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第532話 必殺!悪党狩り


「ベ、ベヤン君ッ!?」


「へ、へへへ、助けに来た…でやんすよ。ゲンタ君」


 突如現れたベヤン君、その彼が逃げようとした男に体当たりをかましそれを阻止した。今はぶつかったベヤン君と逃げ出そうとした男は二人揃って地面に転げている。たた、その二人には違いがあった。ベヤン君が仰向けに倒れすぐに立ち上がれそうにないのに対し、男の方はうつ伏せに地面に接した事。地面を転げる勢いを利用し両手を地面にグッと突っ張ったらすぐに立ち上がる事が出来た。と、同時にスラリと腰の剣を抜きベヤン君に向けて両手で振り上げた。


「こ、このォ…邪魔しやがって!死ねえ!!」


「ヒッ!!」


 マズい!!ベヤン君が…。男の剣が振り下ろされる、その時だった。二人の間に割り込んでくる人影が…。


「ンッンーッ♪」


 ばしいんっ!


 まるで鼻歌を歌うかのような声を上げその人は振り下ろされた剣を真剣白刃取り!


「ヌフフフ…、よくやりましたネェ…ベヤン君。褒めてあげますヨ」


「ハ、ハカセさん!!」


「ハカセの兄弟子にいさんッ!」


 僕とベヤン君が同時に声を上げた。その間にも男は捕まれている剣を何とかしようと押したり引いたりをこころみるがビクともしない。


「グフフフ、無駄ですヨ!無駄無駄ァァ!!あンの濃ゆい『こーひー』を飲んで覚醒しているワタクシはむぅあさに無敵ィィ!!」


「くっ!?は、放せッ、放せェェイッ」


 男は焦った様子で言うがハカセさんは反対にすっかり落ち着き払った口調で刀身に顔を近づけジロジロ見ながら応じた。


「おやおやおやァ…?いけませんねェ、こぉんなナマクラを使ってちゃア…。それに手入れもなってない…、こんなのを使っているようじゃアナタの腕前なんてたかが知れると言うモノですヨ…。まったく、こんな剣…ワタクシが処分してさしあげますヨ…。ウウウゥリイィィヤァァーッ!!」


 ハカセさんが甲高い奇声を上げ始めると上半身が膨れ上がる。ビリビリと音を立て布が裂ける、するとムキムキになった上半身が現れた。そのハカセさんがグッと両腕に力を込め白刃取りしている刀身を横に捻るようにした。


 ばぎぃんっ!!!


 なんと次の瞬間、剣は折れ砕け散った。


「け、け、剣がッ!?」


「折れたでやんすゥッ!?」


「フ、フフフ、フヒヒヒヒッ!!フヒャーハッハッ!!!この圧倒的パゥワァーッ!!今のワタクシは素手で剣すら砕く無敵ッ、無敵なんですヨォォ!!アヒャッ、アヒャ…。…グッ、グググ…」


 あ、あれ?なんだかハカセさんの様子がおかしい。急に苦しみだしたというか体が震え始めたぞ。


 ぷしゅうううぅぅ〜〜〜っ!!


 どこからかそんな音がしたかと思ったらハカセさんの巨大なムキムキの上半身がみるみるうちにしぼんでいく。


「…フウゥゥ〜。時間切れですか…。『こーひー』を飲んだ時の昂揚感が体から抜けていったようですねエ…。疲労感が高まっていきますヨ…、フルパワーを展開した分だけすぐに昂揚感が失われるのが早かったようですねェ…。フフ…、体が動きません」


 がくりと膝をつくハカセさん、無防備だ。まずい、剣を折られた事で怯んでいた暴漢が我を取り戻し予備の武器だろうか、短剣を抜いてハカセさんとベヤン君に迫る。


「ち、力を使い果たしたようだなァ!!ぶっ殺してやる!」


 逆手に持った短剣を振り上げ暴漢がハカセさんを狙う。


「やめろぉ!!」


 僕は叫んでいた。しかし、距離があり何にもできない。そして短剣が振り下ろされたその瞬間…!!


 がしっ!!


