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第558話 倒れていたおじいさんを介抱した


 このおじいさんの孫はだーれだ?

 (孫はすでに作中に登場しています)

 当てたらすごいです。そしてこのおじいさん、今章のキーマンに…?



 キネノベ大賞9、三次選考を通過しました!

 最終選考に進んだそうです。

 みなさんの応援のおかげです、ありがとうございます!


 がつがつがつ!!むしゃむしゃむしゃっ!!

 ぐびぐび!!ごくごくごくっ!!


 異世界は中世ヨーロッパ風の様相を呈しているが、音を立てて食べるのがマナー違反というのは地球もここも共通である。ヨーロッパの人が日本人が蕎麦やラーメンをすする音に眉をひそめるというのはよく聞く話ではあるが、目の前ではまさにそれが行われている。


 マオンさん宅の前に倒れていたおじいさん、介抱してみると病気などではなく単純に空腹であった。マオンさんが作り置きしていた固めのパン、フランスパンのようなそれを勢いよく食べつつ添えた緑茶を勢いよく飲む。


「ぷはあっ!!」


 飲み会で学生がする一気飲みのように冷ました緑茶を飲み干すとおじいさんはひとつ大きな息を吐いた。


「いやあ、すまんのう!空腹で倒れとったのを介抱してくれただけでなく、こんなにたくさんのパンに美味いジャムまでつけて食わせてくれるなんてのう!」


 食品を腐りにくくする保存料などが無い異世界では水分を少なくする事でその目的を果たしている。なので作り置きしていたパンはフランスパンよりやや固め、それにいちごジャムをつけた物をバクバク食べたこのおじいさん…ただものではない。食べっぷりはドワーフ族のガントンさんたちにも引けは取らない。だけどよく見れば何やら品もあるし、もしかして貴族の御隠居さんだったりして…?水戸黄門の異世界版みたいな感じだ。


「ところで…、お前さんはどうして倒れていたんだい?」


 マオンさんが尋ねた。


「実はのう…、町にいる孫の顔を見にやってきたんじゃ」


「お孫さんの?」


「そうなんじゃ。元気にしているか…、腹を空かせてひもじい思いをしてたりしないか気になってのう」


「それで会いに行く途中で倒れて…」


「はっはっはっ、面目ない。むしろ、わしが腹を空かせて倒れてしまってはのう!いやあ…ソルじい、失敗、失敗!」


 テヘッ、とばかりに頭に手をやるおじいさん。基本的に品はあるんだけど時々ひょうきんな仕草もする、なんていうか掴み所がない。


「お孫さんには会えたのかい?」


 お茶のお代わりを注いでやりながらマオンさんが尋ねた。


「うむ!直接会って話をした訳ではないが元気そうで幸せそうな顔をしておったわい」


「それは良かったねえ。でも、顔を見るだけで良かったのかあかい?話せば良かったろうに…」


「はっはっは!それは次の楽しみにしておくわい。今日のところは元気で幸せそうな顔をしとったのを見れただけで満足じゃ。そんな訳でわしは帰る事にしたんじゃが…、こっちでメシを食うのを忘れておって倒れてしもうたわい」


 ははあ…、なるほど。見ればソルさんは荷物などを持ってる訳でもないし、おそらくは町の外…、近郊の集落かどこかに住んでいて孫の顔を見に町を訪ねてきたのかな…。


「いやあ。それにしても助かったわい。何か礼をしたいんじゃが…」


「いやいや、儂は別に良いよ。そのパンは誰かが腹を減らして帰ってきた時にいつでも食べられるように作り置きしてたモンだしね」


 これは事実である、というのもドワーフの皆さんが仕事が長引きそうな時とかに小腹を満たすような感じで作っておいた物だからだ。


「そうかい?ではそちらの若いの…、そなたはどうじゃ?あのジャムは素晴らしいものじゃ。これには礼をせんとさすがに…」


「僕も大丈夫ですよ」


「なんと!?さすがにそれは…」


「良いんですよ、それよりまた元気にこの町に来て下さい。お孫さんの顔はいつ見ても良いものだと思いますし」


 僕も祖父母には可愛がってもらったし、ある意味これは恩返しのつもりでいこう。見返りを求めるのはなんか違う気もするし…。そんな訳でおじいさんの謝礼に関しては固辞する事にした。そしてしばらく休憩がてらおしゃべりをした後、ソルさんは帰っていった。


……………。


………。

 

…。


 マオン宅を後にしてしばらく歩くと、ソルは足を止め後ろを振り返った。


「みんな良い者たちじゃったのう、マオンも…あのゲンタというあの若いのも…。それにしても…、なにやら不思議な男じゃのう…。じゃが…なんとも気持ちの良い若者じゃ…。ふふ、孫が気に入る訳じゃて…」


 それはなんとも清々しい…、それでいて品のある笑顔であった。風がそよそよと吹く心地良い午前の町の中…、再び歩き出したソルであったが不意に何かを思いついたように足を止めた。


「これは…。ああ、そうじゃったのう…。もう、そんな時期か…」


 見上げた先には澄んだ青空、これからまさに南中なんちゅうしようとする太陽とわずかに白い姿から黒く染まりつつある姿を浮かべる月が同居していた。


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[良い点] シルフィさんのおじい様かな?
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