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攻略前なのに、推しがグイグイくるのですが  作者: りすこ
チュートリアル 学園生活の始まり
2/16

ファンだってことが、即バレしました

 セオドアにお姫様抱っこされ、サクラは顔色を失っていた。恥ずかしさがピークを越えて、顔は真っ白になっている。声すらでない。


(あぁ……もう、ダメ……)


 ついにサクラは気絶した。


 セオドアはサクラの白い顔を見て、眉根をひそめた。危険な状態とみて、大股で歩いていく。


 医務室がある西の棟へ入ると、生徒たちが一斉にふたりに注目した。学園内でも存在感のあるセオドアが、女子生徒を横抱きにしている。何事だと、ざわめきだしていた。

 セオドアは鋭い眼光で外野を黙らせ、歩みを止めなかった。



 *



(あれ……?)


 目を覚ますと、サクラは医務室のベッドに横にされていた。


「気がついたかい?」


 声をかけられ、うぐいす色の長い髪が視界に飛び込む。丸眼鏡をかけていて、新緑色の瞳は穏やかにたれ下がっていた。優しい眼差しは、ゲームで見たままだ。


(ブルーノ先生!)


 攻略キャラのひとり、治癒師ブルーノ。生徒の怪我をみたり、学校生活の悩みを聞く臨時教諭。いわば、スクールカウンセラーだ。


 物腰の柔らかいキャラだが、恋愛ストーリー後半では腹黒さがでて束縛してくるので、ファンの間では、ギャップが激しくてイイね!と、言われていた。


 サクラはセオドア一筋なので、ブルーノは眼中にない。ないからこそ、彼のことは、じっくり落ち着いて見れた。


(ブルーノ先生もアニメ化している……はぁぁぁ。なんだか、信じられない。あ、会話するときは、メッセージウインドウはでないのね。選択肢は出てくるのかしら?)


 今のところ、ルート分岐の選択肢はない。とはいえ、このゲームではキャラエンドは二パターンだ。溺愛エンドか。ちょっと大人の耽溺エンド。


 好感度があがりきらないと次のシナリオに進めないので、アイテムを買って攻略するのが、最短ルートである。

 ダダでイケメンとイチャイチャできる──なんて、甘い世界ではなかった。


(なんだか無課金でゲームをしているみたい。転生って、すごいなあ)


 サクラがほうと息を吐き出すと、ブルーノはベッドの横にあった椅子に腰かけた。


「気分はどうかな?」


(はっ……いけない。ボーッとしちゃった)


 サクラは体を起こした。


「もう、大丈夫です」

「それは、よかった。診察をするよ。手に触るからね」


 ブルーノはサクラの両手首を柔らかく握った。


「《探れ》」


 ブルーノが呟くと、彼の手が白く光りだす。


(わっ。手首があったかくなった……)


 驚いて彼の手をまじまじと見た。彼の手からでてくるのは、蛍光灯よりも目に優しい光。キラキラと、白い粒子が踊っていて、サクラは光に魅入った。


(キレイ……)


 もっと近くで見たくて、前屈みになっていると、ブルーノがくすくす笑いだした。


「診察が珍しいかい?」

「……はい」

「そうなんだ。魔法で、きみの生命兆候(バイタルサイン)を見ているんだよ」


(これ、魔法なんだ……)


「魔力の乱れも、脈の乱れもないね」


 白い光が消え、握られた手が離される。サクラは呆然としたまま手首を見つめた。


(わあぁぁ……魔法を体験しちゃった……)


 サクラの目がキラキラと輝きだす。


(魔法があるって、いいな。わたしも使えるようになるのかしら。……あ、でも、ヒロインは魔力が低いのよね……魔法を使うの難しそうかな……)


 ヒロインは眼鏡キャラだらけの学園で、眼鏡をかけていなかった。


 この世界において、眼鏡は魔法使いの象徴だ。

 魔力の源が目にあり、眼鏡は力をコントロールする特別な道具。眼鏡には、持ち主の名前が刻まれ、失くしたら戻ってくる魔法がかかっていた。そのため、とても高価だ。


 魔法使いは特別視されるので、お金がかかっても眼鏡を買うのが一般的だ。


 ヒロインは孤児院出身で、眼鏡を用意するお金がない設定だった。魔力も低い劣等生である。


(ヒロインが魔法を使うシーンって、あまりなかったような……? あ、でも、セオさまは、魔法を使っていたわ!)


 推しが使っていたのは、氷魔法だった。


(画面にしゅばっと、イラストがカットインされて、すごく格好よかったのよね)


 推しが魔法を使うところを生で遠くから見てみたい。せっかくなら、自分も魔法を使ってみたい。


 ワクワクしながら魔法のことを考えていると、ブルーノがくすりと笑った。


「元気そうだね。診察は終わりだよ」


 サクラは慌てて頭をさげた。


「ありがとうございました」

「どういたしまして。セオドアが血相を変えて君を抱えてきたから何事かと思ったけど、大したことがなくてよかったよ」


 セオドアの名前に、サクラは顔色を失い、辺りを見渡した。


(そうだったわ。セオさまはわたしを運んできてくれたじゃない……)


「あの! セオさまは、もう行ってしまわれたのでしょうか!」


 ブルーノは目を丸くしながらも、口を開く。


「うん。セオドアは教室に戻ったよ」

「そうですか……」


(お礼を言いそびれちゃった……)


