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第611話 それって伝説の…とか、神々の…と言われる金属ですよね?


 あくまでイメージなんですけどソルの声は神谷明さんのイメージですかねえ。


 奥方様への報告が終わり感謝とねぎらいの言葉を受けた僕たちは揃って帷幕いばくを出た。そしてとりあえずお腹を満たすべく冒険者の皆さんがいる方へ向かった。


 カレーライスの炊き出しは既に始まっており戦の剣呑とした雰囲気はもうとっくに過去のもの、あたりにはカレーの香りと和気藹々(わきあいあい)とした話し声に満ちている。もっとも冒険者にせよ兵士にせよ食欲は旺盛、食べ終わっている人が多い。正規軍である騎士や兵士の人は広場で待機をしているが、冒険者は自由解散が許可されている。早めに食べ終わった人は酒場にくり出し始めている。


「お帰りなさぁい!」


「ダンナ、待ってたぜ!」


 戻ってきた僕たちをフェミさんとマニィさんを先頭に出迎えてくれた。その横にはマオンさんもいる、僕たちが無事に帰ってきた事を何より嬉しそうに出迎えてくれた。


 見れば炊き出しをしている炊事場の方では片付けを始めている人もいる、これは場所を変えた方が良いかも知れない。そう思った僕は移動を提案した。


「いったんマオンさんの家に行きましょうか」



 マオンさん宅には食べ物や酒もいくばくかの蓄えがある。そこでそちらに場を移し改めて集まる事にした。焼酎の4リットルボトルを出し、干し肉を出したらガントンさんやファバローマさんは早速飲み始めた。しばらくすると子爵邸から本当に酒が一樽届いた、さっそく開封し彼らはそれも飲み始める。


 こちらで新たに作り始めたカレーが出来上がる頃には焼酎の空ボトルが数本並んでいた。おまけにある程度中身が減った酒樽をファバローマさんは両手に抱え直接口をつけて飲み干している。体が大きいのもあるけどなんて言うか…、酒が強いとかそんなレベルではない酒豪っぷりである。


「ところでの、坊や…」


 カレーライスを作り終えてテーブルに戻ると酒で喉を潤したガントンさんが布に包んだものを取り出した。ガントンさんに打ってもらった短剣である。


「改めてじっくりと見てくれい」


 そう言われて僕は布の包みを手に取った。布を解いていき刀身が露わになると僕は息を飲んだ。


「綺麗だ…。でも…、なんか形が少し変わってる…。大きくなってるし…刀身の色も…」


 ガントンさんが打ってくれた短剣は両刃で直線的な形をしていた。しかし、僕が今手にしている短剣は曲線状のやや幅広の両刃を持つ刀身に変わっている。いや…、短剣というより小ぶりな小剣ショートソードと表現する方が正しいかも知れない。そして何より目を引くのは…。


「金色になってる…」


 その刀身の色合いである。それというのもミスリルの短剣は元々銀色に近いものだった。だが、ミスリルは軽く強固ではあるけれどその真価は持つ者の魔力と親和してより効果を発揮する。使い手の魔力と親和した時のミスリルの刃はとても鋭い、しかし地球育ちの僕は魔力は無縁の存在だ。柔らかい素材に切れ目ひとつ付けられない切れ味ゼロの短剣になってしまう。だからその弱点を解消すべくミスリルの刀身の上にセラミックを塗布する事で切れ味を得た訳なんだけど…。


「なんで変わったんだろう…?」


 姿を変えた剣に僕は思わず呟いた。


「わしのせいかのう」


「えっ?ソルさん…」


 僕の呟きに反応したのはまさかまさかの始まりの光の精霊にして太陽神とも言われるソルさん、その人であった。



「…なるほど。ミスリルの刀身部分に直接プラチナが触れて…」


「そこにソル殿のの光の魔力を浴びる事によって金属そのものが変質したという事なんじゃな。軽銀けいぎんにいくつかの金属を混ぜ合わせてミスリルを精錬した時のように…」


 ソルさんの説明を受け僕が呟いたのと同時にガントンさんがアルミをベースにいくつかの金属を混ぜ合わせてこの異世界でいうところのミスリル…、地球でならジュラルミンを作った時の事を思い出すようにしながら言った。


「うむ。あの死体を操っておった闇の魔道士の体内には粒状の白金プラチナで満ちてあったのじゃろう?そうなるとプラチナも闇の魔力を帯びていたはずじゃ。本来ならプラチナはそんなに硬い金属ではない、だが闇の魔力や怨念なんかに染まり硬くなっていたんじゃろう…」


「なるほどのう…。それで坊やが敵の親玉を刺した時にその硬くなっていたプラチナによって上塗りしていた白色の刀身部分が剥がれた…。それでプラチナに触れ…」


「そう、まずはゲンタちゃんのターンアンデッド(屍人還しびとかえ)しでゲロートポイオス…じゃったか?ああ、面倒くさい、ゲローでよい、ゲローで!そんな長ったらしい名前なぞ奴には勿体ない!ゲローで十分じゃ!」


 そう言いながらプレーンクッキーにイチゴジャムを塗った物を食べながら手にしたワインに口をつけた。どうやらソルさんの食の好みはサクヤたち精霊やエルフ族の皆さんに近いらしい。その周りではサクヤたち精霊が一緒にクッキーやジャムを頬張っている。


「奴の…、ゲローの身に満ちていた負の魔力などをはらった。それによりプラチナは無垢な元の性質を取り戻した、そこにわしが光の精霊力というか、太陽そのものの力を放ったもんじゃから…」


