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第563話 報告と思いつき


 金目の物を持っていつの間にかミーンの町の自らが経営する商会兼屋敷から逃げ出していたブド・ライアー、森で屍人ゾンビ化していたヤツを無事に土に還した僕たちは採取した薬草の納品と事の顛末てんまつを報告する為に冒険者ギルドを訪れていた。


「はい…。お兄ちゃんと二人で薬草を集めていたら屍人になったブド・ライアーに襲われ…」


「なるほど…。それをターンアンデット(屍人還し)の術で…。さすがは幼い頃からシスターの修行を積んできたミアリスさんですね」


 くいっ。


 昼下がりの冒険者ギルド内、眼鏡に手をやりながら報告を受けているシルフィさんが応じた。


「い、いえ…。私なんて…、お兄ちゃんがお手本を見せてくれなかったらとても…」


「ゲンタさんが手本を?」


「そ、そうです。この術は教会で代々伝え聞いてきたものだそうで…。私が最初に術を使った時はひるませただけでした。なんか発音ていうか…伝わってきたのとは少し違う呪文でした。お兄ちゃんがやってみたら…ブド・ライアーの肘から先が土に還って…」


「威力が違った…と?」


「はいミアが改めて術を試みたところ、威力は僕とは段違い。ブド・ライアーの体全体を土に還しました」


「なるほど…、そうだったのですね。それにしても…、今回の件は先程の太陽の姿がしばらく見えなくなった時に…、すなわち太陽の加護が一時的に失われた事で屍人ゾンビが現れる事態となったのでしょうか…。この事はナタダ子爵家にも知らせておいた方が良さそうですね」


「そうですね、今回の殺し屋騒動の関係者でもありますし…」


 シルフィさんの話に僕たちも相槌を打つ。どうやってギリアムが凄腕の暗殺者とつなぎをつけたのかは詳細を明かされてはいないが、息子が暗殺者を招く為の資金の一部をブド・ライアーが出したのは間違いないそうだ。暗殺者を使うのは当然犯罪な訳だし…。そのブド・ライアーが逃亡中に殺害された事は当然伝えるべきだろう。そして見ぐるみ剥がされた恨みでゾンビ化した事も…、それに今回の日蝕にっしょくの影響で他の場所でゾンビ化した人が現れるかも知れない。町を治める子爵家にはお伝えするべきだろう。


 重要度の高い話をした後はその後は少しマニィさんやフェミさんを交えての話となった。マニィさんに至ってはブド・ライアーの奴は死んだ後にもロクな事しねえなとお怒りのご様子であった。


……………。


………。


…。


「お兄ちゃん、また…手をつないでも良い?」


 帰り道、ギルドを出てしばらくするとミアリスが僕に尋ねてきた。


「なんか…、まだ怖くて…お願いお兄ちゃん…」


 初めて見たゾンビ…、成人前のミアリスにとってその恐怖心はいかばかりか…。僕だって怖かった、正直もう嫌だってくらいに…。だから僕も手をつなぐ事に異議はない、それに不安だ。今は誰かと一緒にいたり触れていたいという思いがある。


「もちろん良いよ」


「ありがとう、お兄ちゃん…」


 夕方が迫る、町にはそろそろ帰宅を…と考え始める人がチラホラ出始める。そんな中、僕たち二人は手をつないで帰っていった。



「ふんむぅぅ〜…、そんな事がのう…」


 森での出来事を話すと食卓を囲んでいるうちのひとり、ガントンさんが焼酎を飲みながら呟いた。


 夕闇が降り、町は暗くなりつつある。しかし、ここマオンさん宅の庭には暗いという言葉は無縁だ。なんたって光の精霊サクヤがいるのだから。


「しかしそうなると…。やっぱり坊やには良い武器を持たせてやりたいべぇ…。いくらミスリルの短剣でもまったく切れないのでは…」


 ゴントンさんも唸っている。グビグビ…、ストレートの焼酎を水のように飲んでいる。さすがの強肝臓である。


「ははは…」


 僕は力無く苦笑い、魔法とは無縁の地球育ちの僕にはせっかくのミスリルの短剣も宝の持ち腐れ。なぜならミスリルに力を与えて切れ味を何倍にもするという魔力がまったく無いのだから…、僕が扱うと、切れ味が皆無ゼロのナマクラになってしまう。


