元殺し屋、英雄へ転職希望
第3話です!誤字脱字等あったら指摘お願いします!
(おかしい、遅すぎる)
薄暗い部屋の中で苛立っている男がいる。青年よりも歳をとっているがまだ20代だろう。その男こそ、王女殺害を企てた西の城下町を治めている騎士団長ウクラス本人だった。
彼が苛立っているのは、部下からの報告が異様に遅いからだ。王女の殺害が済み次第狼煙をあげろと言ってあるし、狼煙を見逃さぬよう見張りも3人立ててある。あの騎士達には王女を適当な場所で殺してさも激闘を繰り広げたかのような重傷で帰って来いと命令した。それが、もう1時間は経っている。
(まさか本当に強い魔獣にでも襲われて全滅したか?王女さえ死んでいれば問題は無いが…)
そんな事を思案していると、
「失礼します!間もなく巡回の時間になります!」
「もうそんな時間か、分かったすぐ行く」
報告をした騎士はすぐに部屋を出ていった。
(まあ良い。巡回から戻って来て奴らが帰って来て無かったら捜索隊を出そう。あの娘に森を生き抜く術はない。どう転んでも、私の計画に支障は無い。)
ウクラスは鎧を身に付けると、昏い笑みを浮かべて部屋を出た。
「これ、着といてくれる?」
「何ですか?これ」
「認識阻害の魔法がかかったフード。顔が割れてるだろうし、一応ね」
「は、はい。にしても、服の中に随分色々と入れてらっしゃるんですね。幾つぐらい入ってるんですか?」
「大体、20個ぐらいの武器とか入れてるかな?護身用とか結構多方面で役に立つし」
20個というのは嘘の数値だ。本当は30個ほど入れてある。相手がどれだけ無害そうでも自身の生命線となり得る情報を簡単に教える訳にはいかない。
「お前達!ここから先は王都に面する城下町だ!通行手形を見せてもらおうか!」
「これでいいですか?」
「うむ!2人分、確かに確認した!」
門が開かれた。
「私の通行手形、いつの間に作ったんですか?」
「あー、色々とね」
彼女の分の通行手形はザイトが偽りで作った物だ。嘘の通行手形で通ったなんて言えない。
「とにかく、進もう。ウクラスって人の情報を集めたい」
「分かりました」
こうして2人は城下町に入る事に成功した。
「ウクラスさん?ええ、良い人よ。」
「ああ、彼は良識者じゃよ。この前話した時もこんな年寄りに付きおうてくれたわ」
「このお菓子ウクラス兄ちゃんがくれたー!」
「話を聞く限り良い人っぽいね」
「ええ、本当に私を殺そうとしたのはウクラス殿何でしょうか…」
「もう少し調べたいな…ん?」
ザイトが目を向けたのはある林だった。人など到底住める場所のなさそうなその奥から煙が上がっている。それも幾つもだ。奥に村でもあるかのように。
「すみません、あの奥に村でもあるんですか?」
「ああ、あそこはね…」
あまり大きな声じゃ言えないんだけどと前置きした後で、
「あそこは税金とかを納められなかった人達が送り込まれているのよ」
「え?」
「ウクラスさんの意思なの。ろくに税金も払えないような輩を町に置いておく必要は無いって」
「そんなの…」
「そんなの、酷すぎます!」
ザイトの言葉を遮って彼女が叫んだ。
「私達の中にもそう思っている人はいるけど逆らったら同じ扱いを受けるし…」
「同じ扱いって?」
「税金を多く課されたり、町で何かを買う際に不当な金額になったり…」
壮年の女性から告げられるのは、どれもこれも残酷と言える事実ばかり。まるで人として扱っていない様だ。
女性と別れた後、2人はその林に向かって歩き出した。その道中もイフールは何か思い詰めた様な表情をしていた。
「どうかしたの?」
「いえ、ただこんなにも酷い現実があるなんて…」
「ずっと王城で育ってたんでしょ?だったら知らなくても無理ないよ」
「それはそうかもしれませんが、この国の王女としてこんな事実を見過ごしていたというのは自分が許せません」
イフールは、良くも悪くも優しくて世間に疎い。まだまだ国を背負うのは先だというのにここまで国に対する自覚を持っているというのは素晴らしい。しかし、彼女の身は安全とは言えないだろうなとザイトは予感していた。
「着いたよ、ほら」
ザイトはそうして到着をイフールに伝えた。その林の中には、小さいながらも確かに村と呼べる集まりがあった。
「本当に村がありましたね…皆さんの顔に活気かまありません」
「旅人の方ですかな?」
不意に話しかけられてザイトは慌てて距離を取る。
「そう警戒しなさんでもただの老いぼれですよ。御二方は観光ですか?」
「まあ、そんなものです」
明るい口調で質問した後、老人は急に声のトーンを下げて、
「悪い事は言いません。すぐにこの村からは帰りなされ」
「何故です?」
「ウクラスがいるからです」
