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第709話 スープの冷めない(至近)距離(前編)


 ナジナさんが前を、ウォズマさんが後ろを固め非戦闘員である僕たち三人を真ん中にした隊列でマオンさん宅に近づいてみる。するとだんだんと様子が分かってきた。


「どうやらこの騒ぎは婆さんの家が原因じゃねえなあ。ひとつ向こうの…、裏の通りの方からみてえだな」


「家の裏の通り…、ですか?」


 マオンさん宅の裏手の方は数件の民家と小さな教会がある。町とはいえここは貴族や騎士などの居住区や大きな商店がある辺りでもなければ道が綺麗なまっすぐだったりなんてことはない。町の中心地などから離れるとなんとなくまっすぐかな、地面に高低差があるのをわざわざ平らにしないで曲がりくねったとしてもだいたい同じくらいの高さが続くようなライン取りをして道にしたのかなといった通りになる。そんな日本の区画整理された町並みとはまるで違う小道を使ってマオンさん宅の裏の方へと向かうと野次馬というか声をかけ合っている何人かの人がいた。大丈夫か、無事でよかった、そんな声が聞こえてくる。見れば古い民家がり押し潰されるように倒れていた。


「こりゃあ湿気というか水気を吸いすぎておったな。それで虫がまず住み着いて、次にねずみが…。それでかじったり糞尿をひっかけたりして木の柱や壁を腐らせていったようじゃ」


「だが、運が良かったべ。洗濯したものを干すのに庭に出てたのが幸い、巻き込まれなくてすんだ」


「あっ、ガントンさんにゴントンさん」


 倒れた民家の様子を見て呟くガントンさんとゴントンさんがいた。見れば弟子であるベヤン君たちの姿もある。


「いや…、面目ない。わしらももう高齢トシでなあ…。あんまり家の手入れしたり、見て回ったりしとらんかった。つい、億劫おっくうでなあ…」


 名前は知らないけど顔は見覚えがある、潰れた家に住んでいる老夫婦がガントンさんに応じている。


「前々から息子たちには古くなったここを出て新しくひらいた農地の方にある家で一緒に暮らそうと誘われてはいたんだけどねえ…。どうにも住み慣れた所からは離れがたくて…。こうして居続けてしもうた…」


「これが頃合いなんじゃろうなあ…、婆さん…」


「ほんにねえ…、足も弱ってきておるし…息子たちのトコに行こうかねえ…お爺さん…」


 倒れた建物を見ながら寂しそうに呟くご夫婦、でもそれしかないだろうなあ…。あれじゃ住めないもの…。


「だけど、崩れてしまった家の瓦礫がれきをそのままにしとく訳には…ねえお爺さん…」


「うん…、しかしわしらには蓄えが無いでのう…。片付けようにもわしらは若さもないから力仕事も出来んし…。人を雇える金もない…。綺麗にしないと売れやしないからねえ…」


 詳しくは知らないけどミーンでは領民の土地の売り買いは認められているようだ。もちろん建物つきでも認められている。しかしながらそれは当然その土地はすぐに使える事が条件。こんな崩れた建物が残っていては撤去しなきゃいけない訳だから買い手がつきにくい。だけど土地の所有者になっている人には税が発生する、つまり利用する事が出来なくてもお金は出ていく事になる。こういう撤去作業だって人力でしなければならない訳だからお金も時間もかかってしまうようだ。それも安くない金額が…。


「ここを処分しないと息子たちの方にも行けない、だけどすぐにという訳にはいかんからのう…。なんとかならぬかのう…」


「ほんにねえ…」


 老夫婦は困り顔、自分たちだけでやろうにも限界があるだろうし先行きが見えない事に不安さえ見てとれる。


「あの…」


 そんな二人の姿を見て僕は二人に声をかけていたのだった。



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