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第528話 内なるトラブル


「なァ、おい。俺たちがアンタの護衛に就いてやンよ、良い話だろ?」


 翌日、早朝の冒険者ギルドでカレーライスの販売を終えた後にそんな声がかけられた。ちょうど僕はカレーの販売が落ち着いた事もあり塩の自動販売機に在庫の補充をしているところだった。声のかけられた方を見ると見慣れない男5人組が近くにやってきていた。歳の頃は僕よりいくつか上といったところだろうか。


「え?あなたたちは…誰?」


 名前も知らない人なのでそう尋ねると彼らはハッと短く声を出して笑い両手を広げて笑った。


「王都から来た俺たちを知らねーのかよ?」


「仕方ねーよ、山奥の町だしなあ」


「アンタ、運が良いぜ。こんな田舎で王都で引っ張りだこの俺たちが護衛になってやんだからよ」


「もっとも、払うモンは払ってもらうけどな!!香辛料を使った料理を出せるくらいだ、持ってるモンは持ってそうだからな!」


「「「「はははははっ!!」」」」


「ムッ…!」


 思わず声が洩れた。護衛になってやる…?誰がそれを頼んだのさ。そもそも護衛は腕が立つのも大事だが一番大切なのは信用だ。それがなければ護衛がいきなり野盗に変わる事もあり得るのだ。僕は色んな人に護衛に就いてもらっているが、少なくともそんな事がないであろう人に就いてもらっている。今日会ったばかりの…それもこんな人たちに頼むつもりはない。


「おことわ…」


「兄ちゃん…、争いのタネになっちまうから直接言わない方が良いぜ。まあ。言いたい事が分かりやすいくらいに顔に出ているけどな」


「ナジナさん」


 ナジナさんがすぐ隣にやってきてポンと僕の肩に手を置いた。


「ああ?なんだ、テメー」


 僕に話しかけてきた男が友好的からは程遠い態度で凄もうとする。…が、ナジナさんは少しも動じない。


「兄ちゃんの護衛だよ。お前こそ誰なんだ?王都で名の知れたヤツの中に少なくともお前らの顔はねえよな?あまりフカシこかねえ方が良いぜ。バレた時、恥がでかくなるぞ」


「なんだとテメーッ!!」


「それに引っ張りだこの腕利き冒険者サマならそれこそ依頼は殺到する、それこそこんな田舎に来てるヒマはねえよなあ?ホントは王都のレベルについていけなくなったんじゃないのか?」


「こンのッ…、田舎野郎がッ!!」


 喧嘩っ早いのか、あるいは図星を突かれか…男がいきなり殴りかかる、…だが!


 ばっちいぃぃーーんっ!!


「ぶげらっ!!!!」


 ナジナさんが真横に振り抜いた手のひらが殴りかかった男の頬を捉えた。堂々たる偉丈夫であるナジナさんのビンタにより男は吹っ飛び床を転がる。


「やれやれ、まさかギルドの中で荒事になるとは思わなかったぜ…。ああ、それと…」


 ため息すら吐きながらナジナさんが手をパンパンと叩いて埃を払うような仕草を見せる。


「お前ら、護衛にゃあ向いてないぜ。相手の力量も分からず馬鹿みてえに突っかかるからこういう目に遭う。護衛ってのが第一に考えるのは依頼人を守る仕事だ、相手の実力もはからねえでオマケに頬を軽く撫でられた程度でブッ倒れてるようじゃなァ…。どうやらそれすら分かってねえみたいだがな」


「ぐっ、ぐぐっ…!!」


 殴りかかった男からは苦しげな声が上がったのみでまともな反応は無い、どうやら今の一撃で完全に脳を揺らされKO状態。意識こそ失ってはいなあたな立ち上がる事はおろか満足に体を動かす事も出来なくなってしまっていた。


「どうやら護衛を任せるには力不足のようですね。それ以前にあなたたちを信用できそうにありません。あと他にもお願いしている方々がおられますのでご縁が無かった…という事で…。それにしても…」