 がっかりするサクラに、ブルーノが口の端をあげた。


「セオさまか……きみは新入生だよね? それなのに、彼をよく知っていそうだ」

「そんなこと……あり得ません!」


 サクラは必死で首を横にふる。


「セオさまは多くを語らないミステリアスなお方。そんな御方を語るには、わたしは、まだまだ未熟です!」


 サクラは握り拳を作って、推しへの思いを噛みしめた。


「セオさまの一挙一動にどのような思いが込められているのか……! わたしのような凡人では考えつかない境地に、あの方はおられます!……わたしがセオさまをよく知っているなど、おこがましいです!」


 熱弁するサクラに、ブルーノはぽかんと口を開く。たまらず笑いだした彼に、今度はサクラがぽかんとする。


「そうかい、そうかい。きみはセオドアのファンなのかな?」


(えぇっ?! ファンだって、即バレしたわ! なんで!?)


 そんなに好きが漏れていただろうか。


(はっ……もしかして、わたしの好感度が先生に見えているとか?)


 ゲームではキャラとの親密さをあらわす好感度が表示できる項目がある。

 横並びのハートマークが、ピンク色になればなるほど、キャラとの好感度が高まっている証だ。


(ここは、ゲームの世界だもの。セオさまへの好感度が見えていても、おかしくはないわよね!)


 サクラはそう思い込み、辺りを見回す。ハートらしきものは、どこにもなかった。


(好感度は表示されていないわ! え? じゃあ、なんでセオさま推しだって、先生は分かったの……?)


 不思議すぎてブルーノをじっと見ていると、彼は笑いながら、白衣のポケットに手をいれた。懐中時計を取り出して開く。


「そろそろ授業が始まる頃だよ。教室の場所は分かるかな?」

「あ、はいっ! 大丈夫です」


(校舎の見取り図は、完璧に頭にはいっているわ!)


 サクラは前で手をそろえ、ブルーノに頭をさげた。


「お世話になりました」

「ご丁寧にどうも。また何かあったら、ここに来なさい。僕はスクールカウンセラーだ。この部屋で話したことは外には聞こえない魔法がかかっているから、秘密は守れるよ。安心して、何でも話してね」


 ブルーノの説明に、サクラは目をぱちくりとさせる。


(……魔法って防音もできるんだ。魔法って便利ね)


 すっかり魔法に感心してしまった。サクラはもう一度、ブルーノにお礼を言って、医務室をでた。


 廊下を早足で歩いていく。


(わぁぁ……背景イラストのままの廊下だー)


 キャラの背景を彩るイラストは、繊細なタッチで描かれていて、サクラの目を楽しませてくれたものだ。


(このゲームは立ち絵と背景の絵がマッチしていて、素敵だったのよね)


 平面だったイラストに奥行きができている。テーマパークに来たみたいだ。


 教室に向かう生徒にまじって歩いていると、こちらを見る人がたくさんいた。誰もがぎょっとした顔をして、サクラを見ては、ひそひそと話し出している。


(眼鏡なしが珍しいのかな)


 特に気にすることなく、サクラはヒロインが通っていた教室にむかった。


(あ、あった。スペシャル・エッグって書いてある!)


 壁から吊り下げられた旗にクラス名を見つけた。大きな一の文字の下に、特待生をあらわすspecial eggと書かれてある。


(ゲームと一緒!わー! すごーい!)


 ドキドキと胸を弾ませて、サクラは垂れ下がったクラス旗を摘まむ。


(イラストのまま。厚手の生地だわ……)


 好きな世界に触れた感動が身体中をめぐる。


 ちらりと下を向けば、学生服が見えた。


 上着の代わりに羽織っているのはローブ。膝下まである長い濃紺のローブは、厚手でごわごわした手触りだ。まだ固い生地は、耐熱性があり、虫よけの魔法もかかっていた。


 着こんでいくと、目にも鮮やかな藍色になるので、ローブは学年ごとに色合いが違う。一目で何年生なのか分かるものだった。


 ローブの下はパリッとした白いシャツに、クリーム色のベスト。首もとにチェック柄のリボンが付いている。プリーツスカートも同じチェック柄で、靴はかかとが少しあるローファー。


(ゲームでみた学生服を着ている……!)


 サクラの脳裏に、アプリをタップしたときの興奮がよみがえった。



 スマートフォンの画面が黒くなり、イヤフォンから音楽が流れる。ピアノと電子音が混じった優しい調べに合わせて画面は黒から青空へ。

 五人の攻略対象者が現れ、タイトルコールが好感度の高いキャラから告げられる。


 ゲームを起動させたあの瞬間。


 結婚を考えていた恋人に、二番目の女と言われたことも。

 会社で後輩の指導に悩んでいたことも。

 上司からネチネチ言われていたことも。


 すべてが忘れられた。


 サクラにとって、あの時間は、ただただ楽しいものだった。


(ゲームの世界に来たんだな……)


 ほうと息を吐き出して、うずうずと体を震わせる。落ち着くために、深呼吸をした。


(よし、開けよう!)


 サクラは頬を紅潮させて、レバー式のドアノブを下げる。扉を開くと、中にいた生徒が一斉に、サクラを見た。シンと、教室に静寂が落ちる。


(眼鏡なしって、そんなに珍しいの……?)


 注目されるのは苦手だ。サクラは肩をすくめた。


書き溜めがなくなるまで、21時に更新いたします、

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