第678話 第21章エピローグ 別れ話
ど、どうしよう…。
チョイ役のつもりで出したキリがメインヒロインになりそうな勢いなんですけど…。
「幸せに…、幸せになりなさい…」
「おとうさん…」
「体に気を付けるのですよ」
「うん…、おかあさん…」
シルフィさんがご両親と抱き合って別れを惜しんでいる。そしてしばらくすると三人でこちらにやってきた。
「ゲンタ君、娘を…娘をよろしく…」
「たまには顔を見せに来て下さいね」
ようやく義理の息子になる僕とご両親がする会話らしい会話の場面になったのだが…。
「す、すいません。こんな状態で…」
旅立ちを迎えた僕の着ているエルフの服に加護を与える為、精霊たちがまとわりついている。ただ、その数が尋常ではない。僕は雪だるまのような状態になり、別れの場面であるのになんとも締まらない有様である。
「い、いや、精霊の親愛の証だから…」
お父さん…いや、これからはお義父さんか…。結婚後には岳父(妻の父という意味)となるヴァンさんが声を絞り出すようにして呟いた。
「これほどの精霊にも愛されるゲンタ君ならばきっとシルフィも幸せにしてくれるだろう。精霊と風の恵みを君に…」
「とにかく元気でいてくださいね、あなたと共にいられる事…。それこそがこの子の一番の望みですから…。精霊と光の恵みをあなたに…」
「ありがとうございます。シルフィさんを…、娘さんを 幸せにする為に僕も力を尽くします」
別れは尽きない。だが、それでも終わりはやってくる。いくつかのやりとりを交わし僕たちは里の人々、そして手を振る精霊たちに別れを告げて歩き出した。そして物質界と妖精界をつなぐ場所へとやってきた。
シルフィさんたちの話によれば森の中でもここは一種のパワースポットのような場所らしい。ここから僕たちは物質界へ…、ミーンの町近郊の森へと転移できる。だけど僕は足を止めた、そして誰もいない虚空に向かって声をかけた。
「いるんでしょ、キリ…グラ…クリスタ…」
それは今朝から姿を見せていなかった精霊たちに向けてのもの。姿は見えないけどきっと近くに…、少なくとも声が聞こえる距離にいるような気がしていた。
『…ふ、ふんっ!!』
どこからともなくキリが…、そしてそのすぐ後ろにオロオロしたようなグラ。クリスタはそんな二人のすぐ横にいる。そんな三人に僕は声をかけた。
「三人ともありがとうね。おかげて結婚の挨拶も出来たし、干しパサウェイも作れて里にも受け入れられた…」
『と、当然ね!!ア、アタシが力を貸したんだから!上手く行かない訳がないわよ!』
両手を腰に当ててフンと鼻を鳴らす、それでいて外方を向きながら時折僕をチラチラ見るいつものスタイル…。
「本当にね…。ありがとう、三人とも…」
そんなキリを…、そしてグラやクリスタを見る。正直、短い付き合いだ。だけど里の人たちよりずっと親しみを感じている、少なくとも彼女たちからは不快な事はされていないから。僕の為に手を貸してくれたかけがえのない仲間…。
『べ、別に…。アンタの為って訳じゃないわよ…。か、風を吹かすのは…アタシたちの気まぐれ…。そ、そうっ!!気まぐれ…なんだから…』
キリの声がだんだんと小さなものになる。
「それでも…、だよ。僕は一番キリたちに会いたかったんだ」
『ア…、アタシと…?な、なんでよ…』
「そりゃそうでしょ。ちゃんとお礼も言えずにミーンに物質界に帰っちゃったら次にいつ会えるか分からないじゃない」
『あ…』
「だからちゃんとお礼を言って…、お別れの挨拶もしたかったんだよ」
『お、お別れ…?』
ハッとしたような顔をしてキリが僕をまっすぐに見た。
「うん…。キリたちはこの妖精界に住んでるんでしょ?」
『そ、そうよ…』
「でも、僕は普段は物質界のミーンに住んでる。だから僕は妖精界にずっとはいられない…」
『う…』
キリが悲しそうな顔をした。
「そ、そんなに悲しそうな顔しないでよ。僕にとってキリは…いや、キリだけじゃない。グラもクリスタも大切な存在だよ。それなのにそんな顔をされたら僕だって悲しくなるじゃないか…」
なんだろう、里の人たちと別れる時はそんなでもなかったけどキリたちと別れる事を考えたら堪えきれないくらい寂しくなってくる。
「だからさ…、笑って…お別れしよう…よ…。た、たまには…遊びに…来なよ…。甘い物…、…とかさ…いつでも…用意しとく…からさ…。い、良い…所…なんだよ。ミーンの町っていってさ…、森や…山も…多くて…さ…」
自然と声が震えてくる、自分から笑顔と言っておきながらとてもそれが出来そうにない。
「でも…、物質界じゃ…不便を…かけちゃうかも…知れないから…さ…。だ、だから…悲しい…けど…」
ヒュンッ!!
キリが目の前に飛んでくる。寂しさと怒りが混じったような顔だ。
『ばっ!馬鹿馬鹿馬鹿っ!!な、なんでついて来いって言わないのよっ!!』
小さな手でポカポカと僕の頭を叩きながらキリが叫んだ。
『ア、アタシついて行くわよっ!!アンタなんて馬鹿で頼りなくて魔力も無くて鈍感で…!!よ、妖精界から出た事なんてないけどそれがなんだって言うのよっ!言ったじゃない、アンタみたいなのについて行く物好きなんてアタシだけだって!!だからどんな所にだって行くわよ!言っとくけどこれは決定事項、異論なんか認めないんだから!』
「キリ…」
『さ、さあ、分かったらさっさと案内しなさいよ!!アンタの住んでる町とやらに。で、でも、ちゃんとアタシたちの面倒を見なさいよね!は、離れたりしたら…ゆ、許さないんだから!』
「う、うん。でも…、それで良いの?グラやクリスタにも都合があるんじゃない?」
そう尋ねたがグラもクリスタもミーンに来る事を拒否する訳ではないようだ。
「そ、そっか…。じゃあ、三人共…これからもよろしくね。」
こうしてミーンに戻る事になった僕たち一行。僕が引いている手土産を渡して空になった荷車の上には新たに加わった三人の精霊が座り物質界へと帰る事になったのだった。
今、書いてる私にも分からなくなってきているんですが、
『ヒロインらしいヒロイン』って誰なんでしょうか?
個人的にはカグヤを推してきてたのですが、キリがとんでむなく強い。あと、なんだかんだで17歳もキャラが立っている。…難しい。
一緒に帰ると友達に噂とかされて恥ずかしがる某有名な方みたいにセンター取れるヒロイン、どうやったら書けるのか…。難しい、難しいです。