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第510話 クリンちゃんの針仕事


 皆様が見に来てくれているおかげで1000万PVを超えました。ありがとうございます!


 次は2000万PVを目指して頑張ります。


 ミーンの町でタロット占いを披露後、知り合いの女性たちからのアプローチが若干積極的になった気がする。だけど、それ以外はあまり変わらない毎日を過ごしている。主な商売としては朝は冒険者ギルドでの朝食販売、それ以外は注文の入った品々を届けるといったような感じだ。もっとも注文を受ける相手は僕と直接のつながりがある人だけ、ほとんどは獣人族の人やエルフやドワーフといった他種族の人たちだ。


 そして毎日ではないけれど販売が終わればマオンさん宅に戻って教会で暮らす子供たちを出迎える時がある。男の子たちはガントンさんたちと建築現場で、女の子たちはマオンさん宅の庭に残って布マスク作りの針仕事だ。そして布マスクを手縫いしている女の子たちの中にひとり男の子が混じっていた。黄緑色の髪とちょっと変わった形の獣耳が特徴の砂狐族フェネクスのクリン君…、いやクリンちゃんと言うべきだろうか。


「んしょ…んしょ…」


 可愛いらしい声でちくちくちくちく…、クリンちゃんが一生懸命縫い物をしている。ミミさんたち仕込みの服選びやメイク、小柄な体とその言動はハッキリ言って女の子にしか見えない。これがいわゆる男の娘というものか、うーむ。


 本来ならクリンちゃんはヒョイさんの劇場シアターでデビューする為にミミさんたちによる指導を受けるのが日課だ。しかし、今日はヒョイさんの経営する社交場サロン全体が完全定休日なんだそうだ。それゆえ劇場もお休み、そこでクリンちゃんは衣装についてさらに見識を広げるべく縫い物に参加しているのである。


 それと言うのも最近のミミさんたちの衣装は日本の中高生が着ていた学校の制服をベースにした物だ。それにスパンコールや刺繍などを加えて見栄えを良くしている、これはクリンちゃんも同様で今もセーラー服を着ている。そのステージ衣装の普段の手入れやメンテナンス、また新たな装飾を加えるのは基本的にその持ち主の仕事である。既に衣装を持っているミミさんたちもそうしているのでクリンちゃんもその対象となる。ただ、クリンちゃんには縫い物の経験はない、そこでクリンちゃんは縫い物に慣れる為に今日はこうして縫い物に参加しているのだ。


「針ってこんなに細くできるんだ…」


 最初に縫い物に使う日本で買ってきた針を見てクリンちゃんが驚いていたっけ。それと言うのも針や糸などはこの異世界では完全な手作業による生産品。ものすごく手間と時間を必要とする貴重品なのだ。さらに言えば異世界の針はものすごく太くて大きい、爪楊枝を少しばかり細くしたくらいの物と言ったら分かりやすいだろうか。さらには糸を通す針の穴もいびつであったりする、手作業だから作り手によって仕上がる品が変わってくる。いや、同じ作り手でもまったく同じ物は出来ない。ひとつひとつの品物に差が出てくる。


 どうやらクリンちゃんは縫い物のセンスがあるようで今日が縫い物の初日だけど夕方近くにはかなりスムーズに布マスクを作れるようになっていた。これでさらに数をこなしていけば縫い物の腕もより磨かれていくだろう。


 そうこうしているうちに仕事終わりの時間が近づいてきた、僕とマオンさんはカレーライス作りにとりかかる。…と言ってもそんなに手間のかかるものでもない。材料を準備して鍋や釜に入れるだけだ。それと言うのもお米を炊くのもカレーを作るのも火精霊イグニスタスホムラと水精霊アクエリアルセラにお任せだ。


 そうこうしているうちにカレーが出来上がった、お米も炊けたようだ。辺りに食欲をそそるカレーの匂いが漂う。ちょうどそこにガントンさんたちを先頭に建築現場で働いていたドワーフの皆さんや男の子たちが戻ってきた。


「お風呂に入って汗を流しておいで。すぐに食べられるようにしておくから」


 そう言ってガントンさんや男の子たちを風呂場に促し、僕らは配膳の準備をする。そうするうちに早くカレーを食べたいとばかりに風呂上がりの体を拭くのもそこそこに男の子たちがテーブルにやってくる。


「空腹にカレーの匂いは破壊力抜群だもんなあ、その気持ち分かるよ」


 待ちきれないといった感じの子供たちを見て思わずそう呟く。


「準備出来たようだな。いやあ、腹が減ったぜ」


 どうやら楽しみにしていたのは子供たちだけではないようだ、今日一日の護衛を依頼しているジュウケイさんが初めて見るカレーを見てテーブルにやってきた。ジュウケイさんとはしばらくぶりの再会だ、風来人ゆえミーンの町に常にいる訳ではないが黒い大きな馬に乗り長大な騎兵槍ランスを持つ彼の姿はまさに偉丈夫と呼ぶに相応しい。ガントンさんたちはのんびり湯に浸かってから酒と一緒に食事をするようだからこちらは先に夕食といこう、そう思った時の事…。


「なんか、良い匂いがするな!おい、それを寄越せ!オレ様が食べてやるぞ!」


 声のした方を見ると通りからマオンさん宅の敷地に数歩ほど入り込んでこちらを指差して声を張り上げる小太りの男の子がいた。

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