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第590話 無敵の鎧


 ばさっ!!


 魔王を名乗る男、はるか昔にこのあたりにあったというカイサンリという国の王であったゲロートポイオスが目深にかぶっていたフードを外しその素顔をあらわにした。


 現れたのは四十歳を過ぎてはいるが五十歳にはなってはいないくらいの男だった。やや明るい茶色の髪と顎髭あごひげ…、領民を生贄にしたり家臣や実の息子にさえ反旗を翻された暴君…、いったいどれだけ凶悪な顔をしているのだろうと思えば…。


 普通の顔をしている…それが僕の第一印象だった。


「いや、むしろ…」


 品のある顔をしている、なんなら知性も感じるし威厳みたいなものも感じる。その風貌をそのまま絵にして肖像画にしたって良いくらいだ。


「ね、ねえ…お兄ちゃん…。あの人…、変だよ…」


 ミアリスが震える声で呟く。


「い、一度死んで…アンデッドになったはずなのに…。それなのにゾンビみたいに腐敗してないし、スケルトンにもゴーストにもなってない…」


「た、確かに…」


 言われてみればその通り、ゲロートポイオスの顔は腐る事はおろか変色すらしていない。普通の人間にしか見えない。


「余が自らに施した不死なる存在に至る秘術は!!」


 ゲロートポイオスが声高らかに言った。


「この皮膚一枚を生きたまま残し、残りし肉体を霊体に変換する事にあり!」


「そ、それになんの意味が…?」


 霊体っていうと…、亡霊ゴーストとか死霊レイスとか肉体を持たず壁とかをすり抜けてくる存在だよな…。だけど皮膚を残すって…なんで…?


「分からんのか?不死者アンデッドとなった事で確かに魔力は増すが同時に弱点も増える。中でもターンアンデッド(屍人還しびとかえしの術)は決定的だ。それゆえ余はこの皮膚を一枚残したのだ。この皮膚だけは生きておる…、なるほどターンアンデッドは死んだ者にのみ効く強力な術だ。だが、生者には何の影響も与えぬ…。アンデッドとして霊体の余が生きている皮膚に包まれれば…、どうなると思う?」


「あっ!!」


 僕は思わず声を上げた。


「い、生きているものにターンアンデッドは何の効果もない…。つ、つまりその生きている皮膚が…、その皮一枚が術の効果をはば)んでしまうんだ…。む、無敵に…着たら無敵になる鎧みたいに…」


「ククク…、無敵の鎧か…。なかなか言い得て妙な事をかすではないか…」


 ゲロートポイオスがいかにも愉快といった表情を浮かべた。


「さて…、どうする?魔法は余の結界が全て弾いておる…、これは言わば無敵の盾であるなぁ…?頼みの綱のターンアンデッドも効かぬし、もはや打つ手は無しか…?ククク…、さあ…困ったのう?」


 じり…。


 ゲロートポイオスが近づいてきた、思わず僕は半歩後ろに下がった。正直、打つ手が浮かばない…その時だった。


「カグヤ…?」


 僕をかばうような感じで前にスッとカグヤが進み出た、そしてすぐ隣にサクヤも並ぶ。


(ゲンタ…)


 カグヤが僕の心に直接話しかけてきた。


(大丈夫…、向こうが無敵の鎧や盾と言うならゲンタには私がいる。私には闇魔法は効かない、それに…)


(それに…?)


(アンデッドには弱点も多い…。ターンアンデッドだけじゃない…、火にも…、そして…光にも…)


(ッ!?で、でも…、さっきサクヤの魔法も弾かれていたよね?あの結界とかいうやつに…、それをどうやって…?)


(私に考えがある…)


 そう言うとカグヤは少し前に出た。それを見てゲロートポイオスは怪訝な顔をした。


「…どういうつもりだ?確かに闇魔法はお前には効かぬようだが余は強国カイサンリを治めていた。当然、従わぬ者もおる。それを全て押さえつけてきたのだ、魔道の力でな。余の魔法は闇だけではないぞ、この…」


(ッ!!!)


 ゲロートポイオスの言葉が終わる前にカグヤが仕掛けた、ゲロートポイオスの前に真っ黒な暗闇が現れる。そしてワンテンポ遅れるようにしてサクヤが光をその身にまとい頭からゲロートポイオスに向かって突っ込んでいった。


「ぬうっ!?こ、これは攻撃ではない、ただの壁…いや…目くらましのつもりか…?」


 カグヤが触れるとパッと暗闇が晴れた、そこには驚いた表情のゲロートポイオスがいた。サクヤがそのまま突っ込んでいく。


 ガァンッ!!


