表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

594/750

第583話 悪い予感


 ツイッターを八月より始めました。

 ミコガミヒデカズ名義です。

 こちらもよろしくお願いします。


「頭の足らぬ者にも分かるように言ってやろう。彼奴きゃつらめ、自爆しおったのよ」


 魔王とやらが地面を歩いて近づいてくる。水精霊アクエリアルのセラがこの場に居なくなってしまった為、泥田どろたのようになっていた地面も元に戻っている。僕は慌てて立ち上がった、こいつは町をアンデッドたちに飲み込ませようとした奴だ。どう考えたって友好的な会談になる訳がない。


「火と水…、相反する属性の精霊が魔力を帯びて触れ合うと消滅するのだ。火が水によって消え水が火によって煮立つようにな…、だが、その互いが魔力を帯びて触れ合った場合どうなると思う?当然、瞬時に消滅し合うがその際に大きな余波を生む。それがこの結果だ」


 ヒョオオオオォォ…。


 何もなくなった大地に風が吹いていく…。


「許さんぞ…。余が土の中より這い出させた玩具どもを…、全て粉微塵にしおって…。生きとし生ける者全てに絶望を与えた後、同じく死体の玩具にする余の遊興あそびを…その全てを台無しにしおって…。この地の死体どもは皆無となったが…」


 フード付きの黒いローブ…、そのフードを目深まぶかにかぶっている為その表情は分からないがその声には怒りが滲んでいる。


「貴様らはこの余…、魔王ゲロートポイオスみずから念入りに殺してくれようぞ!!すぐには殺さぬ、ありとあらゆる苦痛を与えなぶり殺しにしてくれる!!余の不興を買った事…、その身をもって償うが良い!!」



 一方その頃…、森に残り敵の魔道士との戦うシルフィは…。


「ひょひょひょ…。なかなか当たらないけど…、でもね…そろそろ隠れ場所が無くなってきたかなあ?」


 身を隠しながら矢を放ち少しずつゾンビを仕留めてきたシルフィ、だが敵の魔道士はまだ姿を現さない。…いや、魔法でその姿を隠しているのだろう。敵の言っていた通り、これはまさにかくれんぼ。先に敵の姿を見つけた方が圧倒的に有利になるそんな戦いであった。


 森の中での戦闘、この場所はまさにエルフの独壇場だ。その中でシルフィは十二射連続でゾンビの頭部を射抜いていた。また、一度はこの場から離脱させた伏兵としている風の精霊も戻ってこさせ二体のゾンビを倒す事に成功した。風の精霊は初撃で一体のゾンビを倒しているから合わせて三体、シルフィが射倒している十二体を加えれば十五体である。残るゾンビはあと五体だ。


 残る矢はあと三本、確実に当てていきたい。そこでシルフィは離れてはいるが狙いやすい位置にいるゾンビに矢を放つ。一撃で仕留める為、その頭部を狙った。


「次…、えっ!?」


 シルフィが放った矢、それは間違いなくゾンビの頭部を射抜いていた。しかし、驚くべき事にそのゾンビは倒れない。普段なら冷静沈着なシルフィであったが今回は違った、慌ててまだ動いているゾンビの頭部に向け二射目の矢を放ちとどめとした。


「なぜ倒れなかった…?こ、これはッ!」


 倒れたゾンビに視線を向けたシルフィ、そこに倒れていたのは…。


「ホブゴブリンの…ゾンビ!!」


 人ではなく魔物、ホブゴブリンの体格は成人男性を少しガッチリとさせた感じである。その見た目通り力も強いし強靱さもある。人だけでなく魔物のゾンビがいた事に少なからず驚いた表情を浮かべるシルフィ、そこにわずかなスキが生まれた。


「ひょひょひょっ!!見つけたァ、やっぱりエルフだったァ!スキありィィ!ダークカッター!!」


「くっ!」


 黒い風の刃が飛んでくる、シルフィはそれを横に動いてかわす。しかし、完全にかわしきる事は出来ず体の左側をかすめていった。ゲンタから贈られたブラァタ素材の防具がなければ手痛いダメージとなっていただろうが肩当てや腕部の装甲をもっていかれただけで奇跡的にわずかな擦り傷程度で済んだ。しかし、それ以上に手痛いのは…。


「ひょーひょっひょっ!!弓ィ、弓を落としちゃってるよォ!おまけにつるも切れちゃってるゥゥー!!これでもう矢を撃つ事も出来ないねェ!」


 先程の魔法をかわそうとした際にシルフィが左手に持っていた弓、それが弾き飛ばされ地面に転がっていた。


「まあ、弓があってもォ?ホブゴブリンのゾンビはァ、とォ〜っても頑丈だからねェ!矢を一発ゥ、頭に当たったくらいじゃ倒れないンだァ!さぁ〜、困ったねえ!打つ手ないねェ!ひょ〜ひょとひょっ!どうするのォ、ゾンビはまだいるよォ!ほらァ、もう目の前にィ!」


