第726話 集まれ、108人!
「ならばその護衛の一人や二人、身共(高貴な人が使う自分を意味する一人称)がなろうではないか」
「えっ?」
振り向くとそこにいたのはメセアさん。初めて会った時のような眠たそうな目つきではなく、キリッとしたどこか肉食獣のような鋭いものだ。
「メセア…様。そ、それはどういう…?」
戸惑い気味の口調でシルフィさんが尋ねた。エルフである彼女にしてみれば精霊は友であり親愛の対象、しかもあらゆる植物の祖であり植物の精霊と言われる存在の最上位の存在である。しかも他の精霊と違い人類と同じくらいの体格であり、エルフの祖でもあるという。ご先祖様のような存在であり、親愛と畏怖の対象でもある…複雑な心境なのかもしれない。
「言葉通りの意味だ、身共が守護してやろう」
ぐい…。
メセアさんが僕を覗き込むように顔を寄せてくる、切れ長の目が僕を捉えた。メセアさんがどこまで凄い能力があるか想像もつかないがサクヤたちよりきっと強いだろう、だって植物の精霊の最上位の存在なんだから。そういう意味では非常に心強い。心強い…、心強いんだけど…。
「あ、あの…メセア…さん?」
「なんだ?」
僕は遠慮がちに声をかけた、それは頭に浮かんだメセアさんが護衛をした際の唯一の不安について問うためである。
「メ、メセアさんはもの凄い強さをお持ちですよね?」
「然り(当然だという意味)」
「ですよね。で、でも、時々眠くなって…メセアさんは寝てしまうと何日も起きないからその間はどうしたら…」
「…!?」
ぴくり!メセアさんの眉がわずかに反応した。
「ま、まさかですけど…、ご自分が寝てる間の事はなんにも考えでなかったんじゃ…」
「子らよ、来たりて集え!」
僕の言葉を半ば強引に遮るようにしてメセアさんが凛とした声を発した。たちまち現れるサクヤたちとそう変わらない大きさの少女たち。ふわふわと宙に浮く彼女たちは木の葉っぱを加工したような衣服を身に着けている。
「植物精霊だ、この近くにいる者に声をかけたが…ふむ。十六ほど集まったか…、これなら身共が眠っておる間も汝を守護するには十分であろう」
「は、はあ…。な、なんか慌てて呼んだような…」
「んんっ?」
キリッ!メセアさんの切れ長の目に一層の力が加わった、どうやら触れてはいけない事柄のようだ。ツッコミを入れたいが僕は空気を読める人間、さらには平和を愛している。だから余計な事を言わない、お礼だけを伝える。
「い、いえ…。ありがとうございます。さすがはメセアさん、心強いです」
「ふふ、さもありなん」
満足そうにメセアさんが目を細める。が、すぐに表情を引き締めて口を開いた。
「だが、これでは身共を合わせても十七人じゃ。いささか物足りぬな…。そうじゃ、汝には他にも特に親しい精霊たちがおったな。その者たちにも同胞に声をかけさせてはどうだ?そうじゃな、いきなり身共と同じ数は呼べぬであろうから十より少し多いくらいでよかろう。それならばいかに魂が結びついておらずとも永く居着いてくれる精霊を呼べるであろう。そのくらいならば多少待ってやればそれぞれ成し遂げられるであろう。そうじゃ、それがよい。さっそく同胞たちに声をかけさせるのだ」
「え?サクヤたちに?」
「そうだ。こういう事は早い方が良い。疾く疾く(早く早くの意味)」
「は、はあ…。わ、分かりました。みんな、町の中を回ってお友達に声をかけてみてくれるかな?僕の新しく建てた家に住んで守ってくれるような子を…。それぞれ十…いや、十二人ずつ…お願い出来る?」
分かった、任せて、そんな表情を浮かべてサクヤとホムラが一番に飛び立っていった。続いてカグヤたちがそれぞれに承諾したとばかりに町に散っていった。そして時間にして十分もかからなかったろうか、サクヤたちがそれぞれ十二人ずつの同胞たちを連れて戻ってきた。光と闇、火と水、風と土、さらには氷の七属性の精霊たちが元々いたサクヤたちと合わせて各属性で91人。さらにはメセアさんと植物精霊たち17人、総勢一〇八人の精霊たちが集まったのだった。