第717話 家が完成!お酒は明るくなってから
「そりゃっ!ほりゃっ!」
縦向きにしたフリスビーを投げるようにガントンさんが瓦を投げる。
「よっ!ほっ!」
それをゴロナーゴさんが二階の屋根部分で受け取り瓦を敷いていく。さすがに猫獣人族、高いところでも動きは軽やかである。そんなゴロナーゴさんが下にいるガントンさんに声をかける。
「おおーい、兄弟!!もっと沢山投げても良いぜ。そうだな…、ゴントンの兄弟と一緒でも良いぜ!」
「おい、それじゃ一度に四枚も投げる事になるぞい!」
「でえーじょーぶだよオー。ホレ、試しにやってみな」
「むう。ゴントン」
「分かった、やってみるだよ」
四枚の瓦が飛ぶ。それをゴロナーゴさんは両の手で二枚、さらには裸足の片足でひとつキャッチする。しかし投げられた瓦は四枚、あと一枚は…。
「よっと!!」
ゴロナーゴさんは尻尾で瓦に触れるも無理に掴もうとせずピザ職人が生地をクルクルと回すように空中に遊ばせている。そのまま流れるように両手の瓦を敷き足で掴んだ一枚をさらに敷く。さらには浮いていた瓦を掴み手早く敷いた。なんというか独楽のように、その身を回転させながら敷いていった。
「ホレ、こんな感じだ。これなら半分の時間で済むだろ、サッサとやっちまおうぜ」
ひと呼吸で四枚の瓦を敷いたゴロナーゴさんは次だ次だとガントンさんたちに催促する。あっと言う間に瓦も敷き終わった。
「へへ、どうでえ!夜明け前に見事終わらせたぜ!」
屋根から飛び降りてきたゴロナーゴさんが満足そうに言った。見上げてみればゴロナーゴさんが言った通り、瓦屋根である事を除けば京都観光名所案内のパンフレットに掲載されるような銀閣のような建物が出来上がっていた。図面とにらめっこしてみても寸分違わない出来栄えだ。
「み、皆さん、凄いです。夜明けくらいに終わったら良いなとは思ってましたが…、まさかこんなに早く出来上がるとは…。見て下さい、まだ空には星がうっすら見えてます。夜明けにはまだ時間がありますね」
「へへへ…、早い分には問題ねえわな」
ゴロナーゴさんが機嫌よく応じる。
「いや、ひとつ問題が…。夜明け前だとまだ町の中は静かです。万が一にもうるさくは出来ないから宴会は少し待ってもらう事に…」
「にゃ、にゃんだとおッ!?」
おおっと、ゴロナーゴさん。驚きのあまりネコっぽい口調になってますぜ。
「そ、そ、そりゃねえぜ坊や。俺ァよう、仕事終わりに振る舞い酒があるっていうから張り切って…。いや…、カネなんていいから酒と肴がすぐにでもたらふく飲み食い出来ると…」
すぐに酒にありつけないと知ってゴロナーゴさんが膝から崩れ落ちかける。そんなゴロナーゴさんに僕は慌てて駆け寄った。
「ま、まあまあ…、ゴロナーゴさん。そうだ、働いて汗をかいたでしょう。ひとっ風呂浴びてきたらどうです?」
「風呂だあ?そんなの待てねえよ」
一秒でも早く酒を飲みたいと訴えるゴロナーゴさん、それにガントンさんたちも横で頷いている。うーむ、この酒好きどもめ…。
だけどここはちょっと考えないといけないな。なんていうかこう…、風呂に入りたいと思わせるようにもっていくような…。酒好きの風呂上がりといえば…、そうだ!アレでいこう。僕は再びゴロナーゴさんに向き直った。
「いやいやいや、考えてみて下さい。風呂につかってきたら熱い湯によって体はきっとホカホカですよね」
「そりゃそうだろ」
なにを当たり前の事を…といった感じでガントンさんが応じる。ここだ、ここからだ。僕はスッとゴロナーゴさんの横に近づいて囁くようにもちかける。見方によってはタチの悪い男が純真な女性に甘言を弄するような感じで…。
「そうですよねえ。だけど…、想像してみて下さいよ。体から湯気が出るくらい温まったところに飲む氷を浮かべた焼酎を…」
「こ、氷を浮かべた…『しょうちゅう』…、だと?」
ピクピクと頬を反応させるゴロナーゴさん。間違いない、これは…釣れる!仕掛けるのはここだ。
「風呂上がり…、そんな中で飲む冷たい焼酎…。火照った体の真ん中…喉ををつたって胃の腑に落ちる冷たい酒…。たまらんでしょうなあ…、なまぬるいものとは違う切れ味鋭い冷たさは…」
「冷たい酒が…、の…喉を…」
ごくり…。冷たい酒がゴロナーゴさんの喉が鳴った、チラチラとこちらを見ながら口を開く。
「だ、だけど今は冬じゃねえんだぞ?氷なんてどこにも張っちゃいねえ」
「ええ、そうです。蒸し暑くなり始めた今日この頃、どこを探しても…無いでしょうねえ…」
「なら、そんなの無理じゃねえk…」
「お忘れですか、僕には氷精霊のクリスタがいてくれる事を…!」
「!?」
ピクリ、ゴロナーゴさんは動きを止めた。ふわり…、氷精霊のクリスタが僕たちの前に姿を現した。すごく良いタイミング、やるなッ…クリスタ。ようし、ここで切り込む!
「実は他にも用意している物もありましてね。カワハギって言う魚なんですけど実に上物の干物なんですよ。これは美味いですよ。きっとどこの王侯貴族のお偉方もまだ知らない舶来モノの珍味なんだなあ、コレは…。これで飲む酒はクゥーッ、想像するだけで…」
つうっ…、ゴロナーゴさんの口元にヨダレが浮かぶ。
「上物の…、干物…」
「他にも…、覚えてますか?あのマグロの刺身…、そうそう…あの身が赤色の生で食べたあの魚です。今回は濃い味を付けて半生の状態のものです。ひとつひとつは賽子くらいの大きさですが酒に負けない味の強さなんですよ…」
「おう…、おう…」
口を半開きにして僕の話に頷いているゴロナーゴさん、口からはたらぁ〜り…たらり…とヨダレが溢れている。
「まあ、酒は逃げませんから。それに船着場からリョマウさんたちも夜明けくらいには戻るでしょう。その間にサッパリしてきちゃったらどうですか?」
「わ、わ、分かったあ!その代わり…」
「ええ、酒もツマミもたくさん用意しときますよ。あと、そこに着替えのシャツとかがありますからみなさん風呂上がりに着て下さい」
「おうよ!そ、そうと決まりゃあ…。ガントンの兄弟よォ、風呂に案内してくんな!お前たちも…、早く行くぞ!グズグスすんな!」
そう言うとゴロナーゴさんは僕がホームセンターで買ってきたシャツと短パンを手に取ると早く早くとガントンさんを急かし、職人さんたちを引き連れていった。