表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/211

3.3

「お前、クソ雑魚だな……」


目の前にカード、チェスの駒、ボードゲームのいろいろなコインやらアイテムやらが散らばる。結果は惨敗。勝ちにかすりもしない。


「強すぎるよ!」


自分で挑んできたのだ、強いだろうことはわかっていたが、ここまでとは。実はカードは多少自信があったのだ。よくギルドで賭けゲームをやって仲間たちから売上を巻き上げたこともあった。しかしトリスタンの強さは比較にならない。


「トリスタン、お前、以前より強くなったんじゃないのか?」


エストはソファに座って対戦の様子を眺めていたが、興味深そうに尋ねた。


「暇さえあれば街に降りて強いと噂のやつと手合わせしてたからな。少し前までは色々な大会を色々な名前で総舐めしていた」

「そんなの勝てるわけないじゃん!!」


ユーリは思わず叫んだ。


「陛下は俺ごとき歯牙にもかけなかったからな」


トリスタンはふん、と吐き捨てた。


「次は外へ行くぞ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「はぁー、球技、弓術、槍術、今のところてんで駄目だな」

「うぅ、さっきよりはマシだと思ったんだけど……」


(さすがは魔王の配下、強すぎる……てゆうか槍とか弓とか触る機会無いんだよね。少し勉強になったけど)


「昨今の冒険者とはそんな程度なのか。体術、剣術もたかが知れてるな。どうする、まだやるのか?」


自分のことだけでなく冒険者全体が侮られてしまうとは、引くことはできない。


「ぜひお願いします!」



数種類ある剣の中から重すぎず、握りの良いものを選んだ。足元の状態を確認し、トリスタンに向き合い構える。息を吸い、彼に斬りかかる。即弾かれるが、続けざまに斬りかかる。連撃を打ち合う金属音がしばらく続く。


「さっきまでのゲームよりかは遊べそうだな」

「剣術、体術はリリスが作ったゴーレムさんで訓練してたからね。並の冒険者よりはマシだと思うよ!」

「ふん、雑魚が調子づくな。人形では実践的な戦いは学べないだろ」

「わっ」


ニヤッと笑ってトリスタンが足をかける。ユーリは見事にハマって仰向けに転がる。逆光のトリスタンの目が光ったのが見えた。瞬時に頭を避けると、頭のあった位置に剣が突き刺さっている。


(このやろっ、本気で殺りにきやがった……)


飛び上がって起き上がり、距離を取ろうとする。が、トリスタンはそれを許さず一瞬で距離を詰めてきた。


「くっ」

(なんとか受け止められたけど、防戦一方だ……どうにか打開しないと……)

「オラっ、さっさと降参してエストラーダにでも助けを求めろよ! でないとマジで殺すぜ」


トリスタンは今までのゲームで見せていたやる気のない表情とは別の、残忍な顔をしていた。どうやら戦いの中でスイッチが入るタイプらしい。


(ちょっと卑怯かもだけど、アレを使わせてもらおうかな)


連撃の中、トリスタンの剣を弾く腕に力を込めた。彼の目は驚きに見開かれ、一瞬の隙が生まれた。ユーリが小さく何かを呟くと、耳にしていたピアスから閃光が迸る。


「くぅっ」


トリスタンの目がくらんでいるうちに、脚に集中して力を込め、一瞬にして彼の背後にまわる。


ピタッと、彼の首筋に剣を当てる。


風圧で彼の首に傷が付き、血が垂れる。と、びり、と空気が痺れる感覚に襲われた。


「俺の血を流させるとはな……」


トリスタンの目は完全に据わっていた。彼は剣を振り上げた。


「そこまでだ」


エストがトリスタンの剣を止めていた。


風圧だけがトリスタンの殺気の名残をユーリに感じさせた。


「ふぁっ……」


ぺたんと地面にお尻が付き、気づいたら腰が抜けていた。


「立てますか?」

「腰が抜けちゃったみたい……」

「それでは……」


エストがなぜか嬉しそうな顔をしたと思ったら、ユーリは彼の腕の中にいた。お姫様だっこされている。


(腰が抜けて騎士様にお姫様だっこされるなんて、冒険者の恥……。ギルドの冒険者仲間には絶対言えない……)

「おろして」

「ユーリを地べたに座らせておくなんてできませんね」

「はぁ……」


どうせエストは聞き入れてくれないから早々に諦めた。役得だとでも思っているだろう。

ユーリは抱きかかえられながらトリスタンに手をのばす。


「傷をつけてしまってすみません、大丈夫ですか?」


トリスタンはユーリの手を払いのける。


「こんなのすぐに治る、構うな」


そのままトリスタンはスタスタと屋敷の中に入っていった。彼はどかっとソファに座り込むと、繊細なティーカップの紅茶をごくごくと飲んだ。

エストはゆっくりとユーリをソファに腰掛けさせ、自分も隣に腰を下ろした。


「エストラーダ、お前の希望を叶えてやる。これで満足だろ、さっさと帰れ」

「あぁ、そうだな。それでは帰りましょうか、ユーリ」

「ちょっと待って」


帰りそうな流れになるのを慌てて引き止めた。


「侯爵様、恐れ入りますが、ゲームを始める前に約束していただいていましたよね。私がゲームに勝ったら『私達の』希望を叶えるって」


途端にトリスタンの目が剣呑な光を帯びる。


「なんだ人間、吸血鬼の血がほしい、とでも言うつもりか?」

「まさか! 私がほしいのは……」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