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埋葬したのは最後の祈り。  作者: 淡月 涙
11/14

最愛

「全ての悪い事は、キミが引き起こしているんじゃないか?」


現国王は、僕を嘲笑しながら煽ってきた。

アスラとの買い物中、人混みの中でアスラと距離が出来た瞬間を狙われ、後ろから何かを嗅がされて連れ去られた。

気が付いた時には、見慣れた王室にいた。かつて幸せに暮らしていた部屋だった。そこに、単独で入ってきたのが現国王。側には衛兵もあの兄弟達もいない。一人でも危害は無いと見くびられているのだろう。何も考えずに襲ってやろうと思ったけど、両手を後ろに拘束されていたから抵抗すら叶わなかった。


「そう思わないかい?アストライアも、灰族なんか引き取らなければ友人を失う事も無かっただろう。フラン・ティラミスもあんな死に方はしなかった筈だ。全部、灰族であるキミ達兄弟の所為だよ。兄も失って独りきりでは生きていけまい。これ以上、最愛のものを失いたくはないだろ」


これは催眠でも掛けられているのだろうか。

もしくは洗脳か。

この男にそんな高度な能力があるとは思えない。


「そんなことを言う為だけに僕を攫ったの?」

「キミにも罰を受けて貰わなければならないからね」

「……今更?人を傷つけて楽しい?」

「お前は人では無いだろう。人間の権利を奪われた灰族だ。この世界で一番可哀想な存在だ」

「そうしたのはあんただよ。僕たちの両親を殺して、国王の座を奪い取った。罪があるなら、あんたも償わないといけない」

「事実などどうにでも出来る。元からお前達は呪われていたんだよ」

「……そう思っていればいい」

「先程から私に対して随分な態度だが、改める気は無いのかな?」

「更々無いね」


バシッ


大きな手で頬を打たれ、一瞬目の前が揺らいだ。

現国王の表情から苛立っている事が見て取れる。分かりやすい人。


「このままセンターに送り付けてやってもいいんだぞ」

「……初めからそうしなかったのは、何か企んでるからでしょ?僕を殺すの?」

「そうしても良かったんだが、もっと良い事を思いついたからな。私が殺しては勿体ないだろう」

「そうやって、自分の手は汚さないんだね……。そういうの、何ていうか知ってる?」

「私を見下しているのか?」

「卑怯者って言うんだよ。あんたは我儘で無いものねだりしてるだけだ!」

「黙れ!」


また同じ所を打たれ、今度は口の中が切れてしまった。

痛みより血の味に顔をしかめた。


「怒ったって事は本当なんだろ?そんな気が短くてよく国の頂点に立っていられるものだ」

「それ以上、余計な口を利くなら舌を切り離してやる」

「国王様はさ、自分がされて嫌な事を他人にする人だよね。反撃される事は無いって自信に満ちてる。何であんたが父様と兄弟なの…。だから出来損ないって言われるんじゃないの?」

「五月蠅い!」



ドンッ


思いっきり壁に突き飛ばされ、背中を打った衝撃で咳が出た。

ああ、駄目だ。また過去の主人達が浮かんでくる。あいつらも気に入らない事があるとすぐ手を出した。殴って蹴って只管罵声を浴びせて、痛めつけてきた。目の前の男もそいつらと同じ種類の人間。なんでこんな奴らが人間扱いされて、僕らが虐げられなければならないんだろう。


「減らず口を!」

「父上」


入ってきたのはシドとミラノ。もう何度顔を合わせているんだろう。


「そのまま暴れたら城が壊れます」

「あと伝言が」


シドが現国王に耳打ちする。僕の事など眼中に無い様で。清々しいとさえ思うよ。


「そうか。楽しみはこれからというものだ」


ニヤッと浮かべた卑しい笑みに背筋が凍る。


「お迎えが来たそうだぞ」

「…えっ」


ドォンと勢いよく部屋の扉が吹っ飛び、噴煙の中からアスラが現れた。

息を切らしてはいるが落ち着いた様子だった。


「リーファを返して下さい」

「こいつが勝手に侵入してきたんだ。返すも何も我々は悪くない」

「そうですか。では、連れて帰ります」

「アスラ…」


迎えに来てくれると信じてた。必ず助けに来てくれる。アスラは僕の思いを裏切らない。


「この傷は…」

「王様に殴られた。背中も痛い…」


そう伝えるとアスラは現国王に向き直った。


「リーファに暴力を振るったのですか」

「そいつが私を怒らせるからだ。アストライア、躾はきちんとしておかないとそいつは誰であろうと噛み付くぞ」

「貴方が余計な事を仰ったから手を挙げたのでは?」

「…は?私の言うことを信じないのか?」

「元より忠誠は誓っていません。貴方を国王だなどど認めるものか」

「何という態度!父上に向かって無礼な!」


兄弟が目の色を変えてアスラに立ちはだかった。


「退いて下さい」

「帰しはしない。父上に謝れ!」

「謝罪しなければ、お前を捕らえるまで」

「貴方達は父親の遺伝子を色濃く受け継いでいるようですね。常に自分たちが正しいと思い込んでいる。誰も苦言を呈さない。そんな世界で育ったら、自己中にもなりますよね」


含み笑いを向けながらアスラは容赦なく言葉を放った。

現国王も息子達の悪口を言われ、怒りを露にしている。


「殺す!お前らなんか死ねばいい!」

「どうぞ。殺してみなさい」


挑発紛いの言い方をし、アスラは彼らを煽った。

兄弟達が怒りに任せて攻撃を放ってきた。当たれば身体が真っ二つになるような鋭い能力。けれどアスラに当たる事はなく、部屋の中のものをズタズタに切り裂いた。自分の能力を過信している彼らにアスラが殺される訳無い。

