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第622話 激変!?スカイ・キーンさん


 タイトル変更いたしました。(2024.11.06)


 ギルドに女性たちや…多分女性なんだろう、うん…女性だ…イッフォーさんたちが押し寄せたあの日から数日後、僕は完成が近づいたゴクキョウさんの宿屋の大浴場の一角に設けたスペースで女性たちを出迎えた。


「えー、それでは…、ハチミツ入りシャンプーを使った髪を洗う体験をしていただこうと思います」


 わー!!きゃー!!


 あたりに響く若い女性たちの黄色い声、一部は野太かったり昔は若かったんだろうなという茶色い声が混じる。が、しかしそこは気にしない事にする。


「ふむう、ゲンタはんが何やら新しい商売すると聞いたがいったいどうするんや?何やら風呂とも関わり合いがあるみたいやけど…。でも、なんや?あのごっつい椅子は…?あんなん風呂に使うんかな?」


 もちろん、ゴクキョウさんの新規開店する宿屋のスペースをお借りするんだからゴクキョウさんも立ち合っている。新しい商売のタネになるかも知れないと一声かけた上で…。


「さて…、実は今回…、ハチミツ入りシャンプーの他にも用意出来た物がありましてね。そちらは後でお知らせするとして…、まずはシャンプーから…。では、どなたか…試されてみたい方おられますか?」


 だっ!!!


 凄く良いダッシュで一気に詰め寄ってきたのは…。


「ゲンタ殿!」


 ナタダ子爵家に仕える初老の域にある侍女長だったか女官長の立場にあるスカイ・キーンさんが鬼気迫る勢いでやってくる、とんでもない速さだ。女性の美に対する執念の強さをまざまざと感じる、その迫力に思わず僕は押されてしまった。


「で、では、スカイ・キーンさんで…」


 えー!!


 周囲からは『私じゃないの?』とばかりに不満の声が上がったが僕だって怖いんだ、異論は認められない。早速、しつらえた椅子に案内して座ってもらう。これは日本の美容院を真似た構造になっている。周りの女性たちも見物したいらしく見やすい位置に動いた。


「では、始めますね。スカイ・キーンさん、おらくになさって下さい。…はい、では…椅子の背もたれを倒していきますね…」


 椅子の脇に付いているハンドルバーをぐるぐると回していくと椅子の背もたれが後ろにゆっくりと倒れていく。しっかり倒れたところでスカイ・キーンさんの顔に薄い布をかけた。


「おおっ、なんや!椅子の背もたれが倒れていきよる!こりゃあ新手のからくりかいな!?」


 早速ゴクキョウさんが食いついた、そんな中で僕は説明を続けていく。


「今回はシャンプーの説明の他に宿の新しい目玉になったら良いなーっていう催しを提案させていただくのも兼ねています。ちなみにこの椅子はドワーフの棟梁ガントンさんたちによる新しい機巧からくりを施したものです。そしてこちらにはシャワーがあり…」


 そう言って日本のホームセンターで買ってきたシャワーヘッドとホースを取り付けた壁際を指差した。そこには病院などでよく見かけるシャンプー台を設置してある。周囲の女性たちから驚きの声が上がる。


「ま、まさか、仰向けになった状態で髪を洗うって言うの?」


 その声に僕は笑顔で応じる。


「はい、そのまさかですよ。ここでは希望するお客様に髪を洗うサービスをしてみたらどうかと思ったんです。もちろん有料にはなりますけどね。だけど、人の手によって洗い残しなく楽な姿勢で温かいお湯で髪を洗ってもらうのはなかなかに気持ちの良いものですよ。じゃあ、お願いします」


 そこに現れたのはフェミさんとマニィさんである。


「お二人にはすでにシャンプーを使ってもらっていましたが、他の人の髪を洗うという事にもチャレンジしてもらっていました。それでは始めてください」


 二人は早速、仰向けになっているスカイ・キーンさんの髪を洗い始める。まずは柔らかなシャワーで髪と地肌を軽くすすぎ温めほぐしていく。そして毛穴の脂までしっかり落とすクレンジングタイプのシャワーを施した。


「今のはまず髪や地肌を綺麗に洗うタイプのシャンプーです。そしてこちらが皆さんお待ちかねのハチミツ入りシャンプーです」


 二つ目のシャンプーは話題のハチミツ入りシャンプーだ。さっそくキーンさんの髪をフェミさんとマニィさんが洗っていく。毎日、二人で洗いっこしたりしているだけあってなかなかに手慣れている。


