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第591話 僕を好きと言った彼女の消滅


「サ…、サクヤッ…!!」


 魔法攻撃を防ぐ結界を度重(度重なる)なる体当たりでようやく破壊できたのを好機とばかりに追撃の体当たりにいったサクヤ、しかし今は文字通りゲロートポイオスの手に捕らわれてしまっている。


「ク…、ククク…。なるほど勢いはあったが…」


 満足そうに頷きながらゲロートポイオスが口を開いた。


「戦いの駆け引きは余にがあったようだな。魔法を用いた戦いはただ攻撃すれば良いというものではない。引くと見せかけその間に必殺の策を張り巡らせる…、余にとっては造作もない事よ…」


「こ、こいつ…、戦い慣れている…」


「ぬ…?戦い慣れているだと…」


 ピク…、ゲロートポイオスが僕の言葉に反応した。


「慣れていて当たり前だ!!余を誰と心得る、諸侯乱立のカイサンリを一代で統一し周辺にも強国の呼び名を轟かせた国の主にして戦場にて幾多の敵をほふってきた魔道士…、余こそゲロートポイオス・ノフェトゥーラ・サキュールダール・カイサンリなるぞ!」


 一国の主…、そして歴戦の強者の大喝たいかつに僕は思わず戦慄した。


(大丈夫、ゲンタ。私がいる…、ゲロートポイオスが放つ闇の魔法は私には効かない、他の属性の魔法でもシャドウシールド(影の盾)の魔法を使えばしのげる…。だからまずは防御に徹して…、それから私がスキを見てサクヤを取り戻す…)


 カグヤの心の声に心強さを感じながら僕は自分に出来る事を考える…。戦えなくてもせめて注意をそらすとか…何か役に立ちそうな事はないかと色々思いを巡らせる…。しかし、ゲロートポイオスの口から発せられたのは僕たちをさらに窮地に追い込むものだった。


「そして余の長年にわたって積んできた戦いのカンはこう告げておる、ここで一気に葬るべしとな」


「ッ!!?」


「まだ余の知らぬ戦術があるやも知れぬ。ならばそれを使わせぬまま仕留めるが上策…、いかなる名剣も鞘の中にあっては切れ味を発揮出来ぬのと同じように…な」


 まずい…。これじゃスキをついてサクヤを助け出す前にやられてしまうかも知れない…いや、カグヤがいてくれている。彼女はまさに防御の要、僕たちにとっての守護神だ。彼女が生み出す闇の結界とか壁はいつも僕たちを守っていてくれている。


「さて…、まずは敵の牙を折る事が余の万全たる勝利につながる。まずはこの暴れん坊をどうにかせねばならんな…」


 そう言いながらゲロートポイオスはその手に捕らえたサクヤにチラリと視線をやった。その光景は白い光を放つ少女の人形を握りしめている危ない中年男性だ。だが、その正体は百戦錬磨の闇の魔道士と光精霊の組み合わせである。


「光の弱点は闇…。まずはこやつを闇の魔力で握り潰してくれるわ!!ぬああああァァッ…!!」


 ゲロートポイオスはサクヤを掴んでいる左手に力を込め始めた、その手に宿る闇の魔力が高まっていく。


「や、やめろォォ!!」


「攻撃手段を持たぬ貴様らには止めるすべはあるまい!そこで指を咥えて見ておるがよい!クククッ…、フハハハッ、ハァーッハッバッハッ!!!…ぬう!?」


「あっ!お、お兄ちゃん!!サ、サクヤちゃんが…」


 弱点である闇の魔力を込めてサクヤを握り潰そうとするゲロートポイオス。だが、サクヤも自分自身の周りに光の魔力を放ちゲロートポイオスに抵抗する。光と闇、それは互いにとって強力な武器であり対抗手段。どちらが有利というものでもなく攻撃を当てれば致命の一撃、身を守れば万難を避ける至高の盾となる。そんな抜き差しならぬ状況が生まれていた。


「むむう…、そうか…憎々しい限りよ…。こやつは存在そのものが光…。その光の魔力で自らを覆い結界バリアとして余に楯突くつもりか…」


 魔力を込めた手で握るサクヤを見ながらゲロートポイオスは呟いた。


「い、いくらお前の魔力が強いと言ってもサクヤは光の精霊…。その光の魔力は底なしだ、いくら握り潰そうとしたって無駄な努力に終わるんじゃないのか!?」


「ふん…。ならば…。このゲロートポイオスは考える。握り潰せぬというのなら違う殺し方をすれば良いとな…」


 捕らわれのサクヤを放させようと僕は揺さぶりをかけようとしたのだがゲロートポイオスは鼻を鳴らし残忍な笑みを浮かべた。


 ちらり…、こちらを見る視線…。


「古来よりいくさとは兵を攻めるを下策、心を攻めるが上策なりと言う。ならば余の魔力から身を守るこやつを用いて貴様らの身と…、そして心を攻めてくれるわ!!こおおォォ…!!」


 ゲロートポイオスがその手に込める魔力を高める、当然サクヤはみずからの光の魔力で抵抗する。


「こやつは光の魔力を身にまとう事で強靭さが増す、余の魔力を込めた結界に穴を穿うがち崩壊させるほどにな、忌々しいが木の壁ならば体当たりで容易に穴を開けるであろう。さすればこやつを下郎げろう…、貴様に投げつければどうなるかのう?」


