第584話 知恵比べ
本気で戦闘描写を書くー!!
…難しいですね。
テンション上げて書きたい、そんな時は好きな音楽を聞く!
頑張ります。
「ひょっ!?い、いない!?ど、どこだ…?どこに隠れた!?」
敵はシルフィの姿を見失っているようだ。その間にシルフィは焦る心を必死になって抑えながら思考を巡らせる。
(隠れた…か、そうね。確かに隠れている)
「く、くそっ!茂みか、木の枝か!?あっ、木の後ろにいるのか?ちきしょお、出てこォォい!!」
敵の悔しそうな声が響く。だが、出てこいと言われて出ていく者がいる訳がない。
(なにも隠れる場所は木や茂みの後ろだけとは限らない。そうでないところに隠れてこそ潜伏というもの。森でエルフを敵に回す恐怖、その身をもって味わうがいい)
シルフィが身を隠した場所…、それは木の上でも茂みの後ろでもない…地面の上である。ただ、平たい地面ではなく手桶ほどの深さのわずかな窪みがある地面、そこに身を伏せたのだ。
現代の地球においても地面に塹壕を堀り、そこに身を潜ませながら銃撃戦をするのは珍しくはない。そうやって身を隠しているだけで銃撃に対し有効な防衛手段となる。
それはここ異世界においても同じ事が言えた。細身のエルフであるシルフィにとってはそんなわずかな窪みでさえ飛んでくる魔法の攻撃を避けられる十分な塹壕であった。もちろんすぐ近くで地面を見渡せば見つかってしまうだろう。だが、魔法が飛んでくる方向から考えて近くにはいないと考えた。これはシルフィの冒険者としてのカンであった。そして身を隠したまま得られる情報を元に敵の位置を少しでも探り出そうとしていた。
(口や鼻に…、あるいは目に砂が入ったような様子もない…。近くにはいない…?あるいは…)
そう考えたシルフィは少し離れたまだ敵の手が及んでいない茂みから茂みへと風の精霊を移動させてみた。途中で敵の目に留まるように…。
「あっ!精霊が…!ひょ、ひょひょ…逃げた訳じゃないみたいだねェ!逃げてたら精霊もここにはとどまれない!さァ、どこかな、どこかなァ?」
そう言って敵の魔道士は手当たり次第に黒い風の刃を打ち出した。次々と茂みや木立など身を隠せそうな場所が減っていく。
「あれれー?おっかしいなァ!」
(敵もこの辺りにいるのは間違いない…、精霊や茂みの位置を確認して魔法を撃ち出しているんだから…。だが声はすれども姿は見えず。…いったいどこから…?)
「よぉーし、それならコイツの出番かぁ…。あーあー、ホントはもっと目立つ場面で使いたかったのになー。ひょっ!まあ、良いか!どーせ皆殺しなんだし…!ほら、オーガゾンビ!敵のエルフのトコまで行くぞ!生きてる奴の匂いを追っていけえ!」
ずしん。
いかにも重そうな足音がした。
(オーガゾンビですって?)
シルフィは思わず心の中で毒づいた。オーガ…、食人鬼とも言われるそのモンスターは非常に大きな体格を持ち、その姿に相応しい強靭な肉体を持っている。ましてやそんなモンスターがゾンビ化している、そのしぶとさは以前の比ではないだろう。
「ひょひょひょ!こっちの方向にいるんだあ!よーし、さっそく殺しに行っちゃうよォ〜」
なんとも気軽な様子で敵の魔道士の声が近づいてくる。だがその位置まではよく分からない。
「もしかしてェ、そっちも姿隠しの魔法を使ってるのかなァ?でも、そうなると同時に他の魔法は使えないよねェ!集中してなきゃいけないからァ!ほらほらァ、オーガが近づいていくよォー!!逃げた方が良いんじゃないかなァ!?それともイチかバチか風の精霊に攻撃させてみるかい!?」
安い挑発だ、そうシルフィは思った。風の精霊による一撃は確かに強力だ。だが、ゾンビ化したオーガを仕留められるかと言われれば不可能だろう。それほどまでに頑強な相手だ。
「ならば…」
シルフィは次に打つ手を考える。導き出した答えは一撃必殺…いや、二撃必殺だ。シルフィは魔法の準備を始めると同時に風の精霊に思念を送る。その間にもオーガは迫る、十歩とない距離にまで…。敵の魔道士はその間にもどんどん調子づいてくる。
「打つ手ないよねェ!!ど〜こかな〜、ど〜こかな〜、森の中〜♪」
終いには即興の歌まで歌い出した。完全に油断をしている…仕掛けるなら今、シルフィが直感した。敵の魔道士はまだ鼻歌交じりでいる。
「ど〜こかな〜、ど〜こかな〜、もう近くにいるゥ♪」
その時、シルフィが動いた。ガバッと地面から身を起こす!
