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攻略前なのに、推しがグイグイくるのですが  作者: りすこ
ミニゲーム① クリア後
16/16

お友達が可愛いです

「あの……エリーさまは、怒ってらっしゃらないのですか……?」


 エリーはうっとりとした笑顔を瞬時にやめて、眉をつり上げる。


「あなたに対しては、怒っているわよ。でも、わたくしに()()()()()()()からという理由なら、許しあげるわ」


 エリーは艶やかに微笑んだ。サクラは目を丸くする。


「何か色々と誤解をしているみたいだから、わたくしのことを少し話しましょうか」


 エリーはベンチから腰を持ち上げ、ティーポットを手にとると、サクラが使っていたカップにお茶をそそいだ。カップをソーサに置いて、サクラの前に差し出す。


「お茶でも飲みながら、ゆっくり話しましょう」


 サクラは呆然としたまま、頷いた。


 エリーは自分のカップにお茶をそそぐと、ベンチに座った。きれいな所作で一口、お茶を飲むと、サクラに向き直る。


「わたくしはセオドアさまのファンだけど、婚約者がいるわよ」

「ぶっ……!」


 びっくりしすぎて、お茶が喉にひっかかった。サクラはむせてしまい、苦しげにうつむく。


「大丈夫?」


 エリーが顔を近づけてくる。


「だ、大丈夫です……っ」


 げほげほ咳き込みながらも、サクラは顔をあげる。


「エリーさま、婚約者がいたのですね……」

「あら、変かしら? よくある家同士の政略。利害が一致したから娘と息子を結婚させましょう、というだけの話よ」


 平然と言い切るエリーに、サクラはほぅと息を吐き出した。


(お嬢様だなあ……)


 しかし、相手が気になる。


「お相手は誰か聞いてもいいのでしょうか……?」

「いいわよ。学園で治癒師をしているブルーノさま」


(えぇっ?! 攻略対象者のひとりじゃない!)


 初日にサクラを治療してくれた先生だ。その彼がエリーの婚約者。


(そんな設定あったかしら……?)


 ゲームのあらすじを思い出す。


(ブルーノ先生のルートって、ザ★略奪愛って感じのシナリオだっはず……ライバル令嬢が出てくるのよね)


 彼には婚約者がいたはずだ。その婚約者とブルーノはうまくいっていなかった。だから、ヒロインが割り込めるシナリオだったのだ。


(ということは、エリーさまが、そのライバル令嬢?)


 サクラはエリーを見つめた。


(そうなると、エリーさまとブルーノ先生はうまくいっていないのかしら?)


 エリーをじっと見つめると、彼女が目を吊り上げた。


「ブルーノさまと婚約者なのが、そんなに変かしら?」

「いえ、そんなことはありません。ただ、ブルーノ先生は寛大なんだなと思いまして」

「寛大?」

「はい。ブルーノ先生は、エリーさまのファンクラブ活動を許しているんですよね? 心が広いと思います」


 婚約者が他の男性に夢中なのは面白くないだろう。それを許すのは、心が広いか、相手に興味がないかのどっちかだ。


(エリーさまが婚約者に冷たくされるのは嫌だな。ブルーノ先生の心が大海原のように広いことを願うわ)


 そう思いながらエリーの答えを待つ。しばらくして、彼女は目をすがめた。


「……学生時代は好きにしていいって、親からも言われているのよ。あの方は、わたくしをからかうばかりで、さほど興味はないの」


 うつむいたエリーに、サクラはこてんと首をひねる。


「からかうのに、興味がないんですか?」

「……子供扱いするってことよ。頭を撫でてきたり、不意打ちのように抱きしめてきたり……わたくしの都合はおかまいなしなの」


(ふむふむ。つまり、これは)


 サクラはぐっと握りこぶしを作った。


「ブルーノ先生はエリーさまが大好きなんですね!」


 エリーの顔が、かっと火がついたように赤くなる。


「なにを言っているのよ……好きなら相手を思いやるはずでしょ?」

「思いが重いんでしょうね。大好きすぎて、すぐ触っちゃうタイプなんでしょう」

「触って……て」

「ちなみにエリーさま。ブルーノ先生とは、会う頻度はどのくらいですか?」

「え?……毎日、会っているけど……」


(毎日! はい! 溺愛確定です!)


 サクラは菩薩のような笑顔になる。


「……エリーさま。興味のない相手と、毎日、会いたいと思いますか? たとえば、クラスメイトのライさんは、エリーさまの興味外だと思いますが、毎日、会いたいですか?」

「……会いたくないわ」

「では、無理やり会うことになったら、どうしますか?」

「……一言も話したくないわね」

「そうでしょう。そうでしょう。つまり、ブルーノ先生は好きでエリーさまとお会いしているのです」


 サクラは元カレのことを思い出して、菩薩の微笑みを継続する。


「男は興味のない女には、金も手間もかけません。会う頻度が極端に減るものですよ」


 サクラは説得したが、エリーはまだ納得していないようで、ふいっとそっぽを向く。


「……それでも、子供扱いしすぎよ。頭を撫でられるのも、頬をつっつかれるのも、わたくしは好きではないわ」


 強い口調で言うが、彼女の横顔は照れているようにしか見えない。頬にさっと入った朱色も、つり上がって細くなった目も可愛くて、ちょっかいを出したくなる。


(ブルーノ先生の気持ち、わかるわぁぁぁ)


 大して会話をしていないのに、サクラはすっかりブルーノに同調していた。


「しかたありません。エリーさまは、可愛いすぎます」

「……何を言ってるの……」


 じろりと睨まれるが、さきほどよりも顔の赤みが強くなっている。鼻先まで眼鏡がズレているのに、エリーは気づいていないようだ。


(眼鏡をなおしてあげたくて、ウズウズする……)


 そんな煩悩を払い、サクラは女神のように微笑む。


「エリーさまは可愛くて、お優しくて、素敵な女性です」


 エリーは言葉を詰まらせ、眼鏡のズレに気づいて、両手で端を持ち上げた。


「……あなたと話をしていると、悩んでいることが馬鹿らしくなるわ……」

「それは、褒めているんですね」


 ふふっと笑うと、エリーは嘆息した。気を取り直すようにお茶を口に含む。茶器を見つめながら、彼女は呟くように言った。


「……あなたなら、いいかも」

「え? なんですか?」


 声が聞き取れなくて、顔を近づけると、エリーは艶やかに微笑んだ。


「なんでもないわ。話はそれだけど、わたくしには婚約者がいるし、セオドアさまは遠くで見ていたい方なのよ」

「そうなんですか……」


 サクラが想像していたファンクラブ内でのセオドア争奪戦は、なさそうだ。少なくともエリーは争う気がないらしい。


「わたし、勘違いをしていました。すみません……」

「ふふっ。いいのよ。それよりも、ねぇ?」


 エリーの瞳が妖しげに煌めきだす。サクラはビクッと震えた。


「ブルーノさまは、セオドアさまと親しいのよ」

「そうなんですか」

「だからね。ブルーノさまに頼んで、セオドアさまを呼び出すわね」

「え?」


 エリーはにっこりと笑った。


「あなたはわたくしの特別なお友達。今度、四人でお食事をしましょう」


 エリーの微笑みを見て、サクラは顎が外れてしまうほど、口を開いた。




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