表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/211

1.1

「姫様! お目覚めの時間です!」


ユーリは朝日が眩しくてベッドの中でもぞもぞ動いた。

リリスがベッドの横で起こしてくる。まだ寝ていたい。


「姫様、起きないとお仕事に間に合いませんよ!」


目をしょぼしょぼと開きながら起き上がる。

リリスが長い赤毛を梳いて結ってくれる。


「嫌なら行かなくてもいいんですよ。私は冒険者なんて危険な仕事、反対なんですからね」

「ダメ、今日はアミールさんたちのパーティーのヘルプの予定だから」


まったくもう、と呟きながらリリスは朝食の支度に降りていった。


リリスは育ての親だ。魔女として薬の販売や呪術の治療などで生計をたてている。

育ての親といっても見た目は20代くらい、ピンクのふわふわの髪にくるりとした目が可愛らしいお嬢さんだ。お客さんからよくモテる。


物心ついた頃には自分の前世が魔王であるということを知った。リリスは魔王時代の腹心の部下であったらしい。


前世魔王だったといっても、今世は取り立てて目立つところもないないただの人間として、二人で市井に紛れながらのんびり暮らしている。


人間になったユーリは魔法を扱う才能が全くなかったらしく、Fランクのソロ冒険者として薬草採取など他のパーティーの助っ人として細々と活動していた。


過保護なリリスは当初は冒険者の仕事に反対していたが、ユーリが折れないとわかると『私が一緒に冒険者になるのでパーティーを組みましょう』と言ってくれた。

だがユーリとしては保護者同伴で仕事に行くなんて絶対嫌だった。何より、恐らく超高位の魔法使いであるリリスが冒険者登録なんてしたら、ギルドどころか街が大騒ぎになってしまうのが怖かった。


「たっぷり食べて、立派な魔王様になってくださいね」

「魔王様になんてならないって」


にっこり笑いながらリリスがご飯をよそうが、いつも通りスルーする。

魔王ではなく、立派な冒険者になりたいのだ。


「行ってきます」「お気をつけて」


いつも通りの挨拶を交わし、ギルドに向かう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おはようございます」

「ニッツさん、おはよう。アミールさん達はもう来てる?」


ギルド受付の笑顔の素敵な女性、ニッツに挨拶する。


「ええ、あちらの奥に。今日はエールの西洞窟の探索とアイテム収集でしたね。気をつけてくださいね」

「うん、ありがと!」


テーブルに行きがてら、他のテーブルの馴染みの顔に挨拶していく。


「おはよう、エッフェン。今日も愛刀のメンテに余念がないね」

「おはよう、アイルズさん。今日も狩り日和だね」

「エド、なんか耳寄り情報があったらまた教えてね」


日頃の挨拶は重要だ。

ふん、とか、おう、とか、あいよ、とかそれぞれと気安く言葉を交わしながら雑然と並ぶテーブルを奥へと進む。


「アミールさん、おはよう。今日はよろしく」

「おう、来たか! 荷物持ちのつまらない仕事で悪いが頼む!」


アミール達は戦士、魔法使い、弓使いの3人、Bランクのベテランパーティだ。

アイテムや道具類の運搬など、Fランクで依頼の少ないユーリによく雑務を頼んでくれる。

日頃のコミュニケーションの賜物だ。


今日の任務は街の西側エール地方の洞窟内のレアアイテム採取だ。

あそこはそれほど強い魔物も出ないはずだから余裕このメンバーなら余裕だろう。


(早く帰ってリリスにおいしいお肉でも買って帰ってあげよう)


ユーリはワクワクしながら冒険に出発した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


元気よく出ていく彼らを、依頼受付のカウンターから見つめる人物がいた。


「あんな華奢な女性も冒険者なのか」

「ユーリさん? 立派な冒険者ですよ」


受付のニッツさんが朗らかに応える。


「ユーリさんはああ見えて物凄い怪力の持ち主で、資材の運搬にとても助かると冒険者の中で人気ですよ。それにあの人柄ですから」


青年はフードを深くかぶり直してつぶやいた。


「あんな細腕で怪力なんてあるのか?」

「身体能力を強化する魔法が得意なんですよ。それに薬草の知識も詳しい。知り合いの魔女さんに教わったそうです」

「魔女!? 何という魔女だ」


青年は勢い込んで聞き返す。ニッツは勢いに圧倒されつつ、笑顔で返す。


「魔女リリス……この辺りでは有名な魔女さんですよ」

「そうか……ここにいたのか。それで、その魔女殿はどこにいる?」


青年は嬉しそうな呟きに、ニッツは困ったような顔をした。


「リリスさんを探していたんですね。ですがお一人で行くのはオススメしません。彼女の住む沼地は魔獣が多く、さらに呪われた土地と言われています。

突如一晩火柱が上がったり、三日三晩落雷がその地目掛けて降り注いだりするような場所、だそうですよ」


ニッツは脅かすような事を言う。


「それに、彼女の家を知る人はほとんどいません。彼女が街へ降りてくるのは早くて一ヶ月後でしょう」

「そんな……。早く会わないといけないのに」


青年は顔を歪める。ニッツはにこっと笑った。


「それでは、ユーリさんにご依頼ください。きっとあなたの期待に応えてくれるでしょう」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