「へへっ、オレ気付いたんだよ。洗ってる時に頭を肩みてえに揉まれると気持ち良いってな!」


「おふっ、くう…」


 スカイ・キーンさんの心地良さそうな声が洩れる。一方でフェミさんは髪を洗う、この世界では髪が長い人がどちらかというと多いから頭皮と部分側と毛先側に分かれて手分けして洗い上げていく。


「良い香りね」


「うん、前のとは違うけどこれも良い香り」


 辺りには咲き誇る花々の香りが風に乗ってやってきたかのような状態だ、その香りに居合わせた女性たちが色めき立つ。


「はーい、終わりですよぅ」


 そう言ってフェミさんがシャワーを使って泡を洗い流し、タオルで水気を拭き取る。まだ乾ききっていないがその仕上がりはというと…。リクライニングした背もたれを元の角度に戻すとスカイ・キーンさんの姿がみんなに見えるようになった。


 ツルツル、ツヤツヤ!


 そこにはなめらかに輝く美しい髪があった。


「「「「おおーーっ!!!」」」」 


 その場にいる女性たちから一斉に声が上がった。


「ん、なんぞ?私は今、どうなっているというのだ?」


 自分の姿を唯一見られないスカイ・キーンさんはひとり不安そうな声を上げている。


「洗い終わりましたよ、スカイ・キーンさん。仕上がり…、気になりますよね?そこでご自分でも見ていただけるようにこんな仕掛けをご用意いたしましたっ!!えーと、まずは座席の向きを…」


 そう言って僕はリクライニングする椅子にもうひとつ施されている仕掛けを作動させる。新幹線車内の座席の向きが上りと下りで180度変えるようにスカイ・キーンさんが座る座席もぐるりと前後の向きを変えた。するとスカイ・キーンさんはシャンプー台がある壁の方を向く事になる。そして僕は回した座席から離れて壁際に歩いた。そこには目隠しをするかのように黒い艶やかな布がかけられていた。その布に僕は手をかける。


「では、スカイ・キーンさん…、ご自身の目でご覧に下さい。その為の仕掛け…、それはこれですっ!!」


 ばさあっ!!


 僕は壁際にかけていた布を取り払った、周囲の女性から次々と歓声が上がった。


「きゃー!!ガ、ガラスの鏡よおっ!!」


 女性たちの視線は現れた鏡に釘付けだ。さらに言えば大商会の主であるゴクキョウさんも興味深そうに見つめている。


 そして周りの盛り上がりから少し遅れるようにしてスカイ・キーンさんから感嘆の声が洩れた。日本の床屋さんや美容院でよく見る壁に設置された鏡…、そこに映る自身の姿をじっと見つめていたが少しすると僕に声をかけてきた。


「これが…、私…ですか」


「はい、そうですよ」


 普段は厳格な…規則、規則と口うるさいイメージのスカイ・キーンさん。その彼女が今や表情も柔らかく、うっすらと頬を赤く染めている様子はまるて初恋の情を抱いた幼い少女のようだ。慣れないその感情に戸惑い、それでいてどこかはにかんでいるようなそんな表情だった。あのスカイ・キーンさんもこんな表情をするんだ…、そう思うと僕もなんだか感慨深い。


「さて…。どうですかみなさん!本来なら最初に使った髪や地肌をすすぐ透明なシャンプーと、この仕上がりになるハチミツ入りシャンプー…。本来なら銀片一枚ペンイチ…と言いたいところですが、本日お集まりの皆様にはおひとり様一点限りとなりますが白銅貨五枚シロゴ(日本円にして五百円相当)、白銅貨五枚シロゴでの提供です!」


 そう言って僕は一回分のシャンプーを二枚貝の貝殻に入れたものをズラッと並べた。


「買うー!!」


「買うわよォんッ!!」


 居合わせたみなさんから次々と購入の声が上がる。


「よーし、買いたい人はこっちに並んでくれー!」


「売り切れたりしないから落ちついて下さいねぇ」


 早速マニィさんとフェミさんが売り子になってお客さんをさばいていく。それを見ながら僕はゴクキョウさんに話しかけた。


「ゴクキョウさん、どうでしょう。この髪を美しく洗い上げる…、これを宿のウリのひとつにしてみては…?」


「う、うむうむっ!!こ、こりゃあきっと売れる、売れるでぇ!!どんな商売にするか…ゲンタはん、詳しい話…あっちでしよかぁ?」


 そう言ってゴクキョウさんはにっこりと笑ったのだった。


 次回、イッフォーたちのお姉様(!?)が来る!!


 第623話、『お知り合い?』


 お楽しみに。

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