第523話 偉そうな謝罪とブワアアァァンッ!!(中編)
シルフィさんからの通信により冒険者ギルドに出向いてみればその言葉通りブド・ライアーがいた。身なりもいつものような派手派手しいものではなく謝罪したいと申し出ているとの事、心境の変化でもあったのかと出向いてみたのだけれど…。
「やっと来たか…」
僕とナジナさんが冒険者ギルドに入ってすぐにそんな呟きと共に出迎えたブド・ライアー。
「やっと…?」
ぴく…、思わず右の眉が動いた感覚を自覚すると共にブド・ライアーの呟きに僕は早速違和感を覚えた。謝罪に来たと言っていたのになんだかとても偉そうだ。まるでこちらが約束の時間に遅れてしまったかのような言い草である。しかし、そんな僕の思いにはまったく気がつく様子もなく…あるいは気にもしないのか、自分のタイミングでブド・ライアーは再び口を開いた。
「あー。まあ、ここに来たのはさ、謝罪しよーと思って来たワケ。ガキのした事だし、それを受けての俺もちょっと大人気なかったかなってよ。そんで俺がこうやって謝った事で手打ちにしようやって話をしに来たんだ。ここまでは分かるよな?」
「は?」
思わず声が洩れた。偉そうな言葉に頭のひとつも下げない、これのどこが謝罪だ?そう考える僕をよそにブド・ライアーの話は続く。
「でさ…正直、こっちも今商売になんねーし…」
両手を広げ、大げさにため息まで吐いて見せる。
「その原因ってさ、どこにあるか明白じゃん?どっかの誰かさんが物を売らねーとか言い出すからバカな奴らがこっちに押し寄せて来たんだしさ。石を投げるわ、クソやら小便撒き散らしていくしよォ…。んで、店を開けられねーからカネも入ってこねーワケ。だからよォ、その償いっつーか売り上げの補償とさ迷惑料を俺に支払えよ。それで手打ちにしてやるからさ…」
「それのどこが謝罪?謝りに来たんだよね、自分に落度があるから謝罪するんでしょ?それがなんで補償だなんだって話になるの。それになんなの、手を打ってやるって?謝罪に来た側の態度とかを見てこっちが手を打つか打たないかを決める立場だ。話にならない」
僕の返事にブド・ライアーはハッと鼻で笑い両手を広げて分かってねーなと言わんばかりの態度を取った。
「おいおい、店も持たねー駆け出しがでけぇクチ叩いてんじゃねーよ。こっちはギルドのサブマスターだぜ、それがこうやって来てやったんだからー」
「来てやった?冗談じゃない、それに立場がなんだ!悪い事したら謝る、それは当たり前だ。立場ある人間が来たから許せ?ふざけるな、そもそもはあのホンリエモが他の子の食べ物を横取りしようとしたからだ!それに僕が商売を出来ないように脅したのはお前だ、店が開けないのは自分が撒いた種じゃないか!そんなに補償が欲しいならあの息子か自分自身に言えば良いじゃないか!!」
「なにをッ!!この若造ッ…」
僕の指摘に対しブド・ライアーは態度を改めるどころか食ってかかってくる、殴りかかってきそうな雰囲気だ。その時、僕の護衛として斜め後ろに控えている形をとっていたナジナさんが僕の前に進み出た。
むんず…。
ナジナさんがブド・ライアーの胸ぐらを掴むとそのままグイッと腕一本で持ち上げた。
「駄目だぜ、兄ちゃん。こういうヤツは人の言う事を聞かねえし理解もしねえ」
「う、うぐっ!!な、なんだお前!?は、離せッ!」
手足をジタバタとさせブド・ライアーが叫く、しかしナジナさんは中年太りのブド・ライアーを持ち上げたまますぐそばの冒険者ギルドの出口の扉に手をかけた。
「こういうヤツはよぉ…、言っても分からねえ。だから体で分からせるんだ、コイツのクソガキのケツをひっぱたいたみたいにな。もっともこんなヤツのケツなんて触りたくもねえし、見たくもねえ。だから…」
「お、俺をどうするつもりだ!?は、離せッ、離せェッ!!」
ブド・ライアーは暴れ続けるがナジナさんの剛腕はビクともしない、そしてナジナさんはギルドの外扉を手前に引いた。外の音が入ってくる。地球の…欧米と同じくここ異世界でも扉は基本的に内開きだ。いざと言う時、扉の内側に物を置けばたちまちバリケードになる。その扉を開けた事でギルド内と外の世界とがつながった。
「ああ、離してやる。だか、ちょっとばかし口上を述べさせてもらうぜ!…おおい!町の衆ッ、こんな所にブド・ライアーのクソ野郎がいるぞーッ!!!!自分のせいで店が開けないのにその補償金を渡せとまた塩売りの兄ちゃんを脅してるぜ!!こいつは許せんよなァァッ!!!」
ナジナさんはものすごく大きな声で町に向かって叫んだ。たちまち道行く人々が鋭い反応を見せる。
「なにっ!?ブド・ライアーだって!?」
「あの野郎、またやってやがるのか!」
町の皆さんが怒りを滲ませギルド前に集まってきた。
「さーて…、じゃあ離してやるぜ。俺は言った事を守る男だからな。んじゃ、あとは勝手にやれ」
そう言ってナジナさんはポイっとブド・ライアーを道端に投げ離した。そうする間にも町の人は増えていく。さらにナジナさんはギルド内で唖然としている手代たちにも声をかける。
「ほぉーれ、お前たちもさっさと出ろ。それとも俺がつまみ出してやろうか?」
拳の骨をゴキゴキと鳴らしながらナジナさんがそう言うと中にいた手代たちは慌てた様子で外に出た。そこには投げ離され地面に尻餅をついている主人がいた。あわててそこに駆け寄り助け起こすがその時にはすでに町の衆に取り囲まれていたのだった。