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第581話 邂逅


「あ、あれは…」


「何かが近づいてきてるよ、お兄ちゃん!それも何か…良くないものだよ!」


 シンタウロさんの声に僕とミアリスはは思わず町の西側の方を見た。すると西の方から何かが近づいてくるのが見えた。ゾンビ…、それと他に何か白いもの…。


「あ、あれは骨だぜよ!骸骨がいこつじゃあ!数は少ないがァ、ありゃあ確かに骸骨じゃあ!」


 シンタウロさんは船乗りだ、その視力は相当良いはずだ。少なくとも僕なんかよりずっと…。


「ゾンビだけじゃねえのか!?こりゃちぃっと厄介だぜ!」


 舟を操るのに使っていた竿を借りて振るっているマニィさんが叫んだ。


「ゾンビはノタノタ歩いて来るだけだが骸骨は…、スケルトンはもう少し素早いぜ。たまに武器持ってる奴もいるし…」


「ゾンビに比べたら脆いっていう弱さもあるけどぉ…、油断は出来ないですぅ」


 マニィさんとフェミさんが冒険者としての知見を語る。なるほど、僕の知っているゲームなんかで出てくるゾンビとスケルトンの特徴…ゾンビは鈍重だがしつこくスケルトンはそれよりは軽快で武具なんかも使いこなす器用さがあるが肉が無いせいで耐久に難があるという事だろう。


「西からも敵が…」


「お、お兄ちゃん…」


 僕は思わず呟く。どうしたら…、どうしたら良い…?


「坊やン…、行きたいがじゃろ?」


 長い柄に曲刀を取り付けた薙刀なぎなたに似た武器…グレイブど呼ばれるものを振るいながらリョマウさんが問いかけてきた。


「あっちは坊やンの住まいに近いがじゃ。マオンの婆様がおるとじゃ!家族は守らにゃあならんきに!行けや、坊やン!!その力がありゃア…おんしゃも妹はんもアンデッドにゃあ無敵だきに!」


「リョマウさん…」


「そうだぜ、旦那ッ!うりゃあッ!」


 長い竿を棒高跳びのように使ってマニィさんが敵のど真ん中に飛び込むとブルンと竿を真横に一回転するようにしてゾンビたちを薙ぎ払う。


「ここはオレたちが抑える!だから何も心配いらねえ!行ってくれ、旦那!!」


「そうですよう!私たちがいまぁす!」


 マニィさんの薙ぎ払いが当たらなかったゾンビたち、その討ちもらしたのをメイスと呼ばれる鈍器で叩きながらフェミさんも応じた。


「オレたちは孤児院の出だ。だけどオレはフェミとずっと姉妹みたいにやってきた。だから家族の大切さも分かってるつもりだぜ!」


「だからぁ、ゲンタさんのお婆さんなら…私たちにとっても将来…お婆さんになる人だよぉ!」


「へへっ、こんなの…オレらしくないけどよ…。嫁さんになるってのも…悪くねーよな…って思うようになって…」


「行って下さい、ゲンタさん!ここは私たちが抑えますぅ!」


「心配するなって!オレたちには…」


「ゲンタさんのくれた鎧が守ってくれますう!」


「マニィさん…、フェミさん…」


 ブラァタ素材の防具を指し示して言ってくれた二人の言葉に僕は思わず胸が詰まった。


「ありがとうっ!僕は…、僕たちは行くよ!だから…、みんな無事で!」


「おう!だけど、坊やン!気をつけるがじゃ!今まではゾンビばっかりだったからおんなじノロノロ歩いてくるだけじゃった。だけど、今度はそれだけじゃないがよ。速さもバラバラ、武器を持ってるかも知れん!いくらターンアンデッドを使えても防御に関しては裸に等しい、坊やンたちに誰かつけてやれたら…」


 リョマウさんがそう言った時だった、小さな何かが飛び出した。そして手近な一体のゾンビが燃え上がり灰になっていく、さらにその隣りのゾンビが切れ味鋭い刃物で切り下ろしたかのように頭から左右に真っ二つになった。


「ホムラ…、セラ…」


 二人の精霊がゾンビを倒した後にこちらを向いた。さらに本格派のピッチャーが投げる豪速球のような勢いで何かが突っ込んでいく。その先に迫っていたゾンビの土手っ腹に大穴が空いた。


「サクヤ…」


 ひゅんっ!


