くけども……」


 ブルーノは長く息を吐き出す。


「……神々の所業だ」

「そうだな」


 セオドアも納得して、きつくしめていたネクタイをゆるめた。


「だが、目の前で実際に起きているんだ。対処すべきだろう」

「そうだね……」

「サクラが本当に流れ星の子だったら、保護しなければならないな」

「周りに悟られないようにしないとね。暴虐王の血筋は残っているし……()()()の信奉者に狙われたりでもしたら……」


 セオドアは低く唸るような声をだす。


「リオ様は健やかに過ごされている。また、あの方を巻き込むのは、俺が許さない。サクラを使おうとするなら、尚更だ」


 ブルーノは目を丸くして、クスクス笑う。


「リオ様はきみのことを知らないのに、随分、熱心だね」


 からかいの言葉に、セオドアはぴくりと眉を動かした。


「リオ様の追放騒動を知っていれば、誰でも憤るだろう? あれは酷い話だ」

「そうだね……王太子殿下がリオ様を気にかけているのが、せめてもの救いかな……」

「救い……か。どうだろうな。殿下は何を考えているのか、いまいち掴めない」


 誰も信用していなさそうな冷たい金色の目を思い出して、セオドアは嘆息する。長く息を吐くと、椅子から腰を持ち上げた。


「父上にサクラのことを報告する。エリーにはなるべく彼女の側にいるように言ってくれ」

「わかった。妬けるくらい彼女のことを気に入ったみたいだから、その点は安心して」


 セオドアは頷き、医務室を出た。



 *



 帰宅すると、防音魔法がかかった自室にこもり、父宛に手紙を書く。父は家にいることがほとんどない。緊急の用件は、手紙でやり取りするのが、決まりだった。


 書いた手紙を文箱に置くと、紙は光をまとって消えた。それを見届けてから、着替えをする。


 寛いだ格好になった後は、部屋の壁一面にる本棚に目を向けた。


「《流れ星の子》《探せ》」


 セオドアが呟くと、数冊の本が棚からでてきた。机の上に本が置かれ、それを読み始めた。あっという間に読みきると、本を元に戻す魔法を呟く。


 次は魔法専用の部屋にいき、汗を流した。日々の鍛練はセオドアにとっては日常だ。


 就寝前になり、父から手紙が来ていることに気づいた。


 サクラの調査は、セオドアに一任すると書かれてあった。




 流れ星の子の調査は、コリンズ家、ロバーツ家以外は、内密にすること。誰にも悟られてはならない。流れ星の子の監視は怠らないように。


 父が強く言うのは、セオドアの家が古巣の貴族から嫌われている立場だったからだ。


 二年前に国王が病にふせ、王太子が国の最高権力者になっている。


 王太子は慣例化された貴族議会の時間を短くして、自分主導で政治を動かしている。誰の話も聞かない冷徹な人と言われ、古巣の貴族からは嫌われていた。セレマ領では人気があるが、国内全体で見ると、評価はいまいちだ。


 セオドアの父は貴族の話をばかり聞いて、何も決めない国王に不満があった。王太子の体制になって、喜んでいる一人だった。王太子はセオドアの父をかって、セオドア自身にも目をかけている。古巣の貴族から見ると、面白くはない状態だ。


 流れ星の子の魔法が知られたら、古巣の貴族たちが何をするか分からない。


 逐一、報告をし、彼女を我が家で保護することも視野に入れておくこと──という文章で手紙はしめくくられていた。



 手紙を見て、セオドアは考え込む。


(もし、彼女が流れ星の子なら、保護目的の婚姻も考えなければな……)


 セオドアには結婚を誓う相手がまだいない。婚姻という形が一番、自然だろうと考えていた。


 それは義務感からくるものだ。サクラへの恋愛感情はセオドアにはない。ないはずなのだが――


(彼女と婚姻か……)


 セオドアの脳裏に彼女の容姿が浮かんだ。


 空から落ちてきたあまりに軽い少女。薄桃色の柔らかそうな髪を風にゆらして、葉桜を思わせる大きな瞳でセオドアを見上げてきた。セオドアの腕の中にすっぽりとおさまるほどの華奢な体は怯えているのか、震えていた。

 その小さな存在を見たとき、桜の木から精霊が生まれたのか、と勘違いしたほどだ。


 彼女の顔が青くなったときは心配になり、真っ赤になって涙目になったところは庇護欲をそそられ――


 そこまで考えたとき、セオドアの眼鏡が光った。


 彼の体から冷気が放たれる。一気に部屋の室温が下がって、廊下にまで冷たい空気が流れ出た。


 ──ドンドンドン!


「ぼ、ぼぼぼっちゃま! 何事ですかあああっ!」


 たまたま通りかかった初老の使用人が、ドアを激しく叩いた。慌てすぎて、かけていた鼻眼鏡が落ちてしまうほどだ。


 セオドアは眼鏡を光らせながら、立ち上がり扉を開いた。


「……すまない。少し、頭を冷やしたくてな。魔力が暴走した」

「暴走っ?! ぼっちゃまがっ! 何があったんですか!」


 冷静な彼が魔法を暴走させるなどただ事ではない。初老の使用人はハラハラして、鼻眼鏡を拾い上げて、かけ直す。

 セオドアは片手で顔をおおうように、眼鏡をなおした。


「……聞かないでくれ」

「言ってくださいよぉぉぉ……!」

「扉を閉めるな。下がってろ」

「え? あ? ちょっ! ぼっちゃまぁぁぁ!」


 ──バタン。


 セオドアは強引に扉を閉めた。しばらく扉越しに声が響いていたが、やがて静かになった。


 セオドアは大きく息を吐き出し、椅子に深く座って天を仰ぐ。


「サクラ……きみは、何者なんだ?」


 気になってしかたがない下級生を思い出しながら、セオドアは静かに目を閉じた。




ここまでお読みくださり、ありがとうございます!


バックがごちゃごちゃしていますが、学生らしい話がメインです。次の章から、セオドアとサクラのすったもんだが徐々に始まります。


引き続き、応援してもらえると嬉しいです!

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