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第592話 転機


 上空から聞こえたうめき声…?


「ゼイイィィ…、ゼイイィィ…」


「あ、ああああっ!!」


 そこにはボロボロのローブ姿になったゲロートポイオスが浮かんでいた、そしてゆっくりと降下してくる…。


「おのれ…」


 地に降り立ったゲロートポイオスが口にしたのはうらみのこもった短い言葉であった。


「余が…、このゲロートポイオスが…滅ぶところであった…」


「ほ…滅ぶ…?」


「そうだ」


 なんとか両の足で大地に立っているような状態で苦しげな声、その表情もまたひどく歪んでいる。


相剋そうこくの関係にある光と闇…。それが合わさる時、生まれるは消滅…。あらゆる物を無に帰す消滅の力だ」


「消…滅…」


 それはゲロートポイオスに及ぶだけではなく、サクヤも…カグヤたち自身にも…。


「それを打ち消す事が出来るのは唯一ゆいいつ魔力のみ…、余の存在の根幹を成す魔力を根こそぎ奪っていった…、数知れぬ愚民どもの首をね生贄とした代わりに得た魔力…そのほぼ全てを…」


「そりゃアンタ…、恨まれるはずだよ。領民からも、息子からも…、それじゃ誰もついていかないよ。だから誅殺されるんだ」



 同じ頃…、ミーンの町の東…森の中…。


「サクヤとカグヤの魔力が大きく弾けて…消えた…」


 首から下げたお守りの紐…、三つ編みにしたその紐のうち二本目に切れた。そして二人の精霊の気配の消失、精霊との交信ができるシルフィにとってこれはとても気がかりな事であった。


「ゲンタさん…」


 思わず最愛の人の名を呟くが不安は大きくなるばかり、だがそんな心中のシルフィとは対照的にお気楽な声と尻のあたりをはたくパンパンという音が響いた。


「はぁ〜、これで綺麗になったねー。国王陛下…じゃなかった、魔王様から賜ったローブだからね。いつも綺麗にしとかないと…」


 声の主はシルフィと対峙している闇魔道士パジャソ、場違いな明るい声を上げながらシルフィに向き直る。


「やー、待たせたね。ありがと。ありがと、綺麗になったよ。じゃ、早速だけど殺しちゃおっかー!お命ッ、もらいうけるッ…なぁんちゃってぇ!あっはっはっ!」


 ローブの尻のあたりに付いた土埃を叩き落としたり、殺害を言い出したかと思えば終いには笑いだしたり…、パジャソの言動は何かと忙しい。まるでその身に着けている仮面と同じく道化師ピエロのようだ。


「よーし、まずはダークカッター!!」


「ウィンドカッター!!」


 互いが繰り出す魔法がぶつかり合い相殺そうさいされる、そこに風の精霊が同じように風の刃を飛ばす。シルフィから少し離れた位置から角度を変えての側方からの攻撃、援護射撃のような形になる。


「おおっと!?」


 パキィンッ!!


 パジャソの張っている闇魔法盾ダークマジックシールドが攻撃を防ぐ、どうやらまだ敵の魔法の盾は効果時間を終了してはいないようだ。そしてパジャソは反撃とばかりに風の精霊を狙う、シルフィはたまたま近くに落ちていた先程自分が投げた短剣を拾い投げつける。


「甘いッ、甘い甘い甘ァ〜いッ!!」


 パジャソは再びシルフィの方に振り向くと再び闇魔法盾ダークマジックシールドで攻撃を防いだ。


「ダメー、ダメダメ!!そんなのッ!効かないよッ!ボクに弱点なんか無いんだからねっ!!」


 人差し指を一本立ててツンデレ少女のように話すパジャソ、その姿はとても可愛らしいとは言えたものではない。だが、その様子をシルフィは冷静に見ていた。


「…見つけた、乗じるべきスキを…」


 冒険者として実力も経験も豊富なシルフィにはパジャスのほんの小さな仕草からつけ入るスキを見つけた。そのスキを逃さなければ一撃で決着をつけられる事も悟った。ただ、そねチャンスが何度も来るとは限らない、だからしくじりは許されない、必ず仕留めなければならない…だから。


「あなたは自分の名前の由来を知っているの?」


 シルフィはパジャソに話しかけた。


「へ…?な、名前…?」


 キョトンとした表情でパジャソが応じる、それを確認した上でシルフィは言葉を続ける。


「そう。パジャソという名の…」


「…ええっと…、ええっとぉ…」


 謎かけをされた幼子おさなごのようにパジャソは考えてる。


「そうだ、そうだ!思い出した、もらったんだ!これはもらったんだよぉ!陛下…じゃなかった、魔王様にもらった名前なんだ!ボクみたいに闇の大魔道士に相応しい名前だろぉ!?えっへん!」


 パジャソは胸を張って答えた。


「では…、知らないのね…、その名が持つ本来の意味を…」


「え?い、意味?」


「そう、例えば…リリー。これは分かりやすいわ、百合の花からとった名前ね」


「ああ〜、なるほど!女の人によくある名前だ!んで、んでッ!?ボクの名前はッ!?意味が分かってるんでしょ、だったらキミを殺す前に教えてよ!死んじゃったらクチがきけなくなっちゃうもんね!」


 無邪気ではしゃぐような声で応じているパジャソ、それに対しシルフィは極めて落ち着いた声で言葉を続けた。


「パジャソ…、古い言葉よ。かつてこのあたりにあったという王国カイサンリ…、その国の言葉で…」


「その言葉で…なになにッ!?」


道化どうけという意味よ」




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