これまでに会って来た誰とも違い、その老人は騎士団長への嫌悪感を表情や声にあらわにする。
「我々と深く関わっていればあなた方まで何かしらの介入を受けかねない。そうなる前に、」
「あなた方はどうしてこんな所に?」
「…たった1度税金を納めるのが遅れただけです。ここにいる者のほとんどはそのような者達です。病気の為や両親の介護だったりで税金を払えなかった者達が迫害されているのです」
目を伏せて嘆き悲しむ様に老人は呟いた。希望も、光明も、遥か彼方に忘れてきてしまったかの様に。
「酷い話です!許せません!」
黙って話を聞いているザイトと違ってイフールは怒りを抑えきれていない。
「あなた様の様に怒りを抑えられずウクラスの屋敷へ強襲を仕掛けた者共がいました。しかし、誰一人として帰って来ませんでした。」
遠く、2度と言葉を交わす事が出来ない仲間達に思いを馳せる様に目を細めて、
「もう、疲れました。我々にはこの生活を分相応として生きていくよりないのです。」
「そんな…」
きっと、老人はこれまでにも無謀な戦いに身を投じては消えていった者達を見てきたのだろう。そしてそれを止めようとしたのならば、当然心は擦り切れて限界が来ているはずだ。
(どうにかしてあげたいけど証拠が無けりゃ…ん?元々はイフールの殺害計画について書かれた証拠を目指してた訳だから1つ増えた所で問題無いよね?良し…)
「僕が証拠を取って来ますよ」
「何!?」
「そんな事可能なのですか!?ザイトさん」
「うん、前に潜入任務もやった事があるし」
「潜入任務?」
「あ、こっちの話だから気にしないで」
ザイトは元々ウクラスの屋敷からイフールの殺害計画に関する証拠を取るつもりだった。1つ増えた所で変わらないと判断したのだ。だが、
「いけません!自ら死にに行く様なものですよ!」
当事者である老人が必死に止める。自分達を救う為に証拠を取りに危険な場所へ行こうとしているのだから当然だろう。
「大丈夫ですよ。すぐに帰って来ます」
「そうはいっても…」
「大丈夫です」
一見何の根拠も無い空虚な言葉だが、その目には確かな自身と覚悟が宿っていた。それを見て、これ以上は無駄だと悟ったのだろう。
「…せめてこれを持って行きなされ」
「これは?」
「かつてウクラスの屋敷に奇襲を仕掛けた若者達が手に入れた屋敷図だ。次の有志を持つ者達に引き継いで欲しいと残していった」
そうして差し出されたそれは古く、汗が染み込んでいる。きっと老人が今より若い頃の物だろう。重みの詰まった屋敷図をザイトは受け取った。
「くれぐれも、気をつけてくだされ」
「はい」
そして、夜が来る。
「ザイトさん。気をつけてくださいね」
「うん。あ、誰が来ても部屋を開けないようにね」
「分かってます!」
こうしてザイトは夜闇の中出発する。ザイトは図の通りに裏口へと行き、屋敷内に侵入する。屋敷の中は幾人もの騎士が見回っている。統率されており、流石に隙がない。
(しょうがない、手荒な真似はしたくなかったけど)
内側のポケットから何かを取り出す。それを床に向かって投げつける。その筒から煙が吹き出して、
「な、何事だ!?」
騎士達がうろたえるが、すぐに倒れていく。皆眠らされているのだ。
「よしっ行くか」
気持ちを新たに再び進み出す。奥に辿り着くと、豪奢な扉を見つける。書斎と書かれており、扉を開けて中に入る。あの煙の効力は10分程だ。急いで2種の書類を探す。
「あった!」
イフールの殺害計画に関する物と、村の人々から奪っている不当に高額な税金に関する物だ。もう、時間が無い。慌てて窓を開けて飛び降りる。咄嗟に受け身をとって身を守り、挙動そのままに走って門を飛び越え、逃走した。
荒らされた書斎を目の当たりにしたウクラスは、
「何が何でも犯人を見つけろ!出来なかった奴らは全員処刑だ!」
「は、はっ!」
(どこの誰だか知らんが俺に手を出した事後悔させてやる)
ウクラスは拳を強く握り締めた。
「ただいま」
「ザイトさん!お帰りなさい!」
窓から宿に帰ったザイトはイフールに声をかけられた。
「無事でしたか?」
「うん、どうにか。あ、これ証拠の書類」
「ほ、本当に2つ取って来たんですか!?凄いです!」
「思ったより楽だったよ。それはそれとして…」
ウクラスがこのままにしておくとは思えない。部下はともかく団長である彼は仕留めておくべきだろう。
(確か毎日巡回してるんだったよな。なら…)
「イフール、君の力を貸してくれるかい?少し危険が伴うけど…」
「大丈夫です!私に出来る事なら何でも」
「良し、なら決まりだ」
ザイトは明日の為の作戦を練る。あの村の人々の笑顔を取り戻す為に。
そして、朝がくる。
決戦の、朝が。
短編の出し方が間違っていた事に今更ながら気付きました!反省!