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第638話 私…、いなくなった方が良い?


「ただいまー」


 誰もいない自室アパートの部屋に戻った。クローゼットから出ると小さな頃からの習慣か、返事をしてくれる人はいなくてもついつい言葉が口から出てくる。


「おめでとう、ゲンタ」


 振り向くとそこには黒髪の少女がいた。…いや、少女というにはずいぶんと大人びている。…少なくとも小学生とか入学したての小柄な中学生の体格ではない。


「カグヤ…だよね?」


「うん…、私だよ」


 くす…、唇にわずかな笑みを讃えて彼女が応じた。


「そ、そうだよね。でも、その姿はいったい…?」


「知らない。ここに来たらこうなってた。でも、不思議…。いつもはゲンタを見上げてたけど今はそんな感じじゃない」


 そう言いながら彼女がこちらにやってくる。そしてその頭を僕の胸に預けてきた。


 とん…。


 僕の胸にカグヤの額のあたりが触れた。


「ねえ…」


「ん?」


「私、いなくなった方が良い?」


 僕の胸に顔を埋めたままカグヤが言った。


「え?」


「ゲンタ、嫁を取るんでしょ?それならのに私がいたら…」


 カグヤの声と肩が震えていた、普段はミステリアスな笑みと冷静さが特徴の彼女が今はなにやらとても儚げに感じた。


「そういう事、言うな」


 カグヤの背中に両手を回して僕は若干強めの口調で言った。


「僕はカグヤと離れるのは嫌だよ」


 命懸けで僕を守ってくれたカグヤ、これから先どうなるかは分からないけど彼女がいない毎日なんて今となっては考えられない。


「良いの…?」


「うん」


 僕との体格差があまりなくなったカグヤ、前までは歳の離れた女の子といった感じだったが今はそう…、ひとつかふたつ歳下の学校の後輩といった年恰好だ。


「私、闇精霊シャルディエだよ」


「今さらだよ。関係ない」


「私、束縛するよ?」


「別に良いよ、離れ離れになるよりずっと良い」


「ここに…、ゲンタの部屋に来ても良いの?」


「良いよ、カグヤが来たい時に来たら良い」


「ゲンタ、結婚するのに?それなのに私がこの部屋に来ても良いの?」


「う、うん…」


「ふーん…、いけないんだぁ…」


 カグヤが顔を上げた、儚げな表情からわずかに口元の両端がわずかに上がる。


「シルフィが…、他にも嫁がいるのに…。プロポーズしたばかりなのに…。いけないんだぁ…、別の女にもそんな事言うなんて…」


 くす…。


 カグヤか笑みを浮かべた。


「最低…」


 そう言いながらもカグヤが僕の背中に手を回してきた。


「絶対に離れて…あげないからね…。私…、いつも…ずっと見ているよ…。ゲンタを…ゲンタだけを…」


 ぞくり…。


 胸元で囁いているカグヤの声が僕の体を突き抜けて真冬のような冷たい手で背中の骨を鷲掴みにされたような感覚が走る。


「お、お手柔らかにね…」


 カグヤから底知れぬ迫力のようなものを感じて思わず声が震えた。


「大丈夫だよ、ゲンタ…」


 僕を再度抱きしめ返すカグヤの黒い髪、白い肌…、そして吸い込まれるような濃い紅色あかいろの瞳…。


「ゲンタが私を捨てない限り…、ずっと…、ずっと一緒だよ…」


 僕を見つめて離さないカグヤの眼差し、僕はその瞳がより一層鮮やかな真紅の色合いを帯びたような気がしていた。

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