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第759話 風の男(3)切り札




「さまそぉー!!」


 ふわぁっ!!


 自分の体じゃないみたいに僕は宙を舞っていた。今まで見えていた前方から迫るハン・ドゥーケンさん…、しかし今は広い空が見えている。それがまた視界の下の方に流れていき今度は後方の地面が見えてくる。同時に足が上がっているのも感覚的に分かった、僕はその勢いのまま蹴り足にする。サッカーのオーバーヘッドキックのように…。


 ドガアッ!!


 ものすごく重い手応えがあった。実際にどこに当たったかは見えてはいないが直感的に分かる、これは決定打に近いと…。


 すたっ!!


 宙返りをするような感じで僕は着地、すぐにしゃがんで構える。視線の先には吹っ飛んでいるハン・ドゥーケンさん、空中で体勢を建て直し着地した。


「まさか…だ。そちらの反撃の後におれも反撃を狙ったがそれも返されるとは…」


 わああああっ!!


 周囲が一斉に沸いた。


「す、すげえ!あんな蹴り、見た事ねえ!」


「ど、どうやるんだ?あんなの…」


 米軍所属の某少佐、もうひとつの必殺技。まさに二枚看板といえるこれは敵を迎え撃つにも近距離から一撃必殺を狙うにも使い勝手の良い技だ。自分の体が高く跳ぶほどの勢いに乗せた蹴り、その威力ははかり知れない。


 そんな蹴りを食らったハン・ドゥーケンさん、立ってこそいるがハンさんの息は乱れている。そして右手の小指と薬指がおかしな方向に曲がっていた。その右手をチラリと見てハン・ドゥーケンさんが口を開く。


「この手ではもう満足に風の弾を撃つ事もできまい…。だが、それでもおれは勝負を捨てたりはしない。この片手で…、この残る左手で最大にまで高めた風の技を…おれの奥義を放つ。はああああ…」


 ハン・ドゥーケンさんは何やら気合いの声を上げ力をためていく、彼の僧衣や前髪が揺れる…風を集めているのか…。それがハン・ドゥーケンさんの体を伝わって右のてのひらに集まっていく…。


「これが最後の一撃になるだろう…、願わくば受けてくれ。おれの名を冠した奥義、渾身のハン・ドゥーケンを…」


 ハン・ドゥーケンさんは僕にまっすぐ向き合って言った。応じなきゃと思った、真っ向から…。


「キリ…、アレをやるよ。僕たちに出来る最大のそにぶー…、最後に練習したやつ…」


「ちょ、ちょっと!何言ってんのよ!あれ、上手くいくとは限らないじゃない!」


「それでも…、だよ。なんか分からないけど、真っ向からぶつかりたい。だからキリ、お願い。力を貸して。君の力が必要なんだ」


「ア、アタシの…。…わ、分かったわよ!だ、だけとその代わり…」


 びたっ!!


 今まですぐそばを浮遊していたキリが僕の頬に張り付いた。


「こ、こうしないとアタシの力がアンタに上手く伝わらないから…。し、仕方なく、仕方なくなんだからねっ!」


「うん、ありがとうキリ。それじゃ、やるよ」


「ふ、ふんっ!」


 キリの風の力を感じる、そして僕はその風の力を体中に集めるように力を溜める。満ちていく風の力…、嵐のように激しくなっていく。見ればハン・ドゥーケンさんも風の力をその左のてのひらに集め終えたようだ、来る…直感的にそう思った。事実、止まっていた時間が動き出すように僕たちはせいの状態からどうへと移っていた。


「うおおおっ!!おれの渾身の…ハン・ドゥーケンッッッ!!」


 ハン・ドゥーケンさんが無事な左手を突き出した、そこから生まれる今までよりも大きな風の弾。見ただけで分かる、アレは食らったらまずいと…。だけと受けて立つと決めてたんだ、キリの力を信じて受けて立つ。


「行くよ、キリ!」


 頼れる相棒に声をかけて僕は右腕を横から前方へと振り抜く。


「そにぶー!!」


 音を立てて空気の渦が生まれ相手の技にぶつかっていく…。


 ぱぁんっ!!


「あっ?」


「の、飲みこんだッ!?」


 周囲がざわめくように僕の放った空気の渦が向かってくる空気の弾に飲み込まれた。大きさや勢いは減少したけど空気の弾はまだ僕に向かって飛んでくる。


「こ、これは…」


「逆転か!?」


 周囲が息を飲む、これで決まったと誰もが思っていそうだ。だけど…、僕の攻撃はまだ終わってない。


「ふたつッ!!」


 右左のワン・ツーパンチのように今度は左腕を振り抜く、ふたつめの空気の渦が生まれ飛んでいくとまたもや真正面からぶつかり合う。


 ぱぁんっ!!


「き、消えたァ!!」


「ふたつ連続で撃つなんて!」


「だ、だけどよ、片手で撃ったあの風の弾、渦の二発分の威力なんだ!」


「それってすげえ!」


 ぶつかり合って相殺される互いの風の技、それを見て周囲の人々が沸いた。激しい互いの飛び道具の応酬に誰もが驚いていた。しかし僕の攻撃はまだ終わっていない。僕が右腕、そして左腕から放った風の渦、左半身を前に出した勢いを殺さず僕はそのまま体を回転させた。ふわり…、体が浮く。回転の勢いを止めずにそのまま後ろ足の右足を振り上げる、ローリングソバットのような形になる。


「みっつ!!」


 シュバッ!!!


 足先から音がした、それは空気を切り裂くような鋭い音。手応えで分かる、風の渦が放たれた事が…。


「や、やった…」


「できた…」


 僕とキリ、同時に声が洩れた。


「うおおっ!!あ、足からも…」


「出しやがったァ!!」


 周囲の人が叫ぶ。そしてみっつめの渦はそのままハン・ドゥーケンさんに向かって飛んでいった。最後の力を振り絞って技を繰り出していたハン・ドゥーケンさんはそれをよける事ができなかった。


 ばすぅっ!!!!


 風の渦が激しくハン・ドゥーケンさんの胴のあたりを打ちつけた、その体が宙に舞う…。


「うおおおっ…ぉぉぉっ…ぉぉぉっ…」


 まだあたりに風の力が及んでいたのか、技を食らって洩らしたハン・ドゥーケンさんの声が木霊こだまのように響いた。そしてドサリと地面に倒れた。


「ぐ、ぐぐ…」


 地面に倒れたハン・ドゥーケンさんは怪我をしていない左手をついて立ちあがろうとする。顔を上げ僕と視線が交錯した、そして…。


「あんたの…勝ちだ…」


 それだけ告げてハンさんの体が崩れ落ちた、どうやら僕たちは勝てたようである。


「ゲンタさん!」


「えっ…」


 僕を呼ぶ声に振り向くとそこにはシルフィさん、マニィさんもフェミさんもいる。おそらく僕の事が心配でギルドを抜け出しできていたのだろう。後でギルドマスターのグライトさんや受付見習い中のミケさんに何か言われそうだなと思いながらも僕は無事である事を知らせたいと思った。


 すっ…。


 僕は首にかけている革紐を掴んだ、その紐には手鏡がゆわえられている。僕はそれをそのまま天高く掲げていた。


 風の力を用いて戦うハン・ドゥーケンに勝利したゲンタ。そこに新たなファイターが現れる。


 次回、異世界産物記。


 『炎の拳』


 お楽しみに。

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まさか超必殺技まで使えるとは… 炎の拳…まさか餓えた狼
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