すぐに反撃をしたアスラはものの数分で兄弟を地面に転がした。あっという間の出来事。現国王も腰を抜かしてアスラを見上げている。


「躾がなっていないのは貴方の息子達ではないですか?国王様」


それだけ言うと、アスラは僕を連れて城から出た。

追手は来なかった。

そのまま帰路につき、アスラに手当をしてもらった。

サキール達にも心配され、傷以外の痛みは無い事を告げると安心した様子だった。

元奴隷であるサキール達は外には出られない。見つかればまた連れ戻されてしまう。そのことを重々承知している彼らはちゃんと家の中で大人しくしていた。今の暮らしの方が余程幸せだと笑って。


「ごめんね、アスラ…」

「いえ。助けるのが遅くなってしまいすみません。痛い思いしたでしょう」

「平気。すぐ治るから」

「痛みが引く様でしたら言って下さい」

「ありがとう」

「食事は出来そうですか?」

「うん」


そう笑うとアスラも優しく微笑んだ。

これが、彼と過ごした最後の日。

国王の息子達を残虐したとして、アスラは罪に問われた。



「どうして……!アスラは何も悪くない!」



連行されるアスラを必死に止めながら僕は嘆いた。



「リーファ……」

「王族に手を上げた者は処刑に致すと国王からの命令だ」



衛兵が冷たく答える。



「先に手を出したのは国王だ!アスラは正しただけだ。なんで処刑されなきゃいけないの!」

「相手が王族だからだ。国に逆らえばどうなるか、もう十分知っているだろう」

「巫山戯るな!王族だからって何でも許されていい訳ない!」

「下がれ!もう決まった事だ」



無理矢理アスラと引き離され、 伸ばした手は届かない。



「アスラ……!」



バリッと耳に障る音が響いた。衛兵達が倒れている。



「リーファ」

「アスラ!」



戻ってきたアスラは僕を抱きしめた。



「行かないで……。アスラまでいなくなったら、もう……生きていけない……」

「私が居なくても、リーファは立派に育ちます。貴方は強い。みんなの先頭に立ってきっと旗を上げてくれると信じています。だから、悲しまないで下さい」

「……アスラ……」

「一緒に過ごせて幸せだった……。これ以上ない位、幸せな時間を貰いました。リーファにはまだこれから先があります。どうか生き抜いて、幸せになって下さい」



それはまるで遺言みたいだった。

死を悟っているかのような言葉。



「リーファ。貴方が正しいと思うことをしなさい。間違いだと正してくれる人と出逢いなさい。沢山笑って思い出を作りなさい。私やフラン、カラカナが貴方にしてくれた事を伝えられる仲間を持ちなさい。そして、大切にしたいと心から思う人に出逢って下さい。リーファならきっと幸せな未来を築けます」

「……約束……?」

「そうです。約束しましょう」



アスラは涙を流しながら最期に微笑んだ。



「大好きです。リーファ」



意識を取り戻した衛兵達が起き上がり、すぐにアスラを拘束した。そのまま連行されて、姿は見えなくなった。




公開処刑と称したそれは、一種のお祭りのような雰囲気を醸し出していた。

一目見ようと集った群衆が押し寄せ、早く殺せと野次を飛ばしている。そんな中を掻い潜るのは容易かった。誰も僕に気付いていない。人の多さで誤魔化すことが出来たのは良かった。

処刑台にはまだ誰の姿も無く、今か今かと群衆は騒ぎ立てる。

止めることも救い出す事も叶わなかった。



「これより、アストライア・オリオンの処刑を行う!」



群衆が一気に沸く。アスラが壇を上がって来る。手には鎖を巻かれ、身体は傷だらけだ。相当な仕打ちを受けたらしい。

ゆっくりと死へ近付いていく。



「反逆罪により、彼の者を断罪に処す」



壇の上にはアスラの姿。その横には剣を構えた衛兵達。

その背後には現国王と兄弟の姿。



「殺れ」



現国王の合図で衛兵達が剣を振り上げる。

その瞬間、アスラと目が合った。距離はあったはずなのにハッキリと分かった。僕に気付いたアスラは、初めて出逢った時と同じ笑みを浮かべた──。



刹那、アスラの首が落ちた。群衆は更に沸き上がり、まるで悪者をやっつけたみたいな感動を上げていた。



「アスラ……」



救い出してくれたあの日から、沢山の愛情を貰った。

沢山の幸せを与えてくれた。

大好きで憧れで、大きな存在だった。



『いつか、大人になったらみんなでお酒を飲みたいですね』



僕らが大人になっても一緒にいてくれると言ってくれた。

そんな日がやって来ると信じていた。



『フランもカラカナもお酒は強いですから、夜通し楽しく過ごせますよ』



まだ見ぬ未来に夢を描いた。

叶って欲しいと何度も願った。



その願いさえ、奪われてしまった。

叶わない事を前提にされているようで腹が立つ。



「……許さない」



処刑を楽しそうに見ていた現国王達を許しはしない。

この国の人々も、アスラを断罪者と決め付けた。

一人も許さない。誰一人、逃しはしない。

強く拳を握りしめながら、僕は決意を固めた──。

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