 姿の見えぬ敵の魔道士が勝ち誇ったように笑う声が響く、そしてその言葉通りホブゴブリンのゾンビが近づいてくる。その距離、わずか数メートルの位置まで…。さらにその後ろにはもう一体、こちらもまたホブゴブリンのゾンビであった。


「打つ手は…いえ、撃つ矢はまだここにある」


「ひょ?負け惜しみをォ〜、弓もなくどーやって矢を撃つんだいィィ!?」


「矢よ、風をまとえ!幾重いくえにも!!」


 シルフィの右手に残った矢がその手を離れ宙に浮いた。方位磁針の針が北を求めるようにその矢もクルクルと回る。そしてそのやじりが敵を見つけたとばかりに間近に迫ったゾンビに向いた。そして…。


「我が敵を討て、嵐矢ストームアロー!!!」


 シルフィの声が響くと同時に矢が放たれた。嵐をのような激しい風が包んだその矢はやすやすと迫るゾンビの頭を貫きなおも飛ぶ、その先には後に続いていた二体目のゾンビがいた。矢はその二体目のゾンビの頭部をも砕き散らせた。


「な、な、な、なんでェ!?」


「エルフが友の…、精霊と共にある事を知らないの?風の力を借りて矢を放った、愚かなお前が油断しているその時に…」


「お、愚かだってェ!?」


「スキだらけよ。無駄口を叩いている時間があるならその間に敵を討つものよ」


「な、な、なぁにォ!!お前だって何もしてない癖にィ!もう身を隠す場所も無い、殺してやるゥ!!」


精霊ともよ、今ッ!!」


 ズバッ!!


 さらに一体のホブゴブリンゾンビの首が飛んだ。


「あああ、いつの間にィィ!?お、お前、狙っていたな!わ、わざとボクを怒らせて…」


「今ごろ気づいたの?…やはり、愚か…」


「ぐ、ぐぬぬゥゥ…」


 先程からシルフィはわざと挑発するようにして敵の気を引いていた、その間に風の精霊が十分に力をためた一撃を繰り出したのだ。文字にすればそれだけの事、しかし実戦でそれをやるのはなかなかに難しい。ただ力が強い、魔力が高いというだけではない。シルフィには先を考える力も豊富な経験も持ち合わせていた。その経験や自身のカンから照らし合わせてシルフィの導き出した答えは…。


(敵の魔道士の能力自体が高いのは確か…。その証拠に私はいまだに敵がどこに潜んでいるか見当もつかない。だけど弱点はある、この敵…戦闘の経験は少ない。あまりに無駄が多く、不測の事態に弱い…。そこにじょうじるべきスキがある、まずはそこを突く…)


 そう考えた時だった、遠くで…西の方から激しい衝撃が伝わってくる。そしてプツリと物が切れる音がした。自らの…、シルフィの首元で…。


「こ、これは…?お守りの…、ゲンタさんと共に編んだ組紐くみひもが…。そ、それに…ホ、ホムラとセラの気配が大くきく弾けて…消えた…!?」


 冒険者は誰しも何らかのお守りを持っている事が多い。故郷のものだったり、倒した獲物の牙だっだり…、それを紐で結んで首から下げているのが一般的だ。それはシルフィも例外ではなく、その首から下げる紐をシルフィは元太と共にんだ。細い紐を三本、三つ編みのようにして…。そのうちの一本が今こうして切れた、しかもいつも元太と共にいる二人の精霊の気配が消えている。


「ま、まさか、ゲンタさんの身に何か…?いや、まだサクヤとカグヤの気配はある。今は…、今は私の出来る事をしなければ…、砂埃クラウド・オブ・ダスト


 シルフィの行動ははやい。すぐに次の魔法を放つ。生み出された魔法により地面の砂粒が舞い上がりあたりね視界を奪った。魔法自体は殺傷力の無い、しかも初歩的なもの。


「ひょ?何それェ?そんな魔法、聞いた事も無いィ。でも、ボクだって風は使えるんだよォ!闇の風だけどねェ!砂埃なんて吹き散らせェ、ダークウインド!!」


 敵の魔道士を中心に全方向に風が放たれる、あっと言う間に視界は晴れた。


「ひょひょひょ、ざーんねん!!砂埃が舞っている間に身を隠そうとしたんだよねェ?だけど近くの茂みとか身を隠せそうな所はもう切り倒しちゃってるモンね!遠くまで行く時間稼ぎをしたかったろうに…な、なにィ!?」


 敵の魔道士が驚きの声を上げた、先程まで確かにいたシルフィの姿が忽然と消えていたのだった。





 次回予告。


 シルフィの戦いは続く、ゲンタの身を案じつついまだ見つけられない敵の魔道士の居場所を必死に探る。そして二十体目…最後のゾンビが現れる。切り札ともいえるそのゾンビはホブゴブリンよりも強靱な魔物のゾンビであった…。


 異世界産物記、第584話。


 『知恵比べ』


 お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