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第647話 激おこシルフィさん、そしてあの子が動き出す!!


「そこの男、降りろ!!」


「早くせぬかァ!!」


 静かな木立の中を走る道で野蛮な声が響く、中には剣を抜いてこちらに向けている奴もいる。


「盗賊か!?この馬車をなんと心得るか!?」


 僕は馭者台から上の方を指差した、そこは馬車の外壁部分。ナタダ子爵家の野薔薇の紋章が浮き彫りにされている。その紋章が付いている馬車に剣を向けるという事はナタダ子爵家に刃を向けると同じ事。それを言外に、しかし声高に叫ぶ。


「ええい、うるさい!構わん、男を予定通り斬り殺せ!!ただし、女人の方は殺すな!傷ひとつつけてはならんぞ!!」


「「「おおーッ!!」」」


 周囲から応じる声が響き、抜剣の音がする。問答無用という訳か!僕は共に死戦を戦い抜いた頼もしい仲間に声をかける。帰り道に襲撃を受けるのは想定済み、対策も考えていた。


「ホムラ!!アイツらから炎の加護を奪って!」


 ひゅんっ!


 声に応じて僕の懐から飛び出したのは火精霊イグニスタスのホムラ、彼女が両手を振り上げると取り囲んでいた男たちが手にしていた松明の炎が消え辺りが急に暗くなる。


「なっ!?ひ、火が消えた!」


「こ、これは!?なんとした事だ!?」


「く、くそっ!急に暗くなったせいで周りが見えぬ!」


 困惑の声が暗闇に響く。


「炎が赤々と燃えるのはッ!!」


 僕は馭者台の上で立ち上がり声を上げた。


「全て火精霊イグニスタスの加護が働いているからだッ!今、お前たちから火を司る火精霊の恩恵おんけいは失われた!今後一切、お前たちが火を扱える事はない!」


「な、な、なにおう!松明たいまつの明かりが無くとも我らは戦える!皆、夜戦の心得を思い出すのた!」


「目を暗闇に慣らせ!夜襲の心得を思い出せ!敵を討つ術は我らの手の中にある!だが、間違っても隣の女性にょしょうを傷付けてはならぬぞ!」


「ほう…」


 僕の隣に座るフードを目深なはかぶった人物が小さく呟く。そしてゆっくり馭者台の上で立ち上がった。馭者台の上で僕と二人、並び立つような格好になる。


「お前たちが狙う女性とは…」


「な、なんだ…?相手は幼子のはず…、何やら様子が…」


 囲んでいる男たちの一人が戸惑うように呟いた。


「こんな顔だったか…?」


 ただならぬ雰囲気に囲んでいる男たちの誰かだろう、ゴクリと生唾を飲み込む喉の音が響いた。


「精霊よ、光を!辺りを照らせ!」


 かぶっていたフードを勢いよく取るとその人物は光の精霊を呼び出し辺りを明るくした。そこには美しい金髪と尖った耳、そしてキラリと輝く眼鏡をかけた女性がいた…。もちろんそれはシルフィさん、僕の護衛としてそばにいてくれたんだ。


「く、く、黒髪の少女ではない!?」


「金髪の…、エルフだとぉ!?」


「き、聞いていた話と違う!」


 明るく照らし出された周囲を見回すと消えた松明と剣を持って驚き慌てる男たちがいた。一応、布で顔を覆い素顔は分からないようにはしている。


「残念だったね、モネ様は安全な場所におられる。こんな襲撃がありそうな事、とっくに僕はお見通しだ!!」


 僕は襲撃を予想していたと宣言するように言った。まあ、もっとも本当に襲撃されるとはね。確率は五分五分くらいかなと思っていたけど…。


「ど、どうする?」


「仕方あるまい!男は殺す、エルフの方は生け取りにするんだ。幼女ではないが代わりくらいにはなるであろう。手ぶらで帰れば我らがどうなるか…」


「そうだ、やるぞ!」


「コイツらはもう袋のねずみ!やってしまえ!」


 ぞわっ!!


 辺りの空気ぐ一瞬冷えた気がした。


「愚かな…。木々の中でエルフを敵に回した事…、その身をもって知るが良い」


「な、なにおッ!!かかれーッ!!」


 剣を振りかざし男たちが駆け出そうとした、同時にシルフィさんも動いていた。


「遅い!!お前たちはすでに死地、チェスで言うところの詰みの位置にいるッ!!いでよ、結束タイラップ蔦植物アイビィー!!」


 シュルルルッ!!


