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第639話 まちぶせ?


 冒険者ギルド前でのプロポーズ、あれから五日ほどが過ぎた。その間、僕たちは色々な事に忙殺された。…と、いっても結婚式を挙げたからでも新婚旅行に行ったからでもない。単純に留守にする間の商品在庫の補充や準備である。


 そもそも異世界では庶民は結婚式を挙げないというのが一般的である。せいぜい知り合いが酒を持ち寄るくらいのものだ。そう意味では猫獣人族キャトレの顔役であり、鳶職とびしょくたちを束ねているゴロナーゴさんが弟子の職人さんがお嫁さんをもらうと聞いて宴会の料理とかを用意した事があった。だけどそんなのは庶民階級で言えばはかなり珍しい事、やはりそこはゴロナーゴさんにしっかりとした収入があると共にお弟子さんをとても大事にしているという事だろう。


「こっちの事はちゃんとやっとくから安心して行ってくれて大丈夫だぜ」


 冒険者ギルドの一角にお米や野菜を、そしてカレールーなど売ったら高値になりそうな物は人目につかないように鍵のかかる部屋にしまったところでマニィさんが声をかけてきた。


「お肉も凍らせたものがありますし、これでしばらく大丈夫ですぅ」


 フェミさんも一緒だ。


「それじゃ明日から五日間、よろしくお願いしますね」


 僕は二人に声をかけた。実は明日から五日間くらいの予定で僕はこのミーンの町を出てシルフィさんが生まれ育ったエルフの里に向かう事になっている。ご両親への挨拶の為だ。


「ゲンタや、気をつけて行ってくるんだよ」


「マオンさんも。朝の販売も少しお休みに出来れば良かったんですが…」


「かまわないよ。毎日ちゃんと働かないと食べていけないのは世の常さ」


 実は当初、五日ほど朝食販売のお休みを予定していたのだが冒険者の皆さんが僕の朝食が五日とはいえ嫌だと声が上がった。そんな訳で朝食販売の切り盛りはマオンさんにお願いして僕は旅立つ事にしたんだ。


 そして今後の事をお願いした後は明日に備えるだけ。ちなみにマニィさんとフェミさんとの結婚については彼女たちが生まれ育った孤児院の母親代わりだったシスターさんにすでに報告済みだ。


 マオンさんとそう変わらない年頃のシスターさんはマニィさんとフェミさんの結婚を報告すると顔をくしゃくしゃにして喜んでくれた。ミアリスがシスター見習いをしているのもこの孤児院が併設されている教会だしなにかと縁があるのかも知れない。


 やるべき事をやりギルドを後にする。マオンさん宅に戻る道すがら、何人かの顔見知りが結婚おめでとうと声をかけてくる。そんな彼らにありがとうと返しながら歩いていると護衛についていてくれているエルフの姉弟きょうだいたちの一人、タシギスさんが何かに気付いたようだ。


「ちょっと待って下さい…、ふうむ…、マオンさんの家の前に誰かいますねえ…」


 そう言ってタシギスさんは足を止めた、同時に目を閉じ右手の人差し指と中指でこめかみのあたりをトントンと軽く叩いている。他の姉弟きょうだいたちも足を止めると周囲を油断なく警戒し始め四方を固めるような配置となる。そしてもうひとり、護衛に加わっているフィロスさんが僕とマオンさんの近くに位置取りをして杖を握り直した。


「精霊の力を借りてこの先を偵察させているんだよ」


 ロヒューメさんが周りに気を配りながらも教えてくれた。ちなみにここはマオンさん宅まであと百メートルちょっと…この路地はまっすぐではなくゆるやかにカーブしており、わずかだが起伏もあり道の両側には建物もある。残念ながらこの場所からは


「おやおやおや…、二人…いや、三人ですか…。この気配が小さいのは…、ひとりだけ子供が混じっているようですね…」


「子供?」


「ええ、ゲンタさん。間違いなく子供のようです、殺気も感じませんし危険は無いと考えますよ」


「じゃあ、このまま行きますか」


 危険が無さそうならここで止まっている理由はない、僕たちは移動を再開した。そしてマオンさん宅の前の路地が見えてくる、すると見覚えのある人物がそこにいた。


「ウォズマさん」


「ああ、ゲンタ君。…まずは先に言わせてくれ、すまない…」


 マオンさん宅の前にいたのはウォズマさん。今日は鎧を着ておらず腰に短剣だけを差している軽装だ。そしてその隣には奥さんのナタリアさんがいる。


「ウォズマさん、どうしたんですか?いきなり謝るだなんて…」


 僕が応じるとウォズマさんはなんともすまなそうに…、そして言いにくそうに口を開いた。


「実はアリスが…、ゲンタ君が妻を迎えるという話をどこからか聞いたようで…」


 ぴょこっ!


 ウォズマさんの言葉を受けてという訳ではなさそうだが、おそらくナタリアさんの後ろに隠れていた少女が顔を出した。ウォズマさんとナタリアさん、美男美女の両親から遺伝子をそのまま受け継いだような愛らしさ…将来間違いなく美人になるんだろうなと思われるその容姿の持ち主は…。


「アリス…ちゃん…」


「……………」


 そこには両頬をかわいらしく膨らませ眉根を寄せるアリスちゃんがいたのだった。




 さて、次回は…。


 旅立ちを明日に控えたゲンタたち、そこに現れたアリスはなにやら大変なご機嫌斜め。最初に嫁になるのは自分だと言ったのに…、幼いながらも心は『女』そのもののアリス…。しかし結婚しようにもアリスは未成年、妻にする事はまだまだできない。言葉を尽くして説明しようにも彼女はまだまだ幼すぎた…。


 次回、第640話。


 『立ち塞がるのが中ボスだけとは限らない。いや…、ラスボスか?』


 お楽しみに。

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