「あっ…、そう言えば奴に短剣を押し込んでいく時にまるでヤスリにかけているような激しい摩擦するような感触がありました」


「それで白い部分だけ剥がれた…。そこでミスリルとプラチナが触れ合い、ソル殿の光を帯びて一体化した…。これは鍛治の技術では出来ぬ金属という事か…」


 ガントンさんが刀身を眺めながら言った。それにしてもさすがは大精霊様というか太陽神様だ、その威厳とか品の良さが滲み出ている。そのお姿を見ているだけで御利益があるんじゃないかというくらいの神々しさである。


「そういう事になるかのう、んぐんぐ…、ぶはぁ〜!!」


 言い終えてソルさんは手にしていたワイングラスを空にした。そこにロヒューメさんがワインボトルを片手に寄った。


「あっ!グラスが空になってますねぇ。は〜い!ソル様、ワインのおかわり!!」


「おっ!?悪いのう。いや〜、わしは幸せじゃ!こんなに若くて可愛いピチピチぎゃるにお酌をしてもらえるなんてのう!…お〜とっと!なみなみと注いだワインが溢れそうじゃわい!」


 ずずーっ!!


 グラスのふちから溢れそうになったワインを音を立ててすするという今日こんにちでは日本でもなかなか見られない飲み会での中年おじさんあるあるをかましながらソルさんは上機嫌だ。

 

「いやぁ、美味い!カワイコちゃんに注いでもらった酒はまた格別じゃあ!ロヒューメちゃん、ありがとのう!よーし、わしもなんだか若い頃を思い出してきたわい!ねえねえ、ロヒューメちゃん。これからわしとデートでもしない?」


「やだー。もう、ソル様ったら〜!!」


「ああ〜ん、ソル様だなんてロヒューメちゃんカタいカタい!とおぉ〜ってもカタいんだからんっ!わしの事はもっと気軽にソルお爺ちゃんともっと親しく呼んでくれて良いんだから」


「分かりましたー!ソルお爺ちゃん!」


「結構、結構!!か〜わいいのう、ロヒューメちゃんは!ひょーひょっひょっ!!」


「……………」


 さっきまでの威厳はどこへやら、ソルさんは若い女の子好きのただのスケベジジイみたいになってしまっていた。それよりロヒューメさんのフレンドリーさというかコミュ能力が高すぎる。大精霊様とか太陽神様とか呼ばれる人をあっさりお爺ちゃん呼びにしながら馴染んでいる…。

 

「と、ところで…」


 僕は締まりがなくなってしまった雰囲気を元に戻すべくソルさんに話しかけた。


「ソル様はこの金色に輝く金属なんですけど一体どんな物なのかご存知ですか?」


「ん〜?まったくゲンタちゃんもカタいのう、ゲンタちゃんは孫のサクヤと仲良しッ!だから、わしの孫にも等しいッ!そんな訳でもっと気楽にソルお爺ちゃんと呼んでおくれ。…で、その金属じゃったの?それはの…、えーと…なんじゃったかの?いわゆるひとつのぉ〜、う〜ん…どうでしょう?あ〜、えっと、そうじゃ!オリハルコンじゃな!」


「オリッ…、ハルコン?」


 き、聞いた事あるぞ。ゲームとか漫画なら最高クラスの金属じゃないか!伝説の金属とか、神の金属とか言われちゃってる…。


「な、なんと…。嘘かまことかは分からんが神々が振るうと言われる武具の素材ではないか…」


 ガントンさんが目を見開き驚いている。いや、ガントンさんだけではない。ゴントンさんも、ベヤン君たち弟子のドワーフ族も…。シルフィさんたちエルフ族もまた同様だ。しかしソル様だけは平然とワインをチビチビりながら言葉を続けた。


「そうそう、そのオリハルコンじゃよ。まあ、神々の金属と言うてはおるが他の金属では全力で振るったらポキッと折れてしまうからのう。それくらいの物じゃないと満足に振り回せないだけなんじゃよ」


「ソ、ソウデスカ…」


 はっはっはっと屈託なく笑うソルさんに僕は言葉を失いなんとか棒読みながらも返事を返す。すると何かを思い出さしたかのようにソルさんが口を開いた。


「そういえばオリハルコンには精霊の加護を宿らせる事ができたんだったのう」


 その言葉にガントンさんがいち早く反応した。


「むおっ!?それは伝説の剣が切れ味だけでなくひとたび振るえば炎を生み出し…、あるいは天に掲げた槍が雷を招く…そういった物であろうかの?」


「おう、そうじゃ!そうじゃ!あれはオリハルコンに精霊が力を貸しておるんじゃ。宿る事によっての…」


「そうじゃったのか、なるほどのう…。それならば坊や、おぬしには四人もの精霊たちが力を貸してくれておるから誰かに頼んでみたらどうじゃ?」


「あっ、そうですね。うーん、誰にお願いしようかな…」


 僕がそう言うと視界の隅に映る小さな姿があった。


 チラッ…。


 …カグヤである。こちらを絶妙な位置で見つめている、何も言ってはいないけどその存在感は抜群。こりゃあ彼女に頼まないと…みたいな気分になる。


「えっと…、じゃあ…カグy…」


 僕が名前を呼ぼうとした時に事件は起こった。


 キュイイイィィーンッ!!


 とても澄んだ金属を打ち鳴らしたような音が響いた。音のした方を見るとそこにはやはりというかオリハルコンの小剣、そしてそのすぐそばには…。


「サ…、サクヤ?」


 そこには好奇心からの行動だったのか人差し指で刀身をツンツンしてしまったと言わんばかりの現行犯…、サクヤの姿があった…。

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