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埋葬したのは最後の祈り。  作者: 淡月 涙
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残酷な世界の果て


分かっていたんだ、最初から。

この世界は残酷で、たった一つの願いさえも叶えちゃくれないってこと。

それなのに、夢を見て、大好きな人達にまた逢いたいなんて自惚れて、錯覚してしまったんだ……。

だから馬鹿を見た。あの日々みたいな幸せは二度と来ない。

優しかった彼も、ずっと一緒に居た兄も、もう何処にもいない。

僕は一人だけ、生き残ってしまった。

何も縋るものが無い世界で、それでも生にしがみついている。

死ねば楽になるかもと何度も試したけれど、苦しくなるだけだった。

どんなに手を伸ばしても、もうこの手は誰にも掴んで貰えない。




──グシャッ



簡単にちぎれた右腕を踏みつけ、眼前の男を見下す。痛みに耐えながら泣き喚いている姿は滑稽だった。



「……ゆ、許してくれ……!なぁ……?」

「惨めだね、国王様。一人じゃ何も出来ないなんて」

「悪かったよ……!本当にやり過ぎたと思ってる……!だから、この国はお前の好きな様にしていい!国王の座も渡す!どうか、命だけは助け……」

「そうやって、命乞いする人達をあんたは何人も殺してきたんだろ?笑いながら見世物にして。アスラもその一人にされた。絶対、許さない」

「ち、違う……!あいつは例外だった……。殺す筈じゃなかったんだ……!」

「今更弁解するの?何の躊躇いも無かったクセに」

「私は国王だ……!民の期待に応えるのが務めだろう?」

「それが、処刑だったの……?あんな(むご)い死に方させて……。あんたはおれから全て奪ったんだ。アスラも、フィーレンも!」



王宮の広間に自分の声が木霊する。

憎い相手が目の前にいるだけで、怒りが止まらない。震えで危うく殺してしまいかねない。そんなあっさり死なれたら困る。この者には痛みと辛さと生の重みを思い知らさなきゃならないのだから。



「なんで……?おれ達はただ平穏に暮らしたかった……。いつもの毎日が過ごせればそれだけで良かったのに……!」



剣を振り上げ、今度は太腿に突き刺した。歪な奴の叫び声が耳に障る。



「こんなもんじゃない……。あんたにはもっともっと、苦しんでもらう」

「ひぃ……!やめっ……!」

「どんなに泣いたって、許さないよ」



好き放題、権力を翳してやりたい放題やって、卑しい高笑いを撒き散らしてきた愚かな王に鉄槌を下さなければ、僕も報われない。



「──失礼するぜ、リーダー」



呼吸を整えていると、別の場所にいた筈のサキールが現れた。



「まだ殺してないんだ?」

「これからじっくりと時間をかけてね。何かあった?」

「城内にいた衛兵達は全員始末した。残ってんのはメイドと執事達だ。どうすんの?逃がしてやる?」

「殺せ。命乞いは気にするな」

「了解」

「妃と子どもらはいた?」

「どっこにも見当たらねーって、アレスティが嘆いてたけど」

「そう」



王に向き直ると知らん顔で視線を泳がせていた。



「自分の大事なものはちゃんと守るんだな?国王様、それは我儘ってもんじゃない?」

「妻と子供たちは関係ないだろ……?見逃してくれ……」

「それで自分までも生き残りたいって?本当、馬鹿だよねぇ、あんた」

「……なんだと……」

「おれが見逃すとでも思ってんの?」



太腿に突き刺した剣を抜き、そのまま今度は足首に突き刺した。(しゃが)れた悲鳴が苛立ちを増幅させる。



「妃と子供たちも捜し出して殺せ」

「そうだろうと思って捜索隊放ったぜ」

「民衆らは?」

「とりあえず捕獲したってノエルから通信きた」

「全員?」

「ほぼ全員だな」

「一人残らず殺して。この国に生きた奴らは全員敵だ」

「最後は焼き払うんだろ?」

「騒ぎに乗じて上手く生き残ろうとする奴もいるだろうから。衰弱してようが、完全に息の根を止めろ」

「了解した。じゃあ、また後でな」



サキールは瞬時に移動し、一連の話を聞いていた王は真っ青になっていた。



「どう?王様。これでも自分だけ助かろうとするの?」

「……い、いくらなんでもやり過ぎだ……。私はそこまでしていない……」

「おれを怒らせた奴が何言ってんの?階級制度を作った時点であんたは間違ってんだよ」

「頼む……殺さないでくれ……」



まるで赤子みたいに泣きながら同じことを繰り返している。嘲笑するのも馬鹿らしい。こんな奴に苦しめられてきたなんて、アスラもフィーレンも何の為に生を授かったのか、その意味すら見い出せない。



