第665話 会話が成り立つ風精霊
『あ…、あ〜っ!!ア、アタシの唇に触れちゃったわね!アンタとアタシの魂がつながっちゃったじゃない!!ふ、ふんっ!アンタ、頼りなさそうだから…。し、仕方ないからこれからはアタシがついててあげるわっ!!』
びしいっ!!
風精霊が人差し指を僕に突きつけながら宣言するように言った。
「い、いや、触れちゃったって…。君からぶつかってくるような感じで…」
『は、はあっ?ア、アタシからぶつかったっていうの?違うわよ!ぶつかっていくっていうのはこんな風に…えいっ!!』
どーん!!
風精霊が横にいた土精霊と氷精霊に背中を押した、押された精霊たちは僕の指先に触れて…。
ぼわん!ぼわん!
『あっ…』
風精霊が呟く。なんと僕と土精霊、そして氷精霊までがつながりを持ってしまった。氷精霊は冷静ではあるが少々驚きの表情を、土精霊にいたってはあからさまに動揺している。
「ちょ、ちょっと!彼女たちまで…」
『う…、うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!こ、こうなっちゃったらアタシたち三人を迎え入れなさいよねっ!』
「そんな勝手に…」
『な、なによ!嫌なの?も、もしかしてアタシの事…嫌いとか…?だから…、受け入れたく…ないの…?』
これまでの強気な態度はどこへやら、彼女は上目遣いに…そして不安そうに尋ねてきた。その表情は道端に捨てられて俯いている子犬のようだ。寂しそうで、悲しそうで…。
「別に嫌いって訳じゃないよ…」
『本当に…?』
「うん、でもさ…。もし嫌だったら君の方から離れる事も出来るんでしょ?」
『で、出来るけど…』
少しだけ彼女はその視線を外らした。
「それならそうしようよ。君にとって不本意だったみたいだし、今回の事は事故って事で…」
『〜〜〜ッ!?こ、このッ…、この馬鹿ぁ〜!!ア、アタシは…、アタシは…』
「………アタシは、何…?」
『さ、察しなさいよ!!ア、アンタ、馬鹿なの!?アタシがここまで言ってあげてるのに!!も、もういいわよ!頼りなくて察しが悪くてアタシがいなかったら果物ひとつも乾かせなくて…』
「え?ちょ…」
突如始まった風精霊による悪口ラインナップに僕は思わず戸惑った。
『…だいたいその手は何よ!腰に短剣吊るしてるけどロクに稽古もした事ないような綺麗な手なんかしちゃって!そんな弱っちい腕じゃ大した事ない獣にだって食べられちゃうわよ!アンタ、分かってるの!?きっとすごく痛くて苦しいんだから!そんなアンタをずっと守ってくれる物好きなんて他にいるの!?ま、守るまではいかなくてもアンタのそばにいてくれるいい人だってどうせいないんでしょ!?そ、そんな物好きなんてのはアタシくらいで…』
「えっと…、こちらシルフィさん。僕のお嫁さんになってくれる方で剣も魔法も…、弓も得意な…」
熱弁を振るう風精霊に対して僕は戸惑いながらもシルフィさんを紹介する。
『えっ…、嫁…?』
「よ、嫁…、ぐはあっ!!」
目が点になる風精霊、そして血反吐を派手に吹いて仰向けにバタリと倒れるフィロスさん。
『な、な、生意気よ!アンタ、誰に断って嫁なんかもらってるのよ!』
「き、君の許可はいらないでしょ?」
『だ、駄目駄目駄目〜!!認めないわ!だいたいその子、アタシたち風精霊と相性が最良の愛し子じゃない!決めたわ!!ア、アンタがその子にヘンな事しないように…ア、アタシが見張る事にするんだから!!これは決定事項よ、異論は認めないわ!!』
「えー!?って言うか…、ヘンな事って…どんな事?」
『〜〜ッ!?こ、この馬鹿ッ!!変態ッ!!ろくでなしッ!!』
ぽかぽか!!
「いたたたっ!!」
風精霊は僕の頭に飛び乗るとポカスカと殴り始めた、それを氷精霊が羽交締めにして止める。その後ろでやはりオロオロしているのは土精霊だ。
『は、離して!アタシが止めないと…』
ジタバタと風精霊が暴れているが氷精霊はしっかりとその動きを押さえ込んでいる。
「ね、ねえ…」
つんつんとロヒューメさんが僕の肘のあたりをつっついた。
「もしかしてゲンタさん、風精霊と話が出来てる?なんか会話してるみたいだけど…」
「え…?そう言えば…会話が成立してるような…」
ロヒューメさんに言われ考えてみると出来てるような気がする。
「我々のようなエルフだったり、精霊と交信する術を持つ者は会話が出来るものですが…。少なくとも魔力を必要とします。しかし、ゲンタさんに魔力はない…。これはどういう事…?」
セフィラさんが首を傾げている。
『そ、そんなの…』
風精霊が呟く、そしてこちらをキッと見つめて言った。
『ア、アタシが偉大だからに決まってるじゃない!!とにかくッ!アタシはアンタのそばにいる事に決めたんだから!これは風の気まぐれ、次にアタシの気が変わるまで…ついててあげるわよ!そうと決まればアンタの名前を教えなさい、それと…とんでもなく不本意だけどアタシの名前を考える事を特別に許可してあげるわ!』
びしいっ!!
またまた人差し指をこちらに向けて風精霊は言い放つのだった。