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第604話 やってやるさ!!


 ゲンタを助ける為に現れた助っ人、皆様予想ついたでしょうか?


「う、うぐぐぐッ!!待て!!ゼハァァー!!この余を討てばそこの町も…、いや、この周辺の集落も…滅びる事になるぞ!誰も住めぬ汚れた地となるゥゥ!!ゼイィィー、ゼイィィー!!それでも良いのかァ!!」


 こいつを討つと町が滅ぶ?

「なんだって?」


 聞き捨てならない単語に思わず声が出た、だけど同時にこうも思う。


「このに及んで命乞いか?死んでるくせに口から出まかせを言うなっ!!もうロクに動けないからそんな事を言ってんだろう!」


 僕は怒りに任せて叫んだ。


「グッ、ゼハァァ…。愚か…者め…。ふ…、雑兵ぞうひょうならば目の前の…敵を討てば良い。だが、将ともなれば…そうはいかぬ…。勝つには勝ったが何も得られぬ…では何にも…ならぬからな…グググ…ゼイィィ…」


 苦しそうな表情をしながらも薄笑いすら浮かべゲロートポイオスは言葉を続けた。


「余は…闇の魔法を用い…亡者どもを再び動けるようにした。余が倒れれば…また物言わぬむくろに…戻るであろう…。ゼイィィ…ゼイィィ…」


 …そうなんだ。それなら術者であるコイツを討てば町を襲うアンデッドたちは壊滅だ。それなら一秒でも早くトドメをささなきゃ!四人の仲間たちのかたきでもあるコイツを…。


「余が倒れれば…死体どもは腐肉に戻る…。闇の魔力に染まりし腐肉にな…。グゴガァァ…、そっ、それは畑にヘドロをくようなもの…。いや、それ以上か…ゼイィィ…。呪いのかかったヘドロとでもいうべきもの、撒き散らせば今後…麦の一粒も実らぬ不毛の地になろう」


「ッ!!?」


 それはまずいぞ…。町にはたくさんの人が住んでいる。町の周り…、特にゾンビが迫ってきていた南側は麦などが獲れる耕作地だ。そこで作物ができなくなったら…。


「腐肉となった亡者どもは大地を呪いに染めてゆく…、それは地中深くまで浸透するぞ。クク…、どうする?余を討てば町が滅ぶぞ?」


「くっ…。いや、待てよ。ターンアンデッドの術で土に返したゾンビとかには禍々しい感じはしなかった…。それなら僕が…」


「出来るものか…、それより早く闇の呪いが土に染みるわ…ゼハァァ…。それにどれだけ広く死体が散らばっていると思う?何日も寝ずにやるつもりか?ゼイィィ…、体力がついてくるものか、魂が焼き切れ死ぬのがオチだ。さあ、分かったら道を開けよ。余をこのまま見逃すのだ!さもなくば…」


「見逃す?…冗談じゃない!」


 僕はゲロートポイオスを遮るようにして言った。


「ここで逃してなるものか!お前は逃げなきゃ討たれる、そう考えてるから虚勢を張ってるだけだろう!それに今逃がしたら再び力を蓄えて復讐に来るだろう、お前はそういう奴だ」


「ならば町が滅ぶのは避けられぬぞ、ゼハァァ…。それとも魂魄こんぱく尽きるまで亡者を土に還すと申すか!!グググ…」


「いくらでもやってやるさ!そうじゃなきゃ…、そうじゃなきゃ僕を守る為に命をかけた精霊のみんなに申し訳が立たない!大切なみんなが命懸けで守ってくれたんだ、だから僕も命懸けでこたえる!それが僕に出来るみんなへの恩返しだ!!」


「ぬぐぐ…、ならば…」


 ゲロートポイオスが右手を振り上げた、交渉は決裂だと察したのだろう。ボロボロの状況から僕を殺してこの場を脱しようというのだろう。僕もターンアンデッドの術で迎え撃とうと右手を突き出す動作に入る。光精霊ウィル・オー・ウィスプのサクヤの加護はすでに離れていったけど体はスムーズに動く、決着をつけてやる…そう思った時だった。


 ドオオオーーーーンッ!!


 凄まじい轟音と共に光が溢れた、まるで間近に雷が落ちたかのようだ。いきなりの事に僕も…、そしてゲロートポイオスも動きが止まった。言葉さえ失い固まっている。そして光が薄れてくるとそこにはひとつの人影があった。


「え?ええっ?あ、あなたはあの時の…」


 そこにいたのは先日、町に孫を訪ねてきたのは良いもののお腹を空かせて行き倒れていたお爺さんだった。


「よう言うたわい、若人わこうどよ!!本来、俗世には関わらぬようにしていたが…」


 お爺さんは手にした杖を天に向けて高く掲げた。


「こうまで男気おとこぎを…、孫の事を大事に思うてくれとるのを見せられてはのう…。何もせぬ訳にはいくまいて…、メシも食わせてもろうたしのう…」


「ソ、ソル…さん…?」


 僕はその人の名を呟く。


「いかにも!!始原の光精霊ウィル・オー・ウィスプにしてサクヤの祖父、光をつかさどる者…ソルなり!!任せるが良い、この者も…町の周囲も…余す所なく浄化してやるからのう。さあ滅びよ、不浄なる心根の者よ!!全ての亡者と共に!!光あれ!!」


 一瞬で辺りが光に…いや、白さに包まれる。眩しくはないが一面の白、何を見ているか分からなくなる。


「う、うわああぁ……」


「うぐおォォ…!!こ、この余が…、魔王となりしこのゲロートポイオスがァァ…!!」


 どのくらい時間が経ったろう?長かったのか短かったのかも分からない。戻ってきた視力を頼りに辺りを見回す。


「……………」


 とても静かだった。そして僕たちを散々苦しめたゲロートポイオスは綺麗さっぱり、影も形もなくなっていた。


「終わったわい…」


 掲げていた杖をゆっくりと下ろしお爺さんことソルさんは呟いた。その言葉通り、ゲロートポイオスの嫌な気配はしなくなった。終わったんだ…、そう思ったら僕の体から力が抜ける。あまり自覚はなかったけどけっこう心身を消耗していたようだ。だけど言うべき事は言わなきゃいけない、聞きたい事もいっぱいあるし…。


「あ、あの…」


「ゲンタさん!!」


「え?」


 ソルさんに話しかけようとした時、僕を呼ぶ声がした。振り向くとそこにはシルフィさんがいた。胸当てや肩当ての一部は破損し手傷も少なからずあるようだ。彼女の生存に僕は心底安心した、少し涙ぐみそうな自分がいる。


 その彼女が駆け寄ってきて飛び込んでくる…。迎え入れようとした僕にシルフィさんが抱きつき両腕が首に回される。僕はそんな彼女の名を呼ぼうとする、だがそれは最後までは出来なかった。


「シルフィさ…ムグッ!!」


 彼女の唇が名前を呼ぼうとした僕の口を塞いでいたのだった。


ミアリス「あの…、私…倒れてるんですけど…?」

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