「やめんか」


 その腕を掴んで止めた人がいた。


「ガ、ガントンさんッ!!」



 今まさに振るわれようとした短剣を腕を掴んで止めたのはドワーフの石工いしくにして棟梁ガントンさんであった。同時に兵士百人に匹敵するという凄腕の…二つ名持ちの冒険者でもある。


「ク、クソッ!は、放せ、放せッ!」


 掴まれた腕を振りほどこうともがくがガントンさんはビクともしない。


「放せ…か。良いじゃろう、放してやる…ほぉれッッッ!!」


 無造作に…、あるいは力任せか、ガントンさんが放すというより投げ放すといった感じで腕を振ると暴漢は無様に地面を転がった。合気道や柔道の投げ技みたいに綺麗なものではない、腕を振るって掴んでいた手を離しただけだ。


「立つんじゃ…。お前がしでかした事に仕置きをしてやろうぞ」


 ガントンさんの声は怒りに満ちている。その声に応えた訳ではないだろうが地面を転げた男はなんとか立ち上がる。しかし、ガントンさんと渡り合うのは不利だと感じたのか背中を向けた逃走しようとする。しかし、その足が止まった。その逃げようとした道の行く手に新たな集団が現れたからだ。


「おおいっ!!兄貴あにぎィィ!!」


「先生ッ!!ご無事ですか!」


 ゴントンさん、そして四人の弟子のドワーフたち…さらには見た目は小学生くらいの女児にしか見えないフォルシュまでもが駆けつけてくる。それを見てガントンさんが口を開いた。


「来たか、ゴントン!構えろッ、悪党狩りじゃあ!!」


 さっ…。ガントンさんが右腕を真上に上げて叫んだ。


「や、やるのかッ!?兄貴あにぎィィ!!」


 さっ…。同様に右腕を真上に振り上げるゴントンさん。逃走しようとした男だが前後をガントンさんとゴントンさんに挟まれ戸惑っている。


「我らドワーフは物を作る事にけた種族たみよ。そして棟梁の地位を得た者にはこの腕輪が与えられる」


 確かにみれば棟梁の地位にある二人には質素だがしっかりしたつくりの手首から肘にかけてを覆うような腕輪をしている。


「物を作るのに道具は不可欠だべ!そのほとんどは鉄で製造こさえる事サァ出来る。だからオデたちドワーフの棟梁は材料になる鉄の鉱脈をすぐに見つけられるようにこの腕輪をしているんだべ。この腕輪は魔力を込めると鉄を引き付ける…」


「まあ、鉱脈じゃと岩の塊じゃからワシらの体が引っ張られるような感覚になるがのう…」


 二人のそんな話に間に挟まれている男は声を荒らげて威嚇しながら叫ぶ。どうやら頼みの短剣は投げ放された時に手放してしまったようである。


「そ、それがなんだってンだ!?ち、ちくしょう、どけ!どけぇいッッッ!!」


「…知らんのか。生き物の体内を流れる血液にも鉄が微量ながらも含まれている事を…」


「鉄分の事だ…」


 僕は思わず呟いた。その間にも状況は動いていた。


「ふんぬゥゥ、鉄を引き付ける力ァ…」


 ボウ…。ガントンさんの右腕に白い光が集まり、それが暴漢に伸びていく。それが男の体に届くと引き付け始めた。


「わ、わわっ!?」


 体を引っ張られ慌てて地面に足を踏ん張って耐える男。しかし、その後方からも声が上がった。


「鉄を引き付ける力ァァ…、ぬあァァ!!」


「う、うわー!!」


 ゴントンさんが右腕に魔力を込めると同じように右腕に白い光が浮かびそれが暴漢の体に伸びた。後方からも引っ張られ男は不恰好にもがいていたがそれも耐えられなくなり…。


「う、浮いたァ!!ひ、人の体が…浮いたァ!!」


 その光景に僕は思わず声を上げた。それ以上に驚いているのはそれをされている本人で…。


「ヒッ、ヒャアァァー!か、体が…!?動けねえ…」


 空中で出来損ないのクロールをしているかのように浮かんだ暴漢、戸惑いか悲鳴か…そんな声を上げている。


「気に入らんのう、そんな袋をかぶりおってに…。その袋ごと首を狩るぞ、ゴントン!」


「分がっだァァ!!兄貴あにぎィ!!悪党狩りだァ!」


 二人のドワーフが真上にかかげていた腕を右腕を地面に水平にすると不恰好に空中に浮いている男に向かって駆け出した。


「「ぬぅおおおおおッッッッ!!」」


 だっだっだっだっだっだっ!!


 地面を揺るがすような音を響かせ二人のドワーフが駆ける。大型トラックがすぐ近くを通ったかのような衝撃が地面を通して伝わってくる。そして二人の伸ばした腕が前方に首を差し出すような形の男に迫る。


「ク、ク、クロスボンバーだッ!!」


 ドカアッ!!!!


 丸太のような剛腕、二人の強靭なドワーフ兄弟の一撃が最後の一人の暴漢に炸裂した瞬間であった。

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