第571話 屍の復讐鬼(4)
「ゥワレニカゴヲォォッー!!」
今日何度目だろうか、ターンアンデッドを行う。ギリアムの攻撃手段たる両腕、そして動く為の足…。それが終われば足の付け根や腰…、食屍鬼となり強い抵抗力を持つギリアムは体が巨大化していた事もありターンアンデッドをかけても土に還せる割合は大きなものではない。その大きな体を少しずつ土に還していく。
「だったら何度でもかける」
割合は大きくなくても数をこなせばいずれは百パーセントに到達できる。体の部位を失えば失うほど危険度は減っていく。ギリアムの動かせる体の範囲も減っていき残るは頭部だけとなった。もはや憎まれ口か悲鳴を上げる事しか出来なくなったグールの成れの果てがあった。
「お前に聞きたい事がある」
シルフィさんがギリアムに問う。
「お前は魔境送りの刑になってまだ数日…、即日死亡したとしてもせいぜいゾンビになる程度…。それがなぜアンデッドとしてはより高位の食屍鬼になれた?しかも他の死体を食らえば傷はふさがり体も大きくなるような特殊な個体に…、なぜなれた…?」
「い、痛え…痛え…クソが…!ああ、言ってやンぜ!俺様はよォ、両腕を落とされあの森の奥深くに放り出された!そしたら急に辺りが夜みてえに暗くなり始めて…」
そう言ってギリアムが話し始めた。
□
ギリアムが口にしたのは刑が執行された時、日蝕の時からの事だった。日蝕により暗くなった森の奥から何か得体の知れぬものが近づいてきてハンガスとギリアムを運んできた兵士たちが一瞬で凍りついたという。地面に転がっていたハンガスとギリアムは次は自分たちの番かと恐怖し震えていた、両腕も切り落とされなす術もない自分たちにはそうする事しか出来なかったから…。だが、そこで思わぬ事が起こった。
「忌まわしき陽光が失せた…、出てきてみれば…」
バリッ…、近づいてきたものが凍りついていた兵士の頭に触れるとそれを握りつぶした。脆い木材が砕けるようにその破片がパラパラと地面に落ちた。そんな恐怖しか感じられぬ存在がハンガスとギリアムに視線を移した…ような気がした。
「罪人…、か」
近づいてきたものが声を発した。
「両腕を落とした上で…、生きながら獣に食われるかも知れぬ恐怖を与えながら死に至らしめる…か」
暗いからよく分からないがフードの付いたローブを着た人物のようだ。声からすると男…、分かるのはせいぜいそのくらい。
「業深き者の方が良い外道となる…、汝らこのまま朽ちたいか?それともまだ永らえたいか?」
その問いにギリアムはすぐに飛びついていた。
……………。
………。
…。
「そんな事が…」
シルフィさんが呟く。
「そうだァ、そして俺様は死なねえ体を手に入れたありがとう!!そっからは夢中でッ、食えるモンを食ったさ!そしたら切り落とされた手が生えてきた!曲がった背中がッ、ガリガリだった体もッ!!」
「元通りになった…と」
「違えよ!より強く、大きくなったンだァ!!俺様は食えば食うほど強くなるウ!無敵なんだ、ヒャハハハッ!!」
「うるさいよ。ゥワレニカゴヲー!」
「ガッ!!!?」
僕は再びターンアンデッド(屍人還し)の術を放った。ギリアムの下顎が土に還った。
「無敵ならどうして今ここで地面に倒れてるの?無様にさ…、ねえ…どうして?」
「クォの…、クソがヒャハァ!俺シャまは食えば…キュえば、また…」
下顎を失い発音がおかしくなったギリアムが何か言っている。
「顎がないからもう食べられないね…、終わりだよギリアム」
「グッ、ぐぞォォッ!だ、だが、テメーりゃも終わりヒャあ!俺様をグールにしたヤチュが町を襲うじョオォォ!つ、次の昼に満月がふたつ浮かぶその日ニィ…」
「なっ…!?」
シルフィさんが驚きの声を上げた、その時だった。
「ヒャハアッ!!」
どうやったかは分からないがギリアムが寝返りを打つかのように首を傾け…そして跳ねた。僕に向かって…。
「か、噛めなくても…飲み込んでやりゅウゥッ!!」
「ゲンタさん!!」
飛びかかってくるギリアム、だけど僕はなんとなくだけどそれを予想できていた。きっと往生際が悪いだろうなと思っていたから…。
「ゥワレニカゴヲォゥ!」
「ア、アヒャアッ…!ク、クズレ…オレサマノ…」
風に舞う塵のように…ギリアムの残る顔面が土になって散っていく。
「ク、クソガ…。ダガ、ムスウノ…ゾンビガ…ハンガスノヤローモ…マチヲオソウッテヨォ…。テメー…ラ…オワリ…ダ…」
そう言ってギリアムは完全に消滅した。後には何も残らない、ほんのわずかな真新しい土を除いて…。
「終わった…けど…」
僕は思わず呟いた、ギリアムは気になる事を言っていた。
「次に満月が昼間に二つ出る時…、ギリアムをグールにした奴が攻めてくる…?無数のゾンビ…そしてハンガスも…、って事は奴もゾンビやグールに…?」
「ゲンタさん、町に戻りましょう。これはギルドを…いえ、町を挙げて対処しなければならない話です」
僕はシルフィさんの言に従い町に戻る事にしたのだった…。