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第585話 そいつの名はパジャソ


「見つけた…」


 そこにいたのは身長が140センチあるかないか…、背の低い男のようだ。ただ、フードを目深にかぶり姿は見えない。体のサイズに合わせた…、魔術師見習いの少年少女が持つような短杖ワンドが握っている。


「あ、あひゃ…、ボクの影隠れ(シャドウ・ビハインド)の魔法が…。ひ、光の魔法を浴びたから…解除されて…」


 影隠れ…、何かの影に隠れて姿を消す魔法だ。敵の魔道士は自分の持つ最強の手駒であるオーガゾンビの影に隠れていたのだ。それがオーガゾンビが強い光の精霊魔法を受けてしまい辺りに強い光が放たれた。結果、自らの姿を隠していた闇の魔法が光によって照らし出されてしまいこうして無防備な姿を晒している。


 そんな男が目の前にいる、シルフィは瞬時に行動に移った。ワンテンポ遅れ魔道士も動いた。


「ぼ、防御魔法…」


「させるかっ!!」


 左肩の後ろ…、シルフィはそこに差していた短剣を掴んで投げた。なにしろ相手は戦闘経験はほとんど無さそうだが魔力の高い闇の魔道士だ、魔法も攻撃手段だけでなくその防御に長けているかも知れない。あらゆる魔法を無効化する絶対魔法結界アンチ・マジック・シェルの魔法は闇属性の代表的な防御魔法として広く知られたものである。


(そんな魔法を常時展開しているとしたら…)


 魔法攻撃は弾かれるかも知れない、だから短剣を投げた。そしてシルフィに呼応して光と風の精霊も同時に攻撃に移った。シルフィの短剣、精霊の魔法攻撃、これで決まりだと思った。敵が驚き慌てふためいている間に…敵の怖さを知る前に倒してしまいさえすればそれに越した事はないのだ。


(思った通り…、魔法以外なら…通った)


 投げた短剣を結界は阻む事はなかった。そして狙いあやまたず敵の魔道士の頭部へ、もはや逃れる術はない…、シルフィはそう思った。


「ひょわわわわァァ!!?」


 敵の魔道士が悲鳴を上げた。眼前に短剣が迫る。


 ガッ!!!


「なっ…!?」


 シルフィは目を見開く。自分が投げた短剣は確かに敵の眉間のあたりに当たったはずだ。普通なら刺さるはず、だがそうはならず敵は頭を後ろにのけぞらせただけで短剣は刺さる事なく地面に落ちた。


「お、おにょれえェェ…!!い、痛かったんだぞ!ボクの…、ボクの顔にぶつけやがってえ!!」


 敵の魔道士がかぶっていたフードが外れていた。後ろにのけぞった拍子に後ろへと落ちたのだろう。のけぞった頭を魔道士は元の位置に戻した。シルフィの目に敵の魔道士の素顔が目に入ってくる。いや、素顔という言葉は正しくないかも知れない。


「仮面…」

 

 そこには鼻から額までの顔の上半分を覆うような仮面があった。王宮で使うような真っ白な磁器の皿のような白地の仮面。両目は太めの三日月のようにニンマリとした笑顔の印象を受ける。その右目のあたりには星型の黒塗り、左目の下には赤色の雫がひとつ…血の涙を思わせた。まるで道化者ピエロ…、シルフィはそう思った。


 そして眉間のあたりにはたった今つけたばかりのようなきずが出来ていた。間違いなく自分がつけたものだろう。それが敵を救った、ならばそこ以外に当てれば良い。すぐに次の行動に移った。


「悪運が強い!でも次はっ!!シッ!!」


「ひょー!!」


 シルフィはただちに二本目の短剣を投げた。同時に魔道士も叫んだ、なんらかの魔法を使ったようである。投げた短剣、シルフィにとっては最後の一本。今度は仮面のある眉間ではなく喉元を狙った。しかし投げた短剣が壁に当たったかのように弾かれた。


「『魔法盾マジックシールド』…」


「その通りィィ!!ひょひょひょー!!」」


「だが、防御魔法を貼り直したのなら…」


 物理攻撃を弾くマジックシールド、短剣を防ぐためにそれを張ったなら今まで張っていた魔法防御型の防御魔法は上書きされ消えているはず…。シルフィは二人の精霊に思念を送る、ただちに魔法攻撃をするようにと。二人の精霊がすぐさま魔法を放った、しかし…。


 バリバリッ!!


「なぜ?魔法盾では物理攻撃は防げても魔法攻撃を防ぐ事は…」


「ひょーひょひょひょッ!!ボクのマジックシールドはただのマジックシールドではぬわァいッ!!」


「なに!?」


「闇の…、闇属性を持たせた魔法盾なんだよォ…キミィ…。ダークマジックシールド…、ボクのオリジナル魔法だよォォ!!これはね、物理攻撃を防ぐマジックシールドに魔力を弾く闇属性を塗ったようなモンなんだよォ!!そしてェェ!!」


 敵の魔道士が光の精霊に向けて杖を持っていない方の手を伸ばし叫んだ。


「ダークカッター!!」


「ッ!!まずい、送還バニッシュメント!!」


 シルフィも慌てて魔法を放つ。バニッシュメントは精霊をこの物質界から精霊たちが元々住んでいる精霊界に強制送還する魔法である。光精霊にとって闇属性の攻撃は致命打になる場合がある、それを見過ごす事は精霊と共にある事を自認するエルフ族のシルフィにとって耐えられない事であった。


 ヒュンッ!!


 シルフィの魔法が先に効果を発揮し精霊はその場から姿を消す、どうやら魔法をくらう前に送還できたようだ。


「ちぇ〜、ならこっちィィ!」


「くっ!」


 敵の魔道士は今度は風の精霊に狙いを定める、すぐさまシルフィは送還の魔法を発動する。今度も無事、精霊界に逃す事が出来たようだ。


「あれれ〜、またハズレ…。でも、まあ良いか。精霊みたいには逃げらるれないもんねぇ、エルフは。困ったねえ、これでしばらくは味方のいないソロになるね。一度送還した精霊はしばらく呼び出せないんだよねえ?」


 言いながら敵の魔道士はゆっくりとシルフィの方に向き直った。


「ひょひょひょ…、キミはどのくらい死なずにすむかなあ。もっとも…ボクに魔法も物理も弾くダークマジックシールドを使わせただけでもたいしたモンだよ。この大ッ、大ッ、大ッ、大魔道士パジャソ様に奥の手を使わせたんだから…」


「大魔道士…、パジャソ…?」


「そうだあ!!このパジャソ様が自らキミを殺してあげるよォォ!!まずは…ダークカッター!!」


 パジャソと名乗った魔道士がシルフィに向かって右手を突き出した。

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