「ッ!?」


「例えれば城門に穴を開ける事さえ可能な鉄のつぶてを貴様にぶつけるようなもの…。クク…、貴様は無事でいられるかな?それを試してやろうではないか」


 なんて事を考えつくんだ…、こいつ…。


「結果は火を見るよりも明らかであろうの…。防ぐ手立てはそこの闇精霊シャルディエがその身を盾にするくらいであろう。だが、そうなればあの火と水の二匹が消えたのと同じ事になるであろう」


「くっ…!?」


 僕はほんの少し前の事を思い出した。ホムラとセラが僕たちを守る為に…笑顔さえ浮かべ消滅していった事を…。それが今度はサクヤとカグヤに?そんな事になったら…。


「ククク…、選ぶが良い。その身を打ち砕かれるか…、あるいは味方を盾としてみずからの身の無事を取るか…」


 なんて事を考えるんだ!カグヤを盾にしたらサクヤと共に消滅してしまう、だけど僕が食らったら…。


「まあ光の魔力で身が傷つく前にまずはその外側…、余が込めた闇の魔力に触れまずは貴様の精神がむしばまれるであろう。クク…、身も心もズタズタになるが良いわ!!」


 魔王が魔力を込めた右手を高くかかげた、サクヤを闇の魔力で捕らえているその手を…。おそらく投げ下ろしてくるのだろう、野球の…オーバースローの投手のように…。だが、僕にはそれを止める術がない。この苦境を打開する冴えたアイディアも、この間合いを一気に飛び込み攻撃するような武勇も僕は持ち合わせていない。


「くそったれ…」


 思わず僕が普段は使わないような単語が口をつく、そんな時だった。


 すっ…。


 僕の頬を何かが触れた、わずかに顔を動かし視線をやればそこにはカグヤがいた。


(……………)


 カグヤが僕を見つめている。


(ねえ…、ゲンタ…。私がいなくなったら…寂しい…?)


「カグ…ヤ…?」


 カグヤ…、何を言ってるんだ?そりゃ寂しいに決まってるし…。


(そっか…)


 くす…。


 カグヤが微笑んだ、いつもみたいに静かで神秘的で…そして美しくて…。


(私もゲンタがいなくなったら嫌…、傷つくのも悲しんでいる姿を見るのも嫌。ゲンタは私に名前をくれた、知らない事を教えてくれた、ずっと一緒に…そう思ってた…)


「カグヤ…、何言って…」


(でも、それが出来ないなら私は…)


 ぽろり…。


 カグヤの紅い瞳から一雫ひとしずく…、涙がこぼれた。精霊は泣かないよ…、以前カグヤが言っていた事が不意に脳裏に浮かんだ。


(私は…ゲンタとずっと一緒にいたい、ずっとずっとそばにいたい。ここでも…地球むこうでもずっと…。かなわない想いでも私はずっとあなたといたい…。だけどそれが出来ないのなら…、あなただけでも生きていてほしい…)


「ま、まさか…、カグヤ…!?」


 くす…。


 カグヤが静かに笑った、その目に涙を溢れさせて…。


「だ、駄目だよ、カグヤ!!そ、そんなの…そんなの駄目だ、カグヤッ!!」


 僕はカグヤの意図に気づいて慌てて止める、だけどカグヤはそんな僕の声に構わずに…。


(好きだよ…、ゲンタ…)


 そう告げてカグヤは僕の頬に口づけをした、本当に小さくてわずかな感触…。


「ッ!?」


 すっ…。


 驚いてる間にカグヤが僕からそっと離れた、ほんの一秒くらいか僕たちは見つめ合った。その間にゲロートポイオスの攻撃の準備は整っていた。


「フハハ、見捨てられたようだな!最後にせめてもの罪滅ぼしの口づけとは泣かせるではないか!!」


(サクヤ!!)


 カグヤの心の声が響いた、サクヤが頷いて応じている。ゲロートポイオスがサクヤを投げつけてくる、同時にカグヤがバッと僕の前に飛び出した。闇の魔力をその身に集めて…。


「駄目だ!二人とも!!」


「サクヤちゃん、カグヤちゃん!!」


 僕とミアリスが叫んだ。


 その時だった、二十センチ余りのカグヤの姿が地球に来た時と同じくらいの大きさになった。両手を広げ僕たちをかばうようにして…、そしてゲロートポイオスの放った攻撃をその身に受けた。


 目の前が真っ白になった。そして凄まじい爆発音と共に衝撃が襲ってくる、まるで爆風だ。


「わああああっ!!」


「きゃあああっ!!」


 僕とミアリスは地面を転がる、そしてあたりが静かになった…。いつの間にか僕は目をつぶっていたらしい、恐る恐る目を開けた。


「あ、ああっ…!!」


 そこには何も無かった…いや、カグヤが僕たちをかばおうと飛び出したあたりに闇色の壁が張られていた。きっと僕たちをかばいながら…身を挺してゲロートポイオスの攻撃を受け止めながら同時に結界のようなものを張ってくれたのだろう。だが、それも消え始めた。ドライアイスが白い気体となってだんだんと消えいくように闇色のもやのようなものが空へと消えていった…。


「カ…、カグヤ…、サクヤ…」


 僕は二人の名前を呼んだ、だけど応じる返事もなければ姿もない。


「そ、そんな…二人とも…。う、うわあああっ!!」


 ホムラとセラに続いてサクヤとカグヤまで…、そんな事実に気が狂いそうになる…そんな時だった…。


「ゼイイィィ…、ゼイイィィ…」


 ひどく掠れて荒れた呼吸のようなうめき声がした、上空うえの方から…。慌てて視線をやるとそこには…。


「あ、ああああっ!!」


 そこにはボロボロのローブ姿になったゲロートポイオスが浮かんでいた。

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