「そうなると…魔鉄で新しくこさえてやろうかの…。いや、ミスリルを前にしては格落ちの素材じゃのう…」


 ガントンさんがしみじみと言うとゴントンさんもウンウンと頷いた。


「あんたたち、何をゼータクな事を言ってるんだい!魔鉄を格落ちの素材だなんて…。魔鉄なんて高名な戦士とか騎士様とかお貴族様の家に代々伝わるようなモンじゃないのさ」


 マオンさんが呆れ顔で言う。


「じゃがのう、いざという時に切れないのはやはり問題じゃあ。仮に刺客ではないにしても襲いかかってきた相手から見て坊やが手にする短剣に切れ味が無いと知れば大胆に攻めてこよう。なにしろ反撃されても自分は切り傷を負わぬのじゃ。自分が切られるかも知れない…、そう思うからこそ慎重にもなる」


 ガントンさんの言う事ももっともだ。


「せめて切れ味だけでもつけられれば良いんだべが…。鋼みてえに刃付けしてよう…。いっそ、刀身の上に鋼でも被せちまうべか…」


「こりゃ、ゴントン!そんなのは剣に鞘をするようなモンじゃ」


「でもよう、兄貴あにぎィ…」


 ガントンさんにたしなめられてゴントンさんがしょんぼりとする。先程の話じゃないが、やはり格落ちの素材になってしまうのだろう…。…いや、待てよ?切れ味…か…。切れ味を足す…それならアレはどうだろう、ミスリルにプラスできないかな…。


「あの…、おふたりとも…。僕にひとつ考えがあるんです…。素人考えなので愚にもつかない可能性はありますが…、また具体的な作り方は明日にでも話す事にはなると思いますけど…」


 僕はガントンさんたちに浮かんだとある考えを伝える事にした。それは聞きかじった事がある、刃物の作り方…。とりあえずは大まかな話だけをして細かい部分についてはネットで調べてそれを伝える事になるけど…。


「んん?なんじゃと?そんなんで刃物が出来るじゃと?」


「しかもとても硬く、鋭いんだべか!?」


 僕のまだ与太話にしか聞こえないであろう話だが二人の棟梁は真面目に聞いてくれていた。


「むむう…、なんとも奇妙じゃが…。それにそれでは鍛治というよりは…」


「ぬぬぬ…、坊やが言っておるモンだし…。だけんど、弱点もありそうだべなア…。脆さもありそうだんべ…、もしかすると刃が欠けたり…最悪折れる事も珍しくないかもしれんだべな」


 ガントンさん、ゴントンさんが感想を述べているところにめいであるフォルジュが話に加わる。


伯父上方おじうえがた…、よろしいですか?」


「んん?なんじゃい、何か言いたそうな顔をしとるのう」


「はい、ゲンタ先生のおっしゃられた物は確かにゴントン伯父上のご懸念通り脆いと考えます。…が、芯となる物を選りすぐればその弱点を補えるのではないかと…」


「ほう、何か思いついたのか?」


「はい、それは…」


 フォルジュが思いついたという方法を話し始めた。


「なんと…、それは…」


「贅沢だんべ…、というより…そんな事は誰も思いつかないだんべ…」


 二人の棟梁は困惑顔、しかしフォルジュは大真面目に…そして物怖ものおじせず持論を展開する。


「ですが…、道具は使ってこそにございます。先生にとって最良の物こそ…、それこそが最高の短剣と言えましょう」


「むむむ…。そ、その通りじゃあァァ!!」


「んだ!オデたち、ミスリルの短剣サァこさえて慢心しとったべ。これ以上はねえと…、そんなんじゃ駄目だべ!」


「おうよ!足を止めてはならん!鍛治にはまだまだ先がある、これで終わりではない。う、うぬぬ…。は、早く作ってみたいのう」


 フォルジュの言葉を受けガントンのやる気にものすごく火が付いた。それこそ明日の朝まで待てないと言わんばかりだ。


 どどどどっ!!


 椅子から立ち上がるとガントンさんとゴントンさんが駆け寄ってくる。突進、そして掴みかからんばかりの勢いで僕に詰め寄る。


「坊や!その具体的な方法を思いついたらワシらの所にすぐ持ってくるのじゃ!真夜中でも良い、寝ておったなら蹴り起こしても構わん!すぐに教えてくれい!」


「…は、はい」


 僕は二人の勢いにそう応じるしかなかった。…とりあえず、自宅に帰って調べ物…かなあ?

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