「…グウッ!!?」


 サクヤが結界に対して体当たりをした、金属同士をぶつけ合ったような激しい音がした。


(確かに闇魔法結界ダークマジックバリアは強力な防御、無敵の盾と言ってもいい…でも)


 カグヤが闇魔法で遠距離からの攻撃を仕掛ける、もちろんゲロートポイオスには効かない。あくまでもサクヤをカバーする目的の援護射撃だろう。


(たしかに盾は無敵…、だけど持ってる本人は違う…。いくら盾に傷ひとつ付かなくても重い一撃をくらえば持っている者の体は傷つく)


「あ…」


 なるほど…。例えば僕が凄く丈夫な盾を構えていても…、例えばガントンさんが持っている大金鎚グレートハンマーを受けようとしたら…。手が痺れる…どころじゃないな、骨折とかしちゃうかも知れない。


(無敵なんてない…、少なくともあいつには…。そう見せているだけ…、サクヤの体当たりで体に衝撃は伝わっているしターンアンデッドもわずかだけど効いている)


「えっ?」


(皮膚…、薄皮一枚だよ。これはいわば薄布で太陽の光を遮ろうとするようなもの…。布が遮れなかった光は向こうに抜ける、…それに)


 ガァン、ガァン、サクヤの素早い攻撃が続く。前から後ろから、直接食らっている訳じゃないがゲロートポイオスは時折ふらつく時がある。まるで鍋の中に入れた豆腐を揺さぶっているような感覚になる。


「調子に…、乗るでないわッ!!」


 バランスを崩しながらもゲロートポイオスは得意の闇魔法をサクヤに向けて放った。


「ククク!滅ぶが良い、闇は弱点であろう!ぬうっ!?」


 カグヤが素早くカバーに入りその身で魔法を受けた、存在が闇そのものであるカグヤには闇の魔法は効かない。


(くすっ…。無敵なんてないよ…、私は違うけど…くすくす…。…ッ!?)


 余裕のあるカグヤだったが何かを感じ取ったようですぐに身構えた。


「ならば…、こうだあッ!!氷結矢アイスアローッ!!」


影盾シャドウシールド!!)


 カグヤの心の声が響くと地面の影から襖のような壁がり上がりゲロートポイオスが放った氷の矢を弾いた。


「むうっ、そちらも…ぐうっ!?」


 ガァンッ!!


 氷の矢を防いでいる間にもサクヤが結界に体当たりをかましている。直接的な打撃ではないがゲロートポイオスは忌々しげな表情を浮かべた。いかにも暴君が浮かべそうな表情である。


「ぐうっ、結界が…」


 何度もサクヤの体当たりを受けたからだろうか、ゲロートポイオスが張った結界にヒビのようなものが入り始める。


「チャ、チャンスだ、チャンスだよサクヤ!!」


 分かってるよと言わんばかりにサクヤが縦横無尽に飛び回り体当たりを決行する。対してゲロートポイオスはなにやら呪文を唱えている、もしかすると結界を新たに張り直そうとしているかも知れない。そうはさせないとばかりにサクヤの体当たりが勢いを増す。


「はあああっ!!迷いの霧ッ!!」


 ゲロートポイオスが張った結界の中に真っ黒な霧を吹き出した。たちまちその姿が闇の中に消える、そこにサクヤの体当たり。結界が大きな音を立てて破れた。返す刀といった感じでサクヤが追撃に移る、ズボッと音を立てるかのように霧の中に飛び込んでいく。


「あ…」


 まずい、と思った。サクヤはそれこそ目にも留まらぬスピードで飛び込んだ彼女だったが闇の霧のようなものの中に飛び込んだ瞬間、その速さが失われた。スローモーション…、そんな言葉が僕の頭の中に浮かんだ。


「取ったああああァァッ!!!」


 ゲロートポイオスの声が響いた、黒い霧がが晴れる…。


「あ、あああっ!?サ、サクヤが…」


 ゲロートポイオスの左手…、闇のオーラのようなものをまとったその手にサクヤが捕まってしまっていたのだった。



 次回予告。


 文字通り敵の手に落ちたサクヤ、有効な攻撃手段を持つ彼女が捕らわれた事はゲンタたちにとって大きな痛手である。さらに魔王は苛烈な攻撃を加えてくる。ゲンタの運命はまさに風前の灯であった。その時、ゲンタを守ろうとしたのは…。


 次回、異世界産物記第592話。


『僕を好きだと言った彼女の消滅』


 お楽しみに。


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