 サクヤが戻ってくる、同時にドサリと腹に大穴が空いたゾンビが倒れる。


(最後は私だね…)


「カグヤ?」


 スッと音もなくカグヤが一体のゾンビに向かう、そしてその足元の影の中に潜り込んだ。次の瞬間、影の中から真っ黒な手が何本も伸びてくる。それはゾンビの足を掴み影の中に引きずり込んでいく。ゾンビは底無しの沼に飲まれていくように沈み込んでいく、足を掴んでいた手は腰に…肩に…最後には頭を掴んで完全に影の中に飲み込んだ。ゾンビがいなくなったのになぜか地面には影が残っている、まるで黒い水たまりのようだと思っていたら中からカグヤが浮かび上がってくる。そしてカグヤが完全にその姿を現すと影のようなものが消えていった。


「こ、こりゃあ…。坊やンにはこんな頼りになる味方がおったんじゃな」


「み、みんな…。ついて来てくれるの?」


 僕はサクヤたちに尋ねた、すると四人とも当然といった感じで頷いた。


(当然…、ゲンタには指一本触れさせない…。誰にも…)


 カグヤの心の声が聞こえてくる。


(ありがとう、心強いよ)


(ふふ…。シルフィより…?)


(う…)


 なんとも返答に困る事をカグヤはくすっと小さく微笑みながら問いかけてくる。


(冗談…。行こう、ゲンタ…)


 そう言うとカグヤは町の西側の方を指差した。



 リョマウさんたち、マニィさんとフェミさんと無事の再会を約し僕とミアリスは新たに町に迫るゾンビやスケルトンを迎え撃つ為に町の西に迫るアンデッドに向かった。幸いその数は少なく僕とミアリスの二人でも対処が可能であった。そこに四人の精霊が加わる。近くの敵に対しては僕とミアリスが互いの背を守るようにしてアンデッドを土に還していく。それ以外の離れた敵に対してはサクヤとホムラが向かい倒していく、そして接近を許してしまった敵に対してはセラとカグヤが対処した。


 町の西の木の柵と堀の代わりの川を背にして僕とミアリスはアンデッドたちに堅実に対処出来ていた。時に代わりばんこに後退し水筒代わりのペットボトルに口をつけ喉を潤す。喉が渇ききってターンアンデッドの声が出なくなるなんてミスは笑うに笑えない。そんなを犯さぬように僕たちは慎重に対処した。


「決して無理はするもんじゃねえ。上手くいってると思って調子に乗ると大抵痛い目に遭う」


「そうじゃ、『大剣』の言う通りじゃ。その時出来る最善を尽くすのじゃ、背伸びなんていつでも出来るんじゃからの」


 いつだったか酒を飲みながらナジナさんとガントンさんが言っていた事を思い出す。経験豊富で実力も確かな二人が言っていた事だ、経験がロクにない僕は間違った判断をしてしまう可能性が高い。だから僕は今出来る事をやる、土に還ったアンデッドはもう襲ってくる事はない。だから確実に一体一体に対処する、そうすればいつかは敵も全滅だ。


「お兄ちゃん!あ、あれ!あのゾンビ、人じゃないよ!」


 ミアリスが声を上げた。彼女が指差した方を見ると人形ではないものが近づいてくる、野犬か狼か…腐乱していてよくは分からないけどそんな四つ足の獣のゾンビが迫ってくる。それだけじゃない、骨格標本のようになった獣のスケルトンも近づいてくる。走れるのかは分からないが人型のスケルトンよりもそのスピードは速い。


「人の形をしたアンデッドとは違う特徴があるかも知れない、速さとかも分からないし…。ミア、スキを見せないようにしよう」


 そう声をかけてターンアンデッドをかけていく。幸いにも動物のゾンビやスケルトンも無事に土に還す事が出来た。いける、このまま耐えられるぞ、そんな事を思った時だった。


 ぼこっ!ぼこっ!!


