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埋葬したのは最後の祈り。  作者: 淡月 涙
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ギルティライン

「アスラ!」


叫んだ拍子に繋がれた鎖が鳴る。

それと同時に、現国王がアスラを鞭で叩く。其の度にアスラの服が破けて素肌が晒される。服の上からでも痛いのに直に肌を打たれるのは物凄く痛い。その痛みを僕らは知っている。


「ここまでされても謝罪は無しか?強情だな」


現国王は嘲笑しながら鞭を振るった。それを側で傍観しているのは、現国王の妃と先日僕らが対面した皇子達。彼らは僕らを憎んでいた。あの日、学園で起きた事を根に持っている。それを現国王に伝えたらしく、激怒した現国王は衛兵を放ち、僕らを城に連行した。


「灰族の犯した罪は、飼い主であるお前の務め。罰を喰らった気分はどうだ?アストライア」


鞭が撓り、血が飛び散る。

拘束されたアスラは四肢を鎖で繋がれ、抵抗もままならない。

もう何時間も鞭で打たれており、肌には赤い傷跡がいくつも付けられていた。


「仰っている事の意味が解りません」


アスラは苦しむどころか、笑みを含んだ表情で現国王に食らいつく。


「私の可愛い息子を、お前の馬鹿な犬が殴ったそうじゃないか。王族に手を挙げるとはいい度胸だ。その罪が重い事を知らない訳ではないだろう?」

「……そちらにも非はあったので、此方だけ責められる意図が解りません」

「非など無い!息子達は当然のことをしたまでだ」

「灰族だからですか……?」

「そうだ。そういう身分だと誰もが知っている。灰族に対しての冒涜は罪にはならない。痛めつけようが殺そうが罪には問われない。お前も重々承知していると思っていたのだがな」

「生憎ですが、私は二人を灰族などど思った事など一度もございません。彼らも人間です。それ相応の権限はあります!」

「黙れ!」


バシっと痛い音が響いた。先程よりも血が滴っている。もう肌は切り裂かれ、鞭にも赤い染みが食い込んでいる。


「それ以上、口答えするならあいつらの片方を殺す」

「何故ですか!二人には何もしないとの約束の筈です!」

「お前があまりにも強情だからだ。私の気分も変わって当然だろう。灰族ごときに約束もクソも無い。どちらかを目の前で殺してやろう」

「やめて下さい。どうか、二人には手を出さないで下さい!」

「いいご身分だな。私に命令出来る立場か?」

「……二人は私の家族です。奪うのはやめて下さい…」

「よくもまぁ、灰族を家族などと言えるものだ」

「…お願いします…」

「ならば謝れ。私の息子を殴った事、馬鹿にした事全て」

「……仰せのままに」


現国王は衛兵達に目線で指示を出し、アスラを鎖から解放させた。傷つけられた身体から痛みがこみ上げてきたのか、アスラは立っている事すら難しい状態だった。


こうべを垂れて許しを乞え」


アスラはふらつきながら姿勢を取る。痛みで動くのもしんどそうなのに、現国王は容赦なく見下している。


「…この度の無礼…誠に申し訳ありませんでした…」

「聞こえないなぁ。もっと声を張って貰わないと私も判断出来ないよ」


あんなにアスラを打っておいて、声を出すのも辛い筈なのに、現国王はただ嘲笑ってこの状況を愉しんでいる。アスラは息を整えながら今度は城内に響き渡る程の大声で謝罪を述べた。


「滑稽だな」


卑し気な笑みを浮かべながら現国王はアスラの前にしゃがみ、無理矢理顔を上げさせた。


「お前は踊りが得意だそうだな。私にも見せてくれないか?」

「…えっ…」

「昔はそうやって金を稼いでいたのだろう?妖艶な舞を見せては男たちから金を毟り取る踊り子がいると聞いた事がある。お前の事なのだろう?」


アスラは何も答えない。否定も肯定もしないのは、それが事実であることを僕は知っていた。沈黙は時に答えを悟らせてしまう。


「舞ってみせなさい。そうすれば、あいつら共々解放してあげよう」

「…本当ですか?」

「あぁ。お前が綺麗に踊ってくれたらな」

「…分かりました」


僕らはただ見ている事しか出来なかった。

痛めつけられた身体をアスラは必死に動かし、軽やかに舞踊った。

それに満足したのか、現国王は約束通り僕らを解放してくれた。




家に着いた途端、アスラは倒れこんだ。

すぐにフィーレンが治癒を施す。傷が多いため時間は掛かったけれど、綺麗に治った。

それでもアスラは疲労が拭えず、一日眠り込んでしまった。


「ボクの所為だ…。あのバカ息子を殴ったりしなければアスラが傷つくことなんてなかった!」


フィーレンはずっと自分を責め続けていた。

僕は支える事しか出来ない。何が正解で間違いかなんて分からない。

そもそもの間違いは、アスラと僕らが出逢った事なんじゃないかと思いたくないことまで思考を巡らされる。

僕らはずっと虐げられたままで、アスラは何も知らずに平穏に暮らしていたなら、こんな事にはならなかった。

けれど、出逢わなければ僕らはいずれ死んでいた。殺されていたかもしれない。

その道から遠ざけてくれたアスラを、僕らは傷つけてしまった。

僕らのせいで、負わなくてもいい傷を背負わせてしまった。

失態だ。最低な仕打ちだ。

そこまでして生かされていい存在なんかじゃない。


「リーファ」


その夜、フィーレンは静かに僕を呼んだ。


「……アスラは?」

「まだ眠ってる。だから今の内だと思う」

「…なにが…」

「罰を受けに行く。本来ならボクが受けなきゃならない罰だ。だから…」

「待って。それは違う…。そんな事したらアスラが耐えた意味が無くなる」

「でも…!」

「フィーレン。もう…行動するのはやめよう…。僕らは外に出ちゃ駄目なんだよ。大人しく家の中で飼われてた方が誰にも迷惑掛けない。アスラにも危害が加わる事は無い。余計な事をしてまたアスラが身代わりになるのは嫌だよ…」


僕は必死に訴えた。それが一番いい。僕らが何もしなければ誰も傷つかない。アスラだって笑っていられる。今の生活を続けたいならそうするしかないんだ。


「…ごめん、リーファ…。お前まで泣かせて…」

「フィーレン…」

「リーファの言う通りだ。大人しく過ごそう。もうこんな事はまっぴらだ」

「…うん」

「アスラが起きたら一緒に謝ろう。それでまた、笑顔で朝を迎えよう」

「……うん。そうしたい」


フィーレンはぎゅっといつもより強く僕を抱きしめた。

こんな夜は二度と過ごしたくない。

そう、誓ったはずだったのに……。





この数日後。

フィーレンは、僕を庇って死んだ。

もう、願った幸せは僕らには降り注がないのだと、痛いくらいに思い知った。



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