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第646話 お姫様抱っこは婚約者の特権?


「しょっ!?しょしょしょっ、肖像画ッ!?」


 前侯爵コーイン・ペドフィリーが叫んだ。


「いかにも」


 僕はそれに応じる。


「このように大きくデカデカと私とモネ様の肖像画がございまする。前侯爵様におかれましてはお見落としになられていたのではないでしょうか?」


「ば、ば、馬鹿な…。先日来た時には…」


「あ、あんなに大きな肖像画…」


「なんて見事な…、名の知れた絵師に依頼されたのかしら…」


 いや、御婦人…それは、その絵は僕がスマホで撮った画像で描いたのパソコンですよ。


 そして前侯爵様…。そうだろうね、無かったよね。繰り返すけどこれは僕が撮った画像…、それをパソコンで絵画風に修正加工したものだ。これを高級和紙製のプリンター用紙に印刷したのだ。ひとつはモネ様の持つ小さな肖像画入れに…、あれには手鏡もある。婚約者であるという意味合いと共に手鏡の意味を考えれば正式な結婚すら申し込んでいるのが分かる。


 そして広間入り口の肖像画はその画像を十五倍にまで拡大し印刷した物さ。西洋画風にして…、ね。


「う、うぐぐぐ…!馬鹿な…、馬鹿な…」


 今日何度目か分からない歯噛みをペドフィリー前侯爵がしている、さて決めゼリフといきますか。


「これほどの大きな肖像画…、完成するのにどれほどの時間が要りましょう…。おそらく前侯爵様におかれましては奥方様、そしてモネ様のお美しさに身を奪われ他の物が目に入らなかったのやも知れませんね。しかしそれもせんなきこと…、月にも例えられる御二方の美しさから目を外らせる事など出来ましょうか!」


「ああ…、ゲンタ様…」


 とん…。


 僕の腰のあたりに寄りかかるようにして呟くモネ様。


「おや…?これ、モネ。少々はしたないぞ…、と言いたいところじゃが宵というには少々時が過ぎておるのう。酒の酔いもあるやも知れぬ。これ、誰かモネを寝所しんじょへ…いや、待て…」


 何かを思いついたように奥方様が一度言葉を切った。


「そうじゃ!ゲンタ…いや、ゲンタ殿よ。モネを寝所へと運んでやってくれぬか?いずれ夫となる身じゃ、咎める者などおらぬよ」


「お、奥方様…、それはいささか…」


「そ、そうじゃ。それはならぬ、ならぬぞォォ!」


 僕は狼狽うろたえるフリを、一方のロリコン貴族は唾を飛ばしての猛抗議。だが、それに動じる奥方様ではなかった。


「ふふ、ゲンタ殿よ。妻の実家の中では気恥ずかしいのかの?ならば、そなたの家に連れていってくりゃれ。それならば恥ずかしくもあるまい。そのまま腕に抱き抱えてやって…。そうじゃ、そう…。優しく、優しくのう…」


 僕はモネ様をいわゆるお姫様抱っこをして抱え上げる、とても小さく軽かった。一方でモネ様は僕の服の胸元を軽く握り顔を伏せている。


「そ、それでは…。途中にてこちらを退きまするが…」


「うむ。そう言えば馬車があったのう。あれでふたり…、余人よじんを交えず行くがよい。ふふ…、こういう時に市井しせいの娘を持つ親たちは何と言うのだったか…。たしか…、今夜は戻らずとも良いぞ…だったかのう?」


「奥方様!は、はしたのうございます」


 奥方様の軽口をスカイ・キーンさんが慌てて止める。


「冗談じゃ。ゲンタ殿、夜は冷えるゆえモネを暖かくして馬車に乗せてやってくりゃれ」


「はい、お言葉のままに…。実は上着もご用意させていただいておりまする」


「ほほほっ!なんとも準備の良い…。さてははじめから連れ帰るつもりじゃったのか?」


「う、うががががッ!!!お、面白うない!わ、わしは帰るぞ!!若造め!!貴様の顔ッ、しかと覚えたぞ!ただでは済まさぬ!済まさぬぞ!」


 今夜一番の甲高い声で絶叫するように怒りをぶちまけるとペドフィリー前侯爵は肥満した体を揺らしながら貴族らしい退出の礼もしないまま広間を出ていった。


「あ、ああっ!ペドフィリー様!」


「お、お待ちを!」


 取り巻きたちも慌ててその後を追って行った。後には奥方様をはじめとしてナタダ子爵家の家中の人だけが残った。先程までの騒がしさはなくなり静かになる。


「やれやれ、騒がしい御仁でしたな…」


 呆れたように騎士のスネイルさんが言った。


「ほんにのう。あんなのか侯爵位におったのじゃから…、国許くにもとの民は気苦労が多そうじゃな。…さて」


 ちらり…。


 言い終えたところで奥方様がこちらを見た。真面目な顔だった。


「ゲンタよ。これで良いのじゃな?」


「はい、奥方様。これであの前侯爵、矛先が私に向きましょう」


 僕はまっすぐ見つめ返して返答をした。



 ナタダ子爵邸の門が開き僕は馭者台に乗って馬車を進ませた、馬を走らせるのではなくゆっくりと…。


「慣れていない僕が下手に馬車を操るよりも馬に任せた方がずっと安全」


 馬は賢い生き物だ。ましてや貴族家の馬車に使われるほどの馬…、気性も良く訓致くんちもよく行き届いている。


「寒いですか?」


 ふるふる…。


 馭者台の上、僕の隣に乗る小柄な人物が被った寒さよけの外套についたフードが小さく左右に揺れた。だけど夜風が寒いのは事実、僕はその肩を抱いた。


 子爵邸は町からは少し離れている、それはいざ有事の際に立て篭もる事が出来るように…。だから町が交通に便利とか農地がある場所にあるのに対して子爵邸は守りやすく攻めにくい場所に建てているのだ。その町へと戻る道すがら…、二人だけの帰路につく。誰もいない木立の道がここからは少し続く。


 静かだ…、風もない夜。馬の蹄と引かれる馬車の車輪が軋む音だけがしている。僕がそんな事を考えていた…、そんな時だった。


 行く手に複数の松明たいまつが見えた。


「その馬車、止まれェェ!」


 男の声だった、聞き覚えはない。僕は馬車を止めた、すると別の声が後に続くと同時に目の前の松明が散開する。


「そこの男、降りてこい!そして残る馬車は我らがいただく!!」


「手向かうならば殺す!」


「モタモタするな!!」


 散開した連中だろう、馬車の左右からも声がする。どうやらすっかり囲まれているようだった。



(北斗の拳風に脳内で補完して下さい。ナレーションはもちろん千葉繁さんで!)


 次回予告。


 襲撃を受けたゲンタ、相手の予想はつく。当然その狙いも…。


 幼いモネが狙われて…、そして愛するゲンタが狙われてシルフの心が激しく燃える。そしてもうひとり…、誰よりゲンタを深く愛するその者は深淵の淵に襲撃者たちを引きずり込む!!


 次回、異世界産物記!


『激おこシルフィ、そしてあの子が動き出す!!』


「…お前たちを、許さない…(謎の少女の声で)」



 お楽しみに。

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