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第653話 選ばれし者と招かれざる者


「車夫ではありません。こちらが…、こちらが私の愛するゲンタさん。これから私が生涯を共にしていく方です」


 シルフィさんはハッキリと、この場にいる誰にも聞こえる声で言ったのだった。


「シルフィさん…」


 毅然とした態度で宣言するように言った彼女の姿に見惚みとれ僕は思わずその名を呟いた。しかし、そんな彼女の姿を好意的にに受け止める人ばかりではない。それを良しとはしない人もいる、その筆頭が里長さとおさと呼ばれた老エルフであった。ほかにも里長と共にやってきた老齢にあると思われるエルフたちも似たような感じであった。


「な、何を言っておる…光と風の友シルフィよ…」


 スタンボーン里長が狼狽ろうばいするようにして呟いた。ちなみに光と風の友という呼称はその人をたたえるものだそうだ、その属性と特に相性が良いという事らしい。この場合は光と風の精霊との相性が最良である精霊魔法使いだという事だそうで、彼女が光と風の精霊を召喚する場合にその二者は精霊力を余すところなく使えるという事らしい。だがそれはデメリットもありその近しい精霊とは対極…相剋そうこくの関係にある属性の精霊魔法は使えなくなってしまうとの事、良い事ばかりではないらしい。


「そなたは若いがふたつの属性を自在に操る事が出来る術者、言わば選ばれし者じゃ。いずれはこの里を導いていく存在にも…と考えておった。それが…、それが…どうして…」


 人族じんぞくなどに…と言いたいのかな…僕はそう思った。そして狼狽しているのは里長だけではない、その周りにいるエルフたち…高齢てあるほどその傾向が強いようだ。


「ど、どうしてしまったのだ…シルフィは…」


「里を出たのがアダとなったのか…」


 渋い顔をしてそのような事を呟いている。


「見ればエルフの服こそ着ているが…、その者からはこれっぽっちも魔力を感じぬ。魔力は形無きおのが精神力をこの世に具現化する唯一の鍵…。魔法の行使はともかく具現化するための鍵すら持たぬ者を見初めるとは…。…立ち去るが良い、魔力無き者よ」


「なっ!?里長ッ!?」


 シルフィさんが叫んだ。


「…ふん。まあ、明日まで待ってやる。もうすぐ日がくれる頃合いだからな。それを追い出したっあっては力無き者に死をくれてやるのと変わらんゆえ…」


「それはあまりにも一方的な言いようです!私はゲンタさんの素晴らしいところをたくさん知っています、里長が知らないゲンタさんの素晴らしいところを…」


 まっすぐ、一歩も引かないといった様子でシルフィさんは応じている。それを見て里長


「…不憫ふびんな…。そこまで人族に…いや、その者に毒されたか。ならばシルフィよ、明日広場にて決めよう。里の者を皆集めて…。その者がまことにそなたの夫となるに相応しいか…、皆の前でこのスタンボーンみずから問うてやる」


「…分かりました、きっと里長にもご理解いただけると思います。…では、行きましょう。ゲンタさん」


 そう言ってシルフィさんが里長に軽く頭を下げた時だった、里長から待ったがかかる。


「待て、シルフィ!その者をどこに連れていく気じゃ?まさかとは思うが己が家ではなかろうな?それはならぬぞ、婚儀も挙げておらぬ者とひとつ屋根の下にやるのは許さぬ!ましてや夜を過ごすなど…。また、それは他の家とて同じ事じゃ。どこの家にも女子はおる。それゆえ別の家にも泊まらせる事かなわぬ…」


「そ、そんな!まさかゲンタさんを外に放り出すおつもりですか?」


「それはせぬ、先ほども言うたであろう。里の中に居ても良い、この里は精霊に守られておるでな。魔物や猛獣も近づいては来ぬ」


「の、野宿をせよとおっしゃるのですか!?」


「………」


 里長は沈黙をした、肯定しているのだろう。


「大丈夫ですよ、シルフィさん。魔物とかがいないなら一晩くらい…」


「な、ならばせめて私の魔法でおおいを作る事くらいは…」


「好きにするが良い。…それと」


 里長がこちらを見た。


「そこの者、保存食くらいは持って来ているのであろう?」


「え?はあ、はい、まあ…」


「ならばそなたにはそれを食してもらいたい。エルフは必要以上に森から搾取をせぬ。ゆえに…」


他所者よそものに分けてやる余裕はないと…」


 冷たく響く里長の声を遮るように僕なりの理解を伝えると返ってきたのは短い肯定の言葉。


「そうじゃ」


「分かりました、それで構いません。夜はここで過ごさせていただきます。それと…」


 僕はチラリとシルフィさんやセフィラさんたちを見た。


「許可いただきたい事があります。僕はシルフィさんをはじめとした皆さんにミーンの町でたいへんお世話になっています。そのご家族の皆さんに挨拶と日頃のお礼を申し上げたいのですが…」


「…良いだろう。だが、手短にな。では、行くぞ」


 里長たちがこの場から離れていくと集まっていた人たちも少しずつひとり、またひとりとこの場を離れていく。そこで僕は言われた通りにシルフィさんたちのご家族に手短に挨拶、そして手土産として持ってきたジャムなどを手渡していく。この品物がどんな物かを説明してる時間は無いけどセフィラさんたちはどんな物かは知っているから大丈夫だろう。


「ゲンタさん…」


 振り向けばシルフィさんがドーム状の…、雪遊びで作るかまくらを大きくしたようなものを作ってくれていた。材質はツタとか小枝を編んだような…きっと植物の精霊の力を借りて作ってくれたのだろう。


「ありがとうございます、シルフィさん。いやあ、これは凄い!これなら人目を気にせずゆっくり休めそうです」


 僕は努めて明るい声で言った。


「明日…、夜が明ける頃すぐに…。すぐに来ますから」


「私たちも来ますからね」


 フィロスさんやセフィラさんたちもそう言ってくれている。


「分かりました、お待ちしていますね。…そうだ、せっかくだから皆で集まったら朝食にしましょうかね」


「そんな…、ゲンタさん。そんな気楽に…」


「大丈夫ですよ、フィロスさん。ご安心ください。それより楽しみにしていて下さいね。美味しい朝食を準備しておきますから」


 もうすぐ日が暮れるという、太陽は出てないけど。そしたら一人になる、日本に帰って何を準備しようか…僕はそんな事を考えていた。


 次回予告。


『甘い香りと人だかり』


 お楽しみに。

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