第623話 おしりあい?ミワキーロさん、降臨。
ハチミツ成分入りシャンプーを小売りしてから数日…。ミーンの町の中、道を歩いているとピースギーさんたち四人組とさらには冒険者のイッフォーさんが一緒にいるところに出会った。場所は町の南門に近い辺りだった。
「あらァん、ゲンタちゃん!」
僕に気付いたイッフォーさんが声をかけてきた。
「こんにちは!みなさん、お揃いですね。どちらかにお出かけですか?」
「そうなのォ!町の入り口までお迎えに行くところなのよォ」
合計5人のおネエ様方がニコニコしながら応じた。
「お迎え?どなたかお知り合いの方が来られる?」
「そーお!お知り合いなのよォ!!こんなカンジでェ…」
ぐりぐりぐりっ!!
僕の後ろに回り込んだイッフォーさんが自分のお尻を突き出してきた。それが僕のお尻にドッキング、その密着状態から左右に動かしてきた。
「おシリとおシリが合わさってェ…、おシリ合いィィ〜ッ!!」
「きゃあー、イッフォー!まだ日の明るいうちよォ〜!!」
「いーえ、むしろおシリ愛だわァんッ!!」
周りのおネエ様方も口ではイッフォーさんを止めてはいるのだがゲラゲラと笑い楽しそうである。
「まあ、ゲンタちゃんへのイタズラはこの辺にしといて…。実はね…、アタシたちの一番のお姉様がいらっしゃるのよォー!!」
「へえ…、お姉様が…」
うーむ、イッフォーさんたちのお姉様か…、どんな人なんだろう?ちょっと興味はある。
「良かったらゲンタちゃんもいらっしゃいよォ!とってもステキなお姉様なんだからンッ!!」
そんなこんなで僕は町の南門へとおネエ様方と一緒に向かうのだった。
□
町の南門にやってくるとその先に伸びる街道にはチラホラと人影が見える。やってくる人、外に行く人とそれぞれである。その中に一台の馬車を見つけた、こちらに向かっている。
「キャーッ!!あれよ、お姉様が乗ってらっしゃるわァん!!」
外装から見て無骨さのないあの馬車は間違いなく荷物を積んでいる類のものではない、派手さはないがどことなく上品さを感じさせるものだった。それを見てイッフォーさんたちが歓声を上げている、あの中に間違いなくお目当ての人物が乗っているのだろう。
かっぽ…、かっぽ…。
馬車を引く馬の蹄の音がだんだんとゆっくりなものとなり門の少し前で止まる。そして門衛の兵士と馭者の人がやりとりを始めた、そして門衛の兵士さんが馬車の中を改めるので馭者さんが外から扉を開けると中から一人の身なりの良い人が現れた。
「きゃー!!大姉さまー!!」
現れた人物にイッフォーさんたちが歓声を上げる。金色…ではないな、背中まで伸びたウェーブのかかった黄色い髪に派手さは無いが質の良さそうな服。この人がイッフォーさんたちのお姉様なんだろう。もっとも僕の目には男性に見えてしまっているんだけど…。
そんな思いにかられていると馬車の中に乗っていた人物がゆっくりと地面に降りた。ゆっくりとした何気ない動作だがそのひとつひとつに気品がある。そんな大姉さまと呼んだ人にイッフォーさんたちが駆け寄ろうとする、しかしそんなイッフォーさんたちを件の人物が制した。
「止まるんだよ、お前たち。歓迎してくれるのは嬉しいけれどね、今は門衛さんたちの邪魔になる。我慢するんだよ」
「は、はーい!大姉さまー!!」
ぴたり…。
その言葉は決して強い口調ではなかったが効果は絶大のようだ、イッフォーさんたちが一斉に動きを止めて直立不動の姿勢を取る。その間に馬車の中と降りてきた人物の調べはすぐに終わりを迎えたようだ。門衛のひとりがその旨を告げる。
「異常なし。馭者のハラウェイ、そしてミワキーロ、両名…通りませい!」
そう言って門衛さんたちは道を開けた。そんな門衛さんたちにミワキーロさんはご苦労様と声をかけると馭者さんは馭者台に上り馬車を進ませ始め、そして往来に降りていた自身はこちらに歩き始めた。そこにイッフォーさんたちが駆け寄る。
「ミワキーロの大姉さまぁ!!」
それを余裕のある対応で出迎えるミワキーロさん、なんというか…泰然自若…。ちょっとやそっとの事じゃ揺らがない心の強さを感じさせる。
「待たせたね、お前たち。それにしてもずいぶんと小綺麗にしている、身だしなみには常に気を使う事…、私の言った事をよく守っているみたいだ。褒めてあげるよ」
「きゃー!!大姉さまから褒められたわァんっ!!」
「だけど、すぐに調子に乗る…。そのクセは直っていないようだね、ふふふ…」
そんなやりとりをしながらイッフォーさんたちとミワキーロさんは町の門をくぐった。にこやかに旧交を温めている。そんな時、不意にミワキーロさんがイッフォーさんたちの髪に視線を止めた。
「やはり…。ねえ、お前たち。私は常に身だしなみを整える事を伝えていたけどその髪はどうしたんだい?ずいぶんとつややかで、良いまとまりをしているね。まるで別人のように素晴らしい髪だよ」
ミワキーロさんにそう言われてイッフォーさんたちは嬉しそうな表情を浮かべた。
「あらん、分かりますゥ?」
「アタシたち、すンごい髪に効くおクスリを使わせてもらったのォン!!」
「ここにいるゲンタちゃんにッ!!ウフン!」
「ねーッ!!」
イッフォーさんが僕をミワキーロさんに紹介する、自然とミワキーロさんの視線がこちらを向いた。そんなミワキーロさんに僕は挨拶をした。
「は、初めまして、ゲンタです。冒険者ギルドで物を売るかけだしの商人です。イッフォーさんやピースギーさんたちにはいつもお世話になっています」
「あらあら、こちらこそ初めまして。ミワキーロよ。あなたがゲンタさんね、イッフォーやピースギーたちからの便りでよくその名が記されていたからよく知っているわよ。とびきり素敵な品々を扱う商人さんだってね」
「みなさんが…」
にこりと笑いミワキーロさんが応じてくれた、それにしてもイッフォーさんたちが僕を良く言っていてくれたとは…。少し照れくさくはあったけど好意はとてもありがたい、そんな訳で嬉しさや恥ずかしさを感じているとミワキーロさんはにこやかな笑顔で…それでいてまっすぐに僕を見ていた。その視線はどうにも僕の心の奥深く、底の方まで見えているんじゃないかというくらい力強いものだった。そんなミワキーロさんの視線を浴びること数秒、やがて彼(彼女?)は、ゆっくりとひとつ満足したように頷くと僕に再び話しかけてきた。
「うん…。良い笑顔だこと…。ところでゲンタさん、これからお時間はあるかしら?イッフォーたちの髪の美しさの秘密や私のお仕事についてもお話をしたいわ、軽くお茶でも飲みながら…。いかが?」
静かだけど力強い誘い、そんなミワキーロさんのお誘いに僕はほとんど脊髄反射的に承諾の意を示していた。