「うわっ!?」


「な、なんだ?」


「くっ、動けん!!」


 取り囲んでいた男たち全員が一瞬でツタ状の植物に体を絡め取られ拘束された。それでも蔦植物は動きをやめない、さらに何十にも縛りつけ蓑虫みのむしのようにグルグル巻きにしてしまった。外に出ている体の部分は首から上とつま先ぐらい、男たちは無様に地面を転がっている。


「お前たちは…」


 シルフィさんは静かに、そして冷徹に言った。


「ひとつは森の中で私に…、エルフに時を与えた事…」


 シルフィさんは音も無く馭者台から地面に降りた。


「いかに私でも複数を相手に魔法を発動するにはひどく手間がかかる…。お前たちが無駄口を叩き、さらには戸惑ってくれて良かった…。こうして魔法の罠を仕掛ける時間をくれたのだから…」


「くっ、離せ!」


「我らを解放せよ!」


五月蝿うるさい」


 ビィンと弦鳴つるなりの音が三つ続けてしたかと思うと悪態をついていた三人の男の眼前の地面に矢が付き立った。エルフは自分の生誕の日に自らの分身とされるトネリコの木を植えると聞く。そのトネリコの初枝を削り出して作った弓はまるで本体であるエルフと同様に育ち、さらには自分の体の一部のように自在に扱う事ができ、召喚魔法のように自らの手に出し入れが出来るという…。


「うっ…」


 怯んだ声を上げる男たち、しかし別の男がわめき出す。


「ふざけた事を!さっさと我らを解放せぬか!我らを誰だと…」


 どすっ!!


「ぐぎゃああああ!!」


 口を開く事をやめず喚いた男の足裏にシルフィさんが放った矢が突き刺さり地面にい止める。


「ふたつ目の…」

 シルフィさんは次の矢を弓につがえた。


「我が愛する人を手にかけようとした事…、決して許さない。それすなわち命乞いも謝罪も通じぬと心得よ」


 キリキリと弓を引き絞りながら言うシルフィさん、彼女は魔法も剣も超一流の魔法戦士?そして同時に弓の腕もまた超一流だ。


「言え!!誰がお前たちにこうさせた!」


 シルフィさんは怒りを帯びた声で問いかけた。


「ぬっ…。な、なんの事だ」


 ペドフィリー配下と思しき男はあからさまにシラを切る、その態度に僕は腹が立ち叫んだ。


「とぼけるな!お前たちは明らかにモネ様を狙っていた。しかも夜戦の心得を思い出せ…とも言っていた。つまりお前たちは正規の訓練を受けた騎士か兵士だ。そんな事を命じる奴はひとりしかいない!」


「し、知らぬッ!!我らが勝手にやった事だ!中々に良い馬車をしているゆえ金目の物…、あるいは中に乗っている者を人質に金も得られようと考え…」


「ウソをつくな!その言葉遣い…、それは明らかに騎士言葉だ!庶民はそんな堅苦しい言い方はしない!!」


「ぐっ!し、知らぬ!これから先ッ、我らは何もしゃべらん!!」


 その言葉通り男たちは尋問しようが脅そうが一切口を開こうとはしなかった。その様子を見てシルフィさんが口を開いた。


「ゲンタさん、これ以上は徒労とろうに終わりそうです」


「シルフィさん…」


「この者たち、おそらくは騎士でしょう。騎士ともなれば主に忠誠を誓うはもちろん、国許くにもとには家族もいる…。裏切ればどうなるか…、言わば人質…」


「あ…」


「そうか、それでここまでかたくなに…。そうなると口を割らせるのは…」


 無理か…、そう思った時だった。


(許す訳ないじゃない…)


 少女の声が聞こえた。ふわり…、思案に暮れていた僕の前に闇精霊カグヤが浮かんでいた。


「カグヤ…?」


(ゲンタを殺そうとしたんだもの…、許さない)


 そんな心の声が聞こえたかと思うとカグヤは縛られて地面に転がっている男に近づいた。それはシルフィさんに足を射抜かれた男、近付いたカグヤはその男の頭に手をやると地面に押し付けるように力を込めた。


(沈め…)


 ずぶぶぶぶ…。


「ヒィッ!!か、体が…」


まるで底なし沼にはまったかのように男の体が地面に…いや、自身の影に沈んでいく。


闇精霊シャルディエは闇を操る…。当然、暗き影の中も彼女たちの世界…」


 シルフィさんが呟く。


「闇に終わりはない…。取り込まれた奴らの心、いつまで耐えられるか…」


「や、やめッ…」


「助けてく…」」


 見れば周りの男たちもまた影か地面か、よく分からないが沈み込もうとしている。手を伸ばそうにも手は縛られ、逃げ出そうにも身動きもままならない。やがて一人残らず奴らの体は沈み込んでいった、とても激しい悲鳴を上げながら…。そして後に残ったのは不気味なまでの静けさであった。

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