第569話 屍の復讐鬼(2)
「あ?誰だア?俺様を気安く呼びやがるのは…?クソが…、テメーかよ…」
ずしん…。
森の木々の間からから後ろ足を引き抜くようにしてギリアムが原っぱのようになっている開けた場所に分け入ってきた。だが、その姿は…。
「な、なんで?刑罰で両腕を切断とされていたはず…。それにヒョロヒョロでガリガリになってたはずなのに…」
目の前のギリアムはゾンビになっているとはいえ、ちゃんと両腕がありその体の大きさはマンションの二階を…いや三階を超えるくらいのものとなっていた。僕のそんな戸惑いを他所にギリアムは首を左右に動かしながら関節をゴキゴキと鳴らしている。目の前にいるのは巨大アンデッドなクセにこのへんは妙に人間くさいというか不遜な態度を常にしていたギリアムらしさが色濃く残っている。
「はあ〜、めんどくさかったぜ…。まあ、良いか…。俺様をこんな目に遭わせたクソ野郎とケツを蹴り飛ばして地べたに突き落としたクソ女に最初に出会えるたアよォォ…。まず最初に殺すのはコイツらにしとくかァ!!」
ギリアムは僕たちに憎しみの目を向けた。コイツは
「シルフィさん、まずあのゾンビを…」
「テメーらはそこのクソ女を足止めしとけ!俺様はこっちのクソ野郎をなぶり殺しにしてやンぜぇ!!」
僕がターンアンデッド(屍人還し)します、そう言おうとした。だが、その声にかぶせるようにしてギリアムもまた叫んでいた。生前の…元々の声の大きさの差、そして今はどうやったのかは知らないが体格に明らかな差がある。
僕の声をかき消すようにしてギリアムの声があたりに響いた。その声に従いゾンビたちがシルフィさんに向かう。
「風よ!!」
シルフィさんが両腕を前に突き出し魔法を放つ。その瞬間シルフィさんの体の回りを流れていた風が無数の刃となって放たれる。たちまちゾンビたちは切り裂かれ動きが止まる。中には足が切り落とされ倒れたゾンビもいた、体を支えられず地面に倒れるがその体はまだ動いている。
「チッ、使えねーなァ。まあ、よォォッ!」
ずしんっ!
ギリアムが近づいてくる、動きはトロい。だが、凄い迫力だ!そして一体ねかゾンビもこちらに向かってきていた、頭も半ば損壊していて一番腐敗が酷い。もしかすると先程のシルフィさんの方に迎えというギリアムの号令が理解できなかったのかも知れない。
「ゥワレニカゴヲォゥ!!」
「グッ!?」
「ゥオオォン!!」
僕はターンアンデッド(屍人還し)を術を放った。ぼろぼろと腐敗のひどかったゾンビの体が土に還っていく。同時にギリアムも顔を背けた、しかしその体が土に還る事はなかった。
「なんだァ…、そのムカつく光はよォ!!オラッ!!」
「ッ!?」
土に還らなかったギリアムが腕を振り回してくる。近くで見てよく分かった、こいつマンションの三階くらいの大きさじゃない。もっと、デカい!!まずい、かわせない!!
「ゲンタさん!!旋風!!」
「うおッ!」
シルフィさんの声、そしてギリアムも同時に声を上げた。ギリアムの肉体が激しい風の刃に包まれ全身を切り刻まれている。
「ガアアアッ!!うざってえェェ!!」
そんなギリアムは自分の体に煩わしく引っ付いた蝿でも振り払うかのように体を包んだ風の刃を振り払った。だが、その肉体はいくつもの傷がついている。だが、あまり深い傷はないようだった。しかもそれがゆっくりとだがふさがっていくようにも見えた。
「ゲンタさん、早く離れて!」
「は、はい!」
僕は慌ててその場を離れシルフィさんの方へ走る。僕の後ろの方でズシンと足音がした、追われているとすぐに分かった。
「デカくなったからスットロくなっちまったらけどよォォ、歩幅はデケえんだぜえ!一歩一歩はよオオォ!!」
再び僕の後ろで地響きがした。僕の何歩分がコイツの一歩なんだ?そんな恐怖が胸に込み上げてくる。
「はああああッ!!巨大風切断!!」
シルフィさんが魔力を練り上げると同時に大きく体全体を使うかのようなモーション、第三撃目となる大きな風の刃を放った。ようやくシルフィさんの近くにまで来れた僕が後ろを振り返るとギリアムの右足の太ももあたりにそれなりに大きな傷が出来ていた。そこに水精霊のセラが追撃をかける、水を高圧噴射して薄い刃を作ったかのような一撃を飛ばしギリアムの足の傷をより大きなものにした。
「うががががっ!!」
ぐらり…、ずしぃぃぃんっ!!
ギリアムの巨体がバランスを崩し地面に倒れる。だが、ギリアムの右足にせっかく出来た大きな傷はこの間にもわずかずつだがふさがっていく。それに最初の竜巻によって体中についた傷はもうほとんどふさがってしまっている。
「この女、チョロチョロと…!だが、丁度良いぜえ!!」
前のめりに倒れたギリアムがグッと前に手を伸ばした、狙ったのは僕でもなげればシルフィさんでもない。なんと最初にシルフィさんによって手足を失いそれでもまだ蠢いているゾンビに向かってだった。その伸ばした巨大な手、それがむんずとゾンビを掴んだ。
「な、何をする気だ…?…あ、ああッ!?」
ギリアムの様子を見ていた僕は思わず声を上げた。目の前で繰り広げられたおぞましい光景…、それは…。
「く…、食ってる…」
なんとギリアムは掴んだゾンビを口元に運び、なんの躊躇いもなく食べていたのだった…。