設定集 社会的地位 『公』
第631話から登場している老紳士『ミトミツク』、イメージは水戸黄門の名で有名な徳川光圀なのですが今回は彼が隠居する前についていた地位『公』について記載させていただきます。
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異世界モノの小説によく登場する貴族、国王を頂点とする階級制度ですが特に代表的な五爵と言われる基本的に爵位制度が有名だと思います。これは功績によってだったり、その地域の統治の為には必要不可欠な影響力を持つ有力者に『国王から与えられるもの』という形になります。
その最上位に当たる『公爵』、これは大貴族であり元は王族の血を引いている者が入った家に与えられる爵位であると筆者は定義しています。例えば王族の男子がどこかの有力な大貴族に婿入りしたとか養子に入って当主となった…といったところでしょうか。
対して『公』は王族の一門としての立場になります。それも王を家長とする一家の一人という立場ではなく、同じ姓を名乗りつつ王家とは別の家の家長という立場です。
それゆえ家臣という訳でもなく、また国王を家長とする家の中の人でもない為に王に従わなければならないという根拠が無いのです。
作中ではミトミツクは先々代の国王の末弟となります。
さて、ここでまとめていきますと『公』と『公爵』についてですが、公にしても公爵にしてもかつての王族の血を引いている…これに関しては同じです。
しかし両者には明確な差があり、公爵家とはあくまでも王家とは別の臣下の立場の家であるということ。王家とは別家で姓も異なり、あくまでもよその家であるというのが第一にあります。
対して公は国王の一家とは同族であり、姓も同じです。その立場は基本的には同格、しかしながら国王が国を率いる訳ですから公は王の立場を尊重しなければなりません。また王もまたそれは同様で自分は国の第一人者、しかしながら公にも敬意は払わねばならない。尊大過ぎてはならないけれども、謙り過ぎてもならない…そんな態度が求められます。ましてやそれが自分と相手との年齢差であったり、気性など二人の関係性などもあるでしょうから中々に複雑です。
また、国王ともなれば夫人は複数人いたでしょうから、子によっても産んだ母親の出自(実家の身分など)によって他家に出される事(家来筋の家格にする事)が生まれた時から決まっていたりするのも珍しくはありません。とうぜんその出される先の貴族も家の大小や爵位の高低があります。
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戦国時代や江戸時代の日本史にお詳しい方に例えるならば、公爵は戦国時代の毛利家になぞらえると国王家は毛利家で公爵家は吉川・小早川の両家みたいな感じになるでしょうか。毛利家本家、そしてその本家を支える為に元就の次男元春と三男隆景を有力な両家に送り込み安芸国の支配を固めた…といった形になります。
対して公ですが、こちらは江戸時代の徳川将軍家に対する水戸・尾張・紀州の御三家のようなものになります。あくまでも建前にはなりますが将軍家に対しても同格という扱いです。
そして特に公爵家と公の違いが現れるとすれば、それは国王崩御の際です。普通、国王が崩御した際には後を継ぐのは王太子となります。しかしながら子宝に恵まれなかったり、あるいは男子がいなかった場合には王弟などが継ぎます。しかし、それでも王家の中に適切な男子がいなかった場合には公の地位にある家の男子から王の後継者が選ばれます。後継者候補者の年齢や才覚、そして名声が次代の王に相応しいかどうか…、他にも各家の勢力や政治的バランス、それからその公の位にある者が王になってしまってもその公の家自体に後継者がいるかなど様々な事を考慮された上で選出されます。
しかしながらそれでも後継者にするには適切な人かいないという事になった場合…、そこで初めて公爵家から後継者を選ぶ事になります。ただ、それはあくまでも稀有な例…。少なくともいくつかある公の家の中から男子が一人でも余っていれば公爵家に出番が無い訳ですのであくまでも有力貴族としての立場を守る事になります。
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今後の作中にミトミツクが再登場するかは分かりませんが、今回の話を書くに当たって思い浮かんだ設定でしたので書いてみる事にしました。
お話が好きな方はもちろんですが、こういう設定がお好きな方もきっとおられると思います。かつて富士見書房様から『アイテムコレクション』とか『スペルコレクション』という書籍が発刊されました。その内容にRPGが好きな私はこの本を後に見つけて夢中になったものです。こういう様々な設定を考えるというのも書き手の楽しみのひとつかなと私は考えています。
願わくば本編以外のこういった文章でも楽しんでいただけたら幸いです。
次回予告。
ギルドマスターのグライトに結婚を勧められたゲンタ。
「で、でも、いきなり結婚だなんて…」
焦るゲンタだったがグライトには何やら狙いがあるようで…。
ゲンタの嫁取り、さてさてどうなる?
次回異世界産物記、第634話
『僕は死にましぇ…、あれ?』
お楽しみに。