第728話 精霊たちの持ち場を決める
新居の北側に作ってもらった枯山水、そこにある大小様々な石や砂を用いたあたりには土の精霊たちが比較的多くいた。もしかすると剥き出しになった石などが心地よいのかも知れない、そう思った僕はある事を思い出した。
「たしかゲームとかでよく登場する玄武って土属性だよな、北を守る聖獣だったっけ?そう考えると…」
あとの聖獣は…東が青龍で南が朱雀、そして西が白虎…。それぞれ水と火と風を司るんだよな…。
ちら…。
あたりを見回す。北側は枯山水が出来てるけど他の三方は手付かずだ。北側はグラたち土精霊たちに…、他の方角は残る三つの属性の子たちが住みやすいようにするのはどうだろう…。そう考えた僕は精霊たちを集めて話をしてみた。するとその方針に彼女たちは首を縦に振った。
東は水をイメージして池を作った、当然ながらそこは水精霊たちが多くいる。南はホムラたちのリクエストで以前にリョマウさんたちからもらった溶岩のかけらを敷いてピッチャーマウンドのように小高い場所を作り、合わせて屋外用の窯を作った。パンやピザが焼けそうな窯だがホムラたちらそこにサツマイモを入れて焼きたいらしい。
残る西だがキリたちに希望を聞くと木を植えて欲しいとの事、なぜかというと風を吹かせた時に鳴る木々の葉の音が耳に心地良いのだそうだ。あまり樹高のあるものでなくても良いらしいのでせっかくなら実を付けるものが良いだろうと考え果樹の苗でも植えようかと尋ねれば嬉しそうな顔をしている。僕がそんなキリを見ていると彼女は急に頬を膨らませる。
「ふ、ふんっ!ア、アンタにしては良いアイディアなんじゃない?」
そんな憎まれ口を叩いてキリはそっぽを向いた。これで東西南北の四方をそれぞれ四つの属性の精霊たちに任せた訳だけど僕には他にもさらに四つの属性の精霊たちがいる。すなわち光と闇、そして氷と植物である。
「うーん、東西南北はもうお願いしちゃったしなあ…。じゃあ四方だけじゃなく、北東とかを含めた八方向にしようかな…」
そう思ってメセアさんをはじめとして精霊たちに相談を持ちかける。すると意外に話はすんなりと決まった。北東の方角は氷精霊のクリスタ、南東の方角は光精霊のサクヤが守る。そして南西は植物の精霊であるドライアドたちが守り北西の方角は闇精霊のカグヤが守る。そして南西の方角をドライアドたちに任せたメセアさんはと言えば南西を守るドライアドたちに手を貸すとは言うのだが主目的は違うようで…。
「身共が身を置く場所だと?それなら言うに及ばず、…ここだ」
新居の外廊下に腰掛けて紅茶を飲んでいるメセアさんが何を当たり前の事を…とばかりに口を開く。
「え?ここ?」
ここって…、この新居だよね?僕がそう思っているとメセアさんはさらに言葉を続ける。
「本拠たるこの家屋を守らずしてどうする?周りばかりでなくここを守らずして何が守護者たりえようか。故に身共がここを守る。それに…」
「それに…?」
「奥にある草を編んで作ったと思われるものが四枚…、敷かれておる小部屋があったであろう」
「小部屋…?…あ、はい」
畳を敷いた奥の部屋の事だな、確かに小部屋とも言える。
「あれは良いものだ。この家屋は一本の釘も用いておらぬから居心地がよい。特にあの草を編んで作った床材は格別である。ふふふ、気に入ったぞ」
目を細めメセアさんが笑った、おそらく心底気に入ったのだろう。
「ときに…、ゲンタよ…」
「はい、なんですか?」
「身共は奥の小部屋で再び眠る事にする。もう少し眠る予定であったが途中で起きたからな…。ああ、有事の際にはすぐに起きるゆえ安心せよ」
「は、はい」
うーん、なんていうか自由だなメセアさん。
「今回は精霊界に戻らずあの小部屋で眠る…、ゆえにゲンタよ…。汝は後から部屋に参れ」
「へ?」
「意味は分かるであろう?待っておるぞ」
「え?いや…」
僕の返事を待たずメセアさんはティーカップを置くと住居の中へと入っていった。そして後ろから声がかかる。
「ゲンタ…さん…?」
「あ、はい。シルフィさ…ッ!?」
声のした方を見てみれば何やらえも言われぬ迫力があるシルフィさんがいた、そしてその後ろにはカグヤがふわふわと浮いている。普段なら静かに微笑んでいるカグヤだが今は真顔でただ見つめていた。