「ひょ!?じ、地面からァッ!?」
敵の魔道士が驚いたような声を上げる、完全に不意をついたようだ。そして風の精霊もシルフィのすぐ隣に…、並び立つように急接近させていた。
「お、お前、魔法で姿を隠してたんじゃなくて…」
「光雷撃!!」
敵の驚きに構う事なくシルフィは呪文を唱えた。すると真正面に白い稲妻が放たれる、槍のようにまっすぐに進んだそれはオーガの胴体に直撃した。シルフィが得意とする属性、風と光…その光属性の魔法をここで繰り出した。アンデットに対して弱点となる事が多い、現在のシルフィが持つ切り札ともいえる魔法であった。それをシルフィは今ここで使った、勝負所だと冒険者としてのカンが告げていた。
「ひ、ひ、光属性ッ!!アンデットが苦手な光属性ッ!で、でも、でもでも、オーガの体は頑丈ッ!そのくらいなら耐えちゃうんだからなァ!」
さらにその白い稲妻に重ねるようにして風の精霊も風の刃を放っていた、いわゆる鎌鼬というもの。それが螺旋のように稲妻に絡みつきオーガの胴体を切り裂きにいく。光雷撃だけでは倒せないかも知れない、だが自分の魔法と風の精霊が力を合わせれば…そう考えたシルフィは一撃ではなく二撃による必殺を狙ったのである。
「くっ…」
突き出した手にシルフィは抵抗感を覚えていた、刃を刺しているのになかなか中に入っていかないような感覚…。風の精霊の援護が加わり表皮を傷つけつつあるが決定打にはなっていない…。いつかは倒せる…だが、それでは時間がかかり過ぎる。それにここで魔法を中断する訳にはいかない。オーガはもう目前である。シルフィは叫んだ。
「光精霊…精霊よ、我らに力を!!」
ビュンッ!!
光と風、二属性と特に親和性が高いシルフィには実体化させられる精霊が二人いつも近くにいた。普段は目に見えないように実体化はしていないが常にそばにいる。その光精霊が今、シルフィに並ぶようにして同じく光雷撃を放つ。
ドッ…!!
大きな塊の生肉に肉切り包丁を突き立てたような音がした。シルフィたちの攻撃がガッチリとオーガの腹に食い込んだ、そんな音だった。シルフィは魔法を放っている手をさらに前に突き出す、自然と気合いの声が洩れた。
「ひょッ!?ひょーッ!た、耐えるんだよォ、耐えるんだォ!オーガゾンビぃ!!」
敵の魔道士が必死になってゾンビを叱咤している。
グボッ……。
攻撃が食い込んでいくオーガの胴体、シルフィはさらに力を込めた。オーガゾンビの肉体が不気味なまでに膨れ上がっていく、そして弾けた。
………ッパアアアアァァンッ!!!
オーガゾンビの腹の中を駆け巡っていた二つの雷撃と一つの風の刃が合わさったものがついに背中に裂け目を生んだ。一人のエルフ、二人の精霊…三人の魔力が合わさったものに耐えられなくなった体内で爆発し強烈な光と爆風を生み出しオーガの胴体は風船のように破裂し手足が千切れる。そしてもうひとつ、シルフィが得られたものがある。
「ひょーッ!!?」
「見つけた…」
シルフィの視線の先…、そこには千切れたオーガゾンビの足の後ろに隠れるようにしている小男の姿があった。