 しばらく販売をしていなかった間になんか町の中が少し変わったのかな…、そんな事を思いながら僕は今朝までの事を思い出していたのだった。



 本格的な商売の再開をする一日前に僕は冒険者ギルドで軽く事前販売を行う事にした。しばらく販売もしてなかったからそのあたりのカンが失われてはいないかと心配したから…。そして普段からお世話になっている事もあり、まずは冒険者ギルドで…という事になったのである。


 ブド・ライアー商会がミーンの町から撤退する、その知らせは瞬く間に町中を駆け巡っていた。まるで革命が成功したかのように歓迎ムード、よほど恨みや不満を買っていたのだろう。当のブド・ライアー商会はまだ町からいなくなった訳ではなく、門戸を閉じてひっそりとしているそうだ。


「建物内で撤退の準備でもしてるんじゃねえの?」


 とある冒険者の人がそんな事を言っていた、あまり興味がないらしい。それは町の皆さんにも同じ事が言えるようでブド・ライアー商会の非難するムードが薄れつつある。


 そうなると次に起こるのが塩を初めとした商品の販売がいつから再開するのかという声だ。考えてみれば塩の販売はストップしていた訳で町の皆さんの在庫は底を尽きかけている。ここで対応を誤ると次はこちらが怒りの標的にされる。なるべく早く、そしてしっかりした準備が必要だ。


 そこで僕は町のあちこちに立て札が立てられた二日後から販売を再開するという文章を冒険者の皆さんにたのんで町の各所に貼ってもらった。ちなみに販売再開に異論があるならブド・ライアー商会さん、いつでも来て下さいとの一文を添えて…。


 そうして再開を始めようとした矢先に先程のような一悶着があった訳である。この冒険者ギルド内もそうだけど町の中にも見知らぬ人が増えた気がする。その事を話題にすると…。


「ああ、今この町は景気が良いからな」


 ナジナさんが応じた。


「なんたってゴクキョウ商会がデケぇ宿を建てる、それもずいぶんと立派なモンをな。だから物を運んで来たりする人や、なんか働きグチがあるんじゃないかってのが増えてるんだろう。さっきの王都から来たってのもそういった手合いだろうよ、兄ちゃんが羽振り良さそうなのを見て吹っかけるつもりだったんだろうが…」


 そうか…、全て知ってる訳じゃないけど町行く人の顔ぶれがなんだか違うなと感じたのはそれが原因だったんだなあ。…それはそうと、あの声をかけてきた人は仲間に助け起こされてすぐにソソクサとギルドを出て行ったみたいだ。まあ、居づらくなったのだろう。冒険者は個人事業主みたいな感じだけど意外と横のつながりも大事だ、そういう意味ではあの人たち大丈夫だろうか?散々、ミーンの冒険者ギルドを下に見るような発言が多かったけど…、あれじゃあ味方になってくれる人いないだろうな…そんな事を思いながら僕は朝食後のひとときを過ごしていた。


……………。


………。


…。


 その頃…。


 逃げるように冒険者ギルドを後にした五人組の冒険者たちは…。


「クソッ!!あンの野郎ッ!!」


 すっかり腫れ上がった頬をさすりながら若い冒険者が吐き捨てる。


「お、おい…マズル」


「どうするんだよ…、ギルドに行きづらくなっちまったぜ…」


「何かで稼がねえとカネが尽きちまう…」


 仲間たちが心配そうに声をかけた。


「知らねーよッ!!ちくしょう、それよりもアイツぶっ殺してやる!あの大男めッ!!王都から来たこの俺をコケにしやがって…」


 マズルと呼ばれた男が不機嫌極まりないといった感じで応じた。そもそも殴りかかったのも自分だし、実力がないのも自分のせい。だが、そんな事を考える事もなく怒りをただまき散らす。そんなマズルに近づく怪しい影があった…。


「よぉ、兄さん…。なんだか荒れてンじゃねえか…」


 そこにはひょろりとした体躯を不自然に背中で曲げたギリアムの姿があった…。


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