 数十メートルくらい先の地面から何かの動物の骨が次々と這い出てくる。まるでホラー映画のワンシーン、墓場から埋まっていた死体が這い出てくるあのシーンのようだ。


「ふ、増えてる…」


「く、来るよ!お兄ちゃん!」


 その地面から這い出てきた十数頭の野犬だか狼だかのスケルトンやゾンビが駆けてくる、速い!


「う、うわわわっ!」


「きゃっ!!」


 速い、数が多い。僕たちのターンアンデッドが間に合わない、そう思った時だった。水精霊アクエリアルのセラが僕たちの前に飛び出しその両手を突き出した。


 ズボッ!ズボッ!!


 するとたちまち僕たちの目の前の地面が泥田どろたのようになった。そこに足を取られ獣のゾンビやスケルトンはロクに身動きも取れない。


(ゲンタ、今ッ!)


 カグヤの心の声が聞こえた。


「ゥ…、ゥワレニカゴヲォゥー!!」


 必死になってターンアンデッドの術をかけると敵は土に還っていった。


(ゲンタ…)


 カグヤぎ再び声をかけてくる。


(何か来るよ…。それも良くない…大きな負の力が…)


(そ、それって…)


「ふ…、ふははははは!!」


 僕がカグヤに返事を返そうとした時だった、辺りに響き渡る声がした、低く威厳のある声…。ゲームに出てくる大魔王とかこんな感じなのかなとかこの場にはふさわしくない事を考えてしまった。


「面白い、面白いぞ…。弱き者が必死にあがく姿を眺め見下ろすというのは…」


 声がした方に目をやればいつの間にか百メートルくらい先、ビルの三階くらいの高さを浮遊している人影のようなものがあった。目をこらす、黒いローブのようなものを着ている事だけは分かる。僕とミアリスは目立つようにあえて白衣を着ているからまるで対極にいるかのような格好だ。


「そしてそれを踏み潰すというのも…な。ぬああああ……」


 ローブの人物が声を上げなにやら手のひらを下に向けた、すると…。


 ぼこっ、ぼこっ!!


「あ、ああああっ…」


 地面を掘り返したかのように地面から何かが這い出てくる。それは目の前を…いや、それだけじゃない。視線の先、森の方までずっとずっと動物やら人やらとにかく死体や骸骨で埋め尽くした。


「あ、あいつがこのゾンビやスケルトンを…?」


「さあ…我が闇の魔術により動き出した死体どもよ、進め!全て飲み込むのだ!!」


「闇の魔術で動き出した死体…?…って事は、間違いない!お前が闇の力を持った魔道士か!?このゾンビやスケルトンを…、それだけじゃない!ギリアムやハンガスをアンデッドにしたのも…」


「ほう…?あの欲望と恨みの心だけは肥大していた奴らを知っているのか。それでここにいるという事は…打ち倒したという事か…。まあ、あの程度の雑魚では小手調べのアンデッドでしかない。ククク…」


 雑魚…か、あの二人が…。それは良い、そんな事はどうだって…。だけど、僕が一番気になるのは…。


 闇の力を持った魔道士、それが二十体ほどのゾンビを引き連れ東から迫っていた。それをシルフィさんが単身迎え撃とうと森に残った…。その闇の魔道士がここにいるのだから…、そう思った僕は思わず声を荒らげていた。


「お前…、シルフィさんをどうした!?」


 次回予告。


 迫り来る死体の波。それはゲンタとミアリス、さらに四人の精霊が加わっても対処しきれるものではなかった。絶対絶命、そんな言葉がゲンタの頭をよぎる。その時、動いたのは…?


 そしてシルフィの運命は…?


 次回、異世界産物記、第482話。


 『消滅』


 お楽しみに。

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