第608話 報告と推察
ナジナさんに肩車され僕はミーンの町に戻った。そんな僕たちを子爵夫人ラ・フォンティーヌ様は門まで出迎えに来てくれた。普通はこちらから出向くもの、いかにラ・フォンティーヌ様が感謝してくれているかが感じられる。
そんなラ・フォンティーヌ様の周囲や後方には兵士の皆さんや冒険者…、あるいは防衛に手を貸してくれた人たちがいた。見知っている人も少なくない、僕の名を呼んだり手を振ってくれたり…その全てが温かいものだった。
町の各所に最低限の要員を残してあとは戦勝の報告の為、本陣とした町の広場に集まった。火除地の役目もあるこの広場には将兵や冒険者以外にヒョイオ・ヒョイさんや劇場に属する女の子たちのように兵士や冒険者でなくても直接防衛に参加した人もいる。特に顔役のゴロナーゴさんが中心となった猫獣人族や本人はギックリ腰ですぐ退場したけど長老さんが率いた犬獣人族の皆さん、ヴァシュヌ神を崇拝する蛇獣人族を中心とした皆さんも一緒に炊き出しのカレーライスを食べ喜びを分かち合っていた。
カレーはこの広場で販売した事もあったが、騎士や兵士の方にはまだ食べた事がなかった方もいたようで新鮮な驚きと共に笑顔を浮かべている。そしてこのカレーはそれこそ下は冒険者や防衛に協力した町衆たち、そして戦後の報告を受け終わればラ・フォンティーヌ様も同じものを食べるそうだ。ゲロートポイオスを倒した僕もラ・フォンティーヌ様に報告する必要がある。そこで僕は面会を申し込み、それはすぐに受理された。待っているその間、ずっと隣にはずっとシルフィさんがいてくれた。
……………。
………。
…。
「よくぞやってくれた!!」
開口一番、ラ・フォンティーヌ様がこちらにやってきて両手で僕の手を取った。軽装とはいえ鎧で身を固めその見事な黒髪を後ろでひとつに束ねている姿は美しいの一言に尽きる。
本陣とされたラ・フォンティーヌ様が中央に座る帷幕の中に通された僕は今回の戦の顛末を軽く説明していた。周りにはナタダ子爵家に属する主だった騎士の方々、そして冒険者ギルドのグライトさんなどが居並んでいる。
「ふむう…、ゲロートポイオス…のう。かつてカイサンリにそんな王がいたと聞くが…」
あのゾンビやスケルトンたちを使役していた闇の魔道士の名を告げたところラ・フォンティーヌ様は聞き覚えがあった名前のようだった。
「たしか…小国に過ぎなかったカイサンリを強国に押し上げたが家臣や民の反感を買い、ついには嫡男にまで反旗を翻され国を追放された暴君ではなかったかの…?」
「はい、そのように言っておりました。しかし、実際には追放ではなく嫡男に討たれたようで…」
「なんと…。ふうむ、たしかにのう…。いかに暴君といえど実の父…、必要とあらば敵味方に分かれ戦う事もあるにはあるが…。さすがに後を継いだという稀代の名君ハルノーシンゲンといえど父殺しの血塗られた名を残したくなかったと見ゆる」
ラ・フォンティーヌ様はなにやら感慨深そうに呟いた。ちなみに一人娘のモネ様は子爵邸で留守を守っている。実務としては留守居として防備にあたる騎士爵の人が行っているが主人はあくまで主人であるモネ様という事になる。
「そのゲロートポイオスが死ぬ間際にみずから不死者になる儀式をしたようで…、死して後に再びこの世に舞い戻り自分を裏切った者に復讐せんとゾンビやスケルトンを使役した…。そしてその恨みは直接関係がないこの町の人々に向けられた…どうやらそのような具合にございます」
「なるほどのう…」
どうやらラ・フォンティーヌ様の中では一連の流れが理解出来ているようであった。そもそもカイサンリはかつてこのあたりにあったという国みたいだし僕らよりも歴史や経緯に詳しいのかも知れない。そしてもうひとつ…、僕には奥方様に報告すべき事があった。
「重ねて申し上げます。さらにお伝えすべき事がございまして…。此度の防衛に特に力を貸していただいた方々を共にこの場に呼んでよろしゅうございますか?」
「構わぬ、呼んでくりゃれ」
「かしこまりまりた」
許可が出たので伝えてもらうと帷幕の中にやってきたのはガントンさんにファバローマさん、そしてソルさんである。
「まずはガントンさん、ファバローマさん。お二方については奥方様も面識がございますので紹介を省かせていただきます」
「うむ」
「そしてこちらがソルさんです」
初対面となるソルさんを奥方様に紹介する。
「ソルさんにつきまして私は詳しくない事なので詳しい紹介をシルフィさんに代わってもらいます。では…、お願いします」
僕に代わってシルフィさんが進み出た。
「奥方様に申し上げます。こちらは始原の精霊のひとりにして光の精霊王、また太陽神とも言われる事もある事もあるソル様です」
次回。
ソルさんがやってくれました。
第609話、『リバース太陽』
お楽しみに。