「許さない。あんたは絶対に殺す」

「……な、なんでもするから……。お前の欲しいものは全て与える……。リーファ……」

「気安く呼ぶな!」



その名を呼んで良いのは二人だけだ。他の誰にも騙らせない。



「最期の審判だ。国王」



剣先を突き付け、薄く笑う。

人を殺した事なんてない。殺そうと思ったこともない。大好きな人が二人もいたから、幸せに塗れて幻想を描いていたんだ。

ずっと側にあると思っていたものがいきなり奪われて、絶望の淵に追いやられた。

今まで芽生えなかった怒りの感情が爆発して、剣を取った。

初めて【人間】として僕と兄を愛してくれたアスラも、いつも味方でいてくれた兄も、目の前で惨殺された。

その命令を下したこの愚かな王を、生かし続ける価値なんてない。大事なものを奪われた憎しみを、それ以上の苛立ちを、思い知って貰わなければ、自分の生きる価値すら維持出来なくなる。

罪なんて、背負うから生きづらくなるんだ。




「──片は付いたか?」



炎に包まれていく国を眺めていると、戻ってきたサキールが聞いてきた。



「随分遅かったな。お前が最後だよ」

「悪い。手間取った」

「動揺でもしたか?」

「いや……。子どもを殺した感触が何とも言えなくて……」

「忘れた方が良い。躊躇いは要らない」

「あぁ……分かってる」



サキールは元奴隷だ。他の仲間も奴隷や灰族が多い。声を掛けたら直ぐに仲間になってくれた。皆、国王に恨みを持っていた者達だったから、やり方に同意してくれた。



「これからどうするのですか?」



憂いを帯びた表情でアレスティが僕の表情を窺った。



「このパーティはこれで解散だ。皆、好きに生きるといい」

「えっ……」



仲間達がざわつく。この国しか知らない者達だ。自分の意志で動ける者は少ない。



「い、嫌です……。私達は貴方についていきたい……」

「……ごめん、アレスティ。そこまでキミ達を縛れない。国はもう滅んだ。もう自由に生きて良いんだよ」

「……リーダーはどうするんだ?」

「色んな国を見て回ろうと思う。世界はここだけじゃないって思いたい」

「……分かった……。世話になったな」

「またね」



サキールを初め、仲間達は散り散りになっていく。最後まで残っていたのはノエルとアレスティだけ。この二人は頼りないけれど、やる時は完璧に事を済ませてくれる。



「見送られるのは嫌?」

「……離れたくありません……」

「ノエルは?」

「僕も……一人でなんて生きていけないよ……」

「二人とも、故郷は無いの?」

「ありません……。ずっと奴隷としてあの国で生かされてきた……。帰る場所も頼る人もいない……」

「そっか……。なら、暫くはおれと旅をしよう。そこで色々学んで行けば良いよ。気に入る国があるかも知れないし」

「リーダー……」

「もう統率はしないよ。名前で呼んで良い」



すると二人は顔を見合わせながら戸惑っていた。



「リーダーの名前……?」

「あぁ、教えてなかったっけ?」



まぁ、この日限りのパーティだったし。リーダーってサキールが呼び出したから名乗るタイミングも無かったかも。



「おれは、アスフィリア。今日からそう呼んで」



微笑むと二人も安堵したみたいに笑ってくれた。



「じゃあ、行こっか」



勢い良く燃え盛る国を背に、僕らは一歩を踏み出した。



大好きな二人を埋葬した時に、元の名も一緒に埋めた。

叶わない願いを抱くからみんな奪われるんだ。

祈りなんてただの幻想だ。

だったら、もう何も望まない。

最初に貰った【大好き】以上に大事なものなんて無いんだから。

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