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第636話 もし僕が異世界人でも受け入れてくれますか?


 プロポーズが終わり、僕たちは冒険者ギルドの中に戻った。建物の外では何やら盛り上がっている声がする。


「ようし、ワシも今日は仕事休んで酒飲むぞ」


 そんな声もチラホラと聞こえる、ギルドの建物の中に設置した焼酎の自動販売機の残量計の目盛りがだんだんと減っている。どうやら僕のプロポーズを酒のさかなに飲み始めた人たちがいるようだ。


 そんな中、僕はふと考える。


 僕が日本という国から来ている事、そしてその日本はここミーンの町とは違う異世界にある事…、これを話すか話さざるか…それを考えていた。


 夫婦だと言うならば隠し事なくやっていきたい。だが、それを話した時に三人はどう思うだろう?国や地域どころか違う世界から来た僕と受け入れてくれるのだろうか、そんな不安がズンと重くのしかかる。


「ゲンタさん…」


 シルフィさんが…いや、シルフィさんだけではない。マニィさんとフェミさんも僕を見つめている。何か言うべきなんだろうけど言葉が口から出ない。それはシルフィさんたちも同じようで何か言いたそうなんだけどそれを口に出来ないような雰囲気だった。しかし、そんな沈黙をぶち破ったのは…。


「う、うおおおんっ!!うおおおんっ!!わ、私よりも…私よりも歳下のシルフィちゃんが…プロポーズを受け入れちゃったよぉぉ…。ま、また私より先に嫁に行っちゃうよぉ…」


 号泣する凄腕の冒険者でありシルフィさんと同じ里の出身のフィロスさん。シルフィさんにとっては同じ里で育ったお姉さん的な存在だ。


「嬉しいのよ!嬉しいのよぉ!シルフィちゃんが幸せになるのはぁ…!でも、私も結婚したいのぉ!わ、私なら旦那さんになんだってしてあげるのにィ…。し、城のひとつくらい吹っ飛ばすくらいは…」


「……………」


 と、とりあえずフィロスさんの事は置いといて…。でも、そうだよなあ。シルフィさんもマニィさんもフェミさんも僕が危ない時には体を張って守ってくれた。だったら僕も…もっと真剣に向き合うべきなんじゃないか。フィロスさんじゃないけど城を吹っ飛ばすような覚悟のひとつくらいは持つべきなんじゃないか…、そう考えたんだ。


「シルフィさん、マニィさん、フェミさん…。少しお時間を頂けませんか?」


 勇気を出す、僕は意を決して口を開いた。結果は分からない、本来ならもっと早く言うべきだったのかも知れない。だけど僕が異世界人というのを話したらこの築いてきた良好な関係が一瞬にして崩壊してしまうかも知れない。


 恐怖はある、だけど結婚をしたら…夫婦になったら僕が日本から来ている事はいつかは知られる事だろう。それが早いか遅いかは時の運というだけで…。


 だから僕は敢然と立ち向かう。生きるとしても死ぬにしても…、秘密の告白としては大袈裟な言い方かも知れないけど僕は日本で暮らしている時には絶対に目にしないような人や動物の生き死にや負傷も目にしてきた。どんな結果でも全力でぶつかる、そんな気持ちが湧いてきていた。



「ここなら誰もいませんし、仮に近づいてきてもすぐに分かりますから…」


 町の外…、精霊の力を借りて数百メートルの短距離瞬間移動を繰り返して僕たちはそこにいた。見渡せば町の囲いが見えるくらいの距離である。見渡すと何もない野原…、そこを僕は告白の舞台とした。その理由は…。


「ゲンタよ、真に秘めたい話ならば決して密室で行うでないぞ。いつ誰が物陰に隠れて聞き耳を立てているか分からんでな、このように庭園など周りがぐるりと見渡せる場所で話すのじゃ」


 いつだったか子爵夫人であるラ・フォンティーヌ様と子爵邸の庭で面会した時の事を思い出す。それにならって僕は町の外の周りが見渡せる場所を秘密の告白の場所にした。


「どうしたんだよ。ダンナ…って、へへっ…ホントに旦那になっちまうんだな…」


 少しはにかみながらマニィさんが言った。


「実は…、僕には皆さんに話さなければならない事があるんです」


 ひゅううう…。


 風が吹く、今までの少し浮ついた雰囲気を洗い流すような風だ。一瞬の沈黙が生まれた、そこに言葉を重ねていく。


「僕は…、とても遠い所から来ました」


「たしか、そうでしたね。他の国で学生をしていたとか…」


 シルフィさんが応じる。確かに学生はしている、だがその場所はちょっと違う。


「はい、商売あきないを学ぶ学生です。しかし、その場所は…、国どころか…それすらはるかに越えた所から来ました」


「遥かに越えた…、もしかして海の向こうって事ですかぁ?」


 フェミさんが問いかけてくる。


「いえ…、海さえ越えて…。もっと遠い…」


「それより遠い…?ゲンタさん、それは一体…?」


 三人を代表するような感じでシルフィさんが聞いてきた。意を決する、正直に話すんだ。


「僕は…違う世界から来たんです。そこは誰も行き来が出来ない…、別の世界なんです」


 …カグヤを除いては…、そんな例外を思い浮かべながら僕は異世界から来た事を告げた。


「違う世界…」


 三人が呟く…。


「つまり…僕は異世界人なんです。そんな僕ですが…それでも…」


 息をひとつ吸い込む。


「それでも…、それでも皆さんはッ…!もし、僕が異世界人でも受け入れてくれますか?」


 胸に溜めた息を一気に吐き出すようにして僕は告白と問いかけをしたのだった。

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