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第548話 停滞(スタグネイション)と解毒できない毒を見破れ!


「くううぅぅっ…」


 マオンさんが苦しそうな声を上げると崩れ落ちた。


「まず…、ひとり…」


 音も無く着地したザフリーが笑顔で言った、これ以上ない…殺意さえ湧いてくる笑顔だった。


「ご婦人!?ヤツの狙いはゲンタ君ではなかったのか!?いや、ゲンタ君ひとりではなかったと…」


 ウォズマさんが驚いた様子で呟いた。


「マオンのお婆さん!」


 近くにいたミアリスが慌ててその体を支えようとするが支え切れずもたれるようにして尻餅をついた。それでもかろうじて頭だけは打たないよう必死に支えた。僕も起き上がりサクヤたちと共にマオンさんの元に向かう。


 マオンさんの手の甲にわずかな…カミソリで切ったような傷があった。長さにして1センチにも満たないような傷だ、そしてその傷のまわりが紫色に変色している。マオンさんは目こそ開いているが焦点は合わず痙攣けいれんを始めている。素人目にも危険な状態である事が分かる。


「婆さん!!ちくしょう、野郎ォォ!!」


 ブンッ!ブンッ!


 ナジナさんが大振りの薙ぎ払いを仕掛けながらザフリーを追う。下手に近寄れば巻き添えをくいそうだ。これにはザフリーもかわすだけで反撃はしていない、見た目には何も持っていない、ツメと正四面体の飛び道具がヤツの手持ちの武器なのかも知れない…。いや、決めつけは良くない…飛ばしてきたつぶてのような物の他にまだあるかも…そう考えた方が良だろう。


 ナジナさんの攻撃をかわすザフリーをさらにウォズマさん、ガントンさん、ゴントンさんが取り囲む。


「四対一だが容赦はしない、覚悟!」


「殺してはならんぞ!毒の事もある、解毒剤があるなら出させてからじゃ!」


 殺気をみなぎらせザフリーに迫る。だが、そのザフリーはどこ吹く風といった様子だ。一方でミアリスが何やら呪文を唱え始めている。


「そんな物はありません。…、が持ってたとしてもお渡しするとお思いですか、私は殺し屋なんですよ」


「だったら殺した後にでも見ぐるみ剥がして調べるべ!」


「それは剣呑けんのん剣呑けんのん…。…おや?」


 ザフリーの視線が一瞬ミアリスに向いた。


「これはこれは…、なかなか腕の良い回復魔法の使い手がいたようですね。強力な解毒の魔法ですよ」


 感心したような口調でザフリーは言う、驚くべきはそんなセリフを吐きながらも四人の攻撃を回避し続けている事だ。その間にもミアリスは呪文を唱え続けている。長い詠唱だ、かなり強力な魔法なのだろう。


「…不浄ふじょうなる毒よ、悪意と共に去れ。呪毒中和ニュートラライズ・カースド・ポイズン!!」


 パアアアアッ!


 強い光がミアリスの手から放たれマオンさんの体を包んだ。


「魔族が用いるという呪いを伴う致死の毒…、それすら消し去るという強力な解毒魔法のようですが…」


「マ、マオンのお婆ちゃん!?だ、駄目、毒がまったく…」


 ミアリスが焦った様子で叫んだ。


「残念、効かないんですねぇ。コレが…」

 

 くっくっと笑いながらザフリーが言った。



「げ、解毒の魔法ッ!ミア、効かないの?」


 焦った僕がミアリスに問いかける。


「う、うん。完全に消し去れなくてもこれはあらゆる体を蝕む毒を中和できる魔法なのに…。完全に中和出来なくてもある程度は…、なのに全く効いてないよ!」


「そ、そんな…、どうすりゃ良い!?解毒の魔法が効かない毒なんて!こうしている間にも…」


 マオンさんの顔からどんどん正気が失われていく。


「…ッ!?お婆ちゃん!停滞スタグネイション!!」


 ミアリスが再び魔法を唱えた、しかしマオンさんの症状が改善した訳ではない。不思議に思った僕はミアリスに尋ねた。


「ミア、今のは?」


「ふう…。これは心臓の動きを一刻いっとき(約二時間)で約10回ほどにする魔法、出血がひどい時とかにこの魔法を使えば出血がものすごく減るの…。だから、その間に…」


「集中的に治癒の魔法をかけ手治すんだね?」


「う、うん。もしかしたらこれで毒が体に回るのが遅くなるかと思って…」


 額に汗を浮かべながらミアリスが言った、強力な魔法を連発したせいかその疲労の色は濃い。


「ほう、そんな手がありましたか!?今のはかなりお見事でしたよ、すぐにでも死に至るはずなのにこんな延命法があるとは…」


 ザフリーが驚いたような声を上げた、しかしまたもやニヤリと笑うと凄腕の戦士たちの攻撃を避け続けつつこう言った。


「ですが、オススメしませんねえ。それではただ死ぬまでの時間が伸びただけ、苦しい苦しい指一本動かせない毒…それが心臓しんのぞうに回りきるまで長引かせるに過ぎません。いっその事、アナタ方がとどめを刺してあげたらどうですか?ふふっ、それが慈悲ミセリコルデというものです」


 そう言ってザフリーは聖職者がするように胸の前で手を組んで祈るようなポーズをしてみせる。


「なにおうっ!?」


 それを見てガントンさんが怒りの声と共に戦鎚バトルハンマーを振るうがザフリーはこれもかわす。ザフリーのこの発言に誰もが怒りを増した、だけど僕の心に何かひっかかるものがあった。


「指一本動かせない…?普通に考えたら毒が体をむしばむとか言うはずだ、それが体を弱らせて…。あれ…?確か日本で有名なサスペンスドラマでよく出てくる毒も、フグの毒も麻痺とか神経への毒…。これはもしかすると…」


 僕はミアリスの手を取った。


「ミア、麻痺を治す魔法はある?」


「ま、麻痺を…?あ、あるけど…」


「ミア、僕はザフリーが使ったのは麻痺毒なんじゃないかと思う。体を蝕み壊していく…いわゆる毒らしい毒ではなく、体を麻痺させて肺や心臓しんのぞうを動かせなくしていくような…」


「分かった、お兄ちゃんに賭けてみる!」


 あまりにマオンさんが心配なんだろう、目に涙を溜めながらもミアリスは必死に呪文を唱える。


「肉体よ、正常な動きに戻れ!麻痺解除ディスパラライズ!」


 再びミアリスの手から光が放たれる、そしてそれが収まると…。


「や、やったよ…。ゲンタのお兄…ちゃん」


 手応えがあったのだろう、感極まった声でミアリスが呟いた。



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