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第635話 プロポーズの返事


「あ、暴れ馬だぁ!!!」


 荷馬車から外れた馬が突っ込んでくる。それは僕とプロポーズをした三人の女性に向かって。三人の女性を守ろうと両手を開いて立ち塞がった僕、しかしそれは入念なリハーサルをした上での事だ。僕も馬も馭者のテリーマさんもそのリハーサルの上で大丈夫と判断したからやっているパフォーマンス、しかし荷馬車が外れてしまい馬はテリーマさんの制御を離れている。


(しまった!度重なる急停止のトレーニングで馬具が壊れていたんだ…。だから馬が馬車を外れて…)


 僕は心の中で舌打ちする、しかしそれはもう後の祭りだ。逃げるか…?だけどそれは後ろにいるシルフィさんたちを危険に晒す事になる。


「……………ッ!!!」


 震える足を叱咤して僕はその場に立ちはだかる事に決めた。守ると言ったばかり、ここで逃げる訳にはいかない!そう決意して突っ込んでくる馬に一歩も引かない構えを取る。その時だった。


 タンッ!!


 軽い足音が響いた、僕の前に飛び出す後ろ姿。金色の髪が揺れる、その姿には見覚えがある。


「シルフィさん!」


 僕の前に飛び出した彼女は手を前に突き出し気合いのこもった声で叫ぶ。


「風よ!!」


 ブワアアッ!!!


 全てを押しとどめ巻き上げるような強い風が生まれた、突っ込んでくる馬に対して向かい風の…斜め上空に向かうような風だ。その強い向かい風を受けて馬は体をあおられる、上体がのけぞりスピードが落ちる。


「おお!や、やったか!?」


 野次馬から声が上がった。ら、らめえぇぇ!!それフラグ…。


「ダ、ダメだぁ!止まらねえ!!」


 野次馬の人が言った通り、強い向かい風を受け暴れ馬は確かにスピードが落ちたがこちらに向かってくる。まずい、このままじゃ…僕は…いや、それ以上に僕の前に立つシルフィさんが危ない!


「強すぎる風を浴びせて馬を傷つける訳にはいきませんから…、マニィ…」


「分かってるよ、シルフィの姉御ッ!!」


 後ろ姿のシルフィさんの冷静な声、そしてそれに応じるマニィさんの声が僕の頭上から聞こえた。


「この風で止められれば最上ベスト…、しかしそれが出来ないのならこの風は人を運ぶものに変わる」


「ああっ、赤い髪のねーちゃんが…!!」


「ちゅ、宙を舞っているウゥゥッ!!」


 野次馬たちの言葉を聞いて上を見ればマニィさんがふわりと宙を舞っていた。そして空中でクルリと宙返りをして体勢を整えるとそのまま暴れ馬の背に飛び乗った、かなり前目の首の付け根に近い辺りに…。


 くらの付いていない裸馬はだかうま…、乗るのがとても難しいとされるそんな馬に飛び乗ったマニィさんは両手を前に伸ばした。そして馬の両目を手のひらで塞ぐ、まるで親しい友人にする悪戯のように…。


「ほうら、怖くねーぜ。止まれ、なぁ?馬ってなあ両目を塞がれると立ち止まるモンなんだろ?」


 相変わらずの良声イケボで囁くようにしながら暴れ馬を落ち着かせようとする。その言葉通り、両目を塞がれた馬はその足を緩め始めた。しかしすぐにピタリと止まる訳じゃない、スピードは遅くなったものの馬はこちらに駆けてくる。いくらスピードが落ちてきているとはいえ四百キロ…いや、五百キロはあろうかという巨馬にぶつかられては僕たちもただでは済まない。だが、馬上の人になっているマニィさんに焦りの色は無い。むしろ苦笑いのようなものを浮かべて口を開いた。


「止められなかったかぁ…。あーあ、フェミに一番おいしいトコを持ってかれちまうなぁ…。フェミ、しくじんなよ」


「ふふっ。マニィちゃん、ごめんねえ」


 とてとて…。


 可愛らしい効果音が起きそうな女の子走りをしながらフェミさんが馬に向かっていく。そしてそのままぶつかっていった。


「ええーいっ!!」


 がしいっ!!


 フェミさんは馬の胸元あたりに正面から両手のひらを突き出し押し留めようとする。ズザザザと音を立て踏ん張っている両足が押し込まれていく、そして土の地面にはフェミさんの足跡が電車のレールのように刻まれると同時に馬のスピードが落ちていった。そしてシルフィさんの少し前でその足は完全に止まった。


「…ぶるるる!!」


 しばらくすると馬が不満気に鼻を鳴らした、もう走らないからその手を離せと言っているようだ。


「あっ、はい!」


「おっ、ワリーな」


 フェミさんとマニィさんが馬の体から手を離した。そして馬は暴れる事なく立ち止まっていたが首を上下に動かした、どうやらマニィさんに降りろと言っているらしい。ひらりとマニィさんが飛び降りると馬は外方そっぽを向いた、やはり不機嫌であるようだ。


「ご無事ですか、ゲンタさん?」


 そんな中、シルフィさんが振り返って言った。マニィさんもフェミさんもこちらを見ている。


「は、はい。皆さんのおかげで…」


 僕が返事をすると周りから歓声が上がった。


「うおおおっ!すげえっ、すげえぜ!」


「あのクソでけえ馬を止めちまったあ!」


「嫁さんたち、やるじゃねえか!」


「こりゃあ、浮気なんかしたらあんちゃん、死んじまうな!!」


「違えねーぜ!


 そんな中、シルフィさんたちがやってきた。


「喜んでゲンタさんと一緒になります」


「オレも!」


「私もですぅ」


 その日、冒険者ギルドの前は大騒ぎになった。男性は誰もが劇的な一部始終に沸き立ち、女性たちもまたガラスの手鏡を羨望の眼差しで見ていた。


 そして僕は結婚相手の一人、シルフィさんの生まれ故郷であるエルフの里に近々向かう事がギルドマスターのグライトさんから大々的に発表された。エルフの里は森の奥深く…、エルフでなければ導きがない限り何人なんぴとたりともたどり着けず近づく事すらできないという。


 僕の事を監視していたと思われる人たちは何人か姿を消していた。おそらく今回の件を報告しに行ったのだろう。彼らが今後、どんな動きをしてくるかは分からないが今はシルフィさんたちとの結婚について真剣に考えていこうと思う。


 だから僕は考えた、自分が異世界…地球から来た事を話すかどうか…。まずはそこからという事を…。


 次回予告。


 ゲンタのプロポーズを受け入れたシルフィ、マニィ、フェミの三人。本来なら幸せな瞬間であるもののゲンタの心中にはひとつ心配事があった。


 すなわち、自分は地球から来た異世界人であるという事。


 これを話すか…話さないか…。そして話したとして彼女たちが異世界人である自分を受け入れてくれるのか…?ゲンタの心は揺れに揺れていた…。


 次回、異世界産物記。


 『もし僕が異世界人でも受け入れてくれますか?』


 お楽しみに。

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