第721話 ガールズ・デーが終わったら…
怒涛の勢いで押し寄せる女性たち、白銅貨三枚を握り締め次々と甘味に群がってくる。僕がいなかったこの数日でここまで甘味や美味しいパンなどが口に出来なかった禁断症状めいたものはここまで爆発してしまうものなのか、僕にそこまで思わせてしまう程に今の女性たちには迫力や凄味があった。
飴細工もワタアメも精霊たちに力を貸してもらい作ったものだ。だから最初から最後まで僕が調理に関わらなくても出来るものもある。そんな訳でワタアメ希望者には一回分のザラメ糖と割り箸を渡してセルフサービスで作ってもらう。元々、金タライにザラメ糖を投入したら後は糸状に変化したものを割り箸に絡ませれば良いのだから簡単だ。残る飴細工の方はひたすら泡立て器を振りまくって作っていく。そんな二種類の砂糖菓子が飛ぶように売れていった。
いつか使うかも知れないと思って在庫としておいたザラメ糖3キログラムがあっという間に無くなった。それは今この場にいる女性たちの胃袋に消えたからだ。飴細工とワタアメ、それぞれに姿を変えたザラメ糖は甘味に飢えて血走った目をしていた女性たちに笑顔と満足をもたらした。
「うわー、フワフワ〜!!こんな甘味、食べた事ないー!!」
「このパリパリのも綺麗だし甘いわあ!」
ある人はワタアメを…またある人は飴細工を…、そして中には右手に飴細工を持ちながら左手にはワタアメという二刀流スタイルで甘味を味わっている。その誰もが幸せそうな顔をしている、その様子を見て僕もこれでなんとか身の安全が担保されたかなとホッと胸を撫で下ろす。そんな中、僕の耳には聞き慣れた声も聞こえてきた。
「ああ〜ん!甘いわぁ、とぉ〜っても素敵ィィ!ホントにオンナってこういうのに弱いのよォン!甘くて可愛いくて綺麗でぇ…、んもうっ!ゲンタちゃんてばァン、どうしてこんなにアタシの心を掴んで離さないのかしらァンッ!!」
クネクネと身をよじりながらご機嫌な様子で甘味を頬張っているのはイッフォーさんだ?うーん、これって女性限定のイベントだったよな…。ま、まあ、良いか。そのへんはあんまり深掘りしない方が良いと僕のカンが言っている。
そうこうするうちに材料のザラメ糖も無くなり女性たちも満足くれたので今回の緊急で甘味を用意して欲しいというリクエストは終わったのだった。そう、終わったのだった…。しかし、そんなひと段落したところで僕の脇腹をツンツンと突っついて話しかけてくる人がいた。
「な、なあ…兄ちゃん…」
「新人…」
それはナジナさんとギルドマスターのグライトさんだった。
「あれ?どうしたんですか?お二人とも…。そんな物陰に隠れるような感じで…。あ、そうか…今回は女性限定だったから…」
だからこそ体格が良い二人が厨房の目立たない所に身を潜めコッソリと僕に接触してきたのか…。
「そ、そうなんだぜ、兄ちゃん」
「な、なあ…。俺たちにも…、俺たちにもなんか作ってくれよ。女にだけ振る舞うなんてズルいじゃねえか。頼むぜ新人、俺たち男にも限定でなんか作ってくれよ」
「で、出来ればズドンと腹にたまるモンが良いな!」
「は、はあ…。でも、すぐには…」
「大丈夫だ!明日の夜でどうだ!?」
「そ、そうだぜ兄ちゃん!俺も明日の夜まではなんとか我慢するからよ!」
こうして僕は二人のなんとも言えない妙に必死な懇願により翌日の夜に男性限定イベントをする事になったのだった。
次回は…
『男性限定!男夜』
お楽しみに。