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第509話 男は自宅を出たら戦場。では、戻ってきたならば?


 今章最終話です。


「ふう…」


 ギルド内であーだこーだと色々あった後、僕は日本の自宅へと帰ってきた。なんだかよく分からないけどなにかと女性陣からの圧を感じた一日だった気がする。


 いや…、そうでもないな。考えてみればそういう流れはあったかもしれない。ミミさんは何かと直接的にアピール、メルジーナさんは『ついていきます』みたいな雰囲気を出していた。シルフィさんたちは言わずもがな、フィロスさんは付き合うとかの段階をすっ飛ばしての結婚願望の持ち主。結婚願望と言えば異世界に来てその日の夜にはアリスちゃんが、他にも今日はまさかのヴァティさんまでもがそれらしい言動をしていた。


「それに…」


 まさかとは思うけどラ・フォンティーヌ様の発言…、モネ様と僕が…?いやいや、まさか…。


「でも、考えるべき時が来た…そんな感じなのかな」


 僕だって今まで恋をした事がない訳じゃない。だけど結婚とかは考えた事が無かったな…。そんな事を考えていると後ろから細い腕を回される。


「考え事?」


 抱きついてきたカグヤが耳元で問いかけてきた。


「え…?うん、まあ…」


 考え事に没頭していた僕は現実に引き戻され曖昧な肯定する。


「そう。じゃあ、先にお風呂入ってくる」


 そう言ってカグヤは僕けら離れバスルームに向かった。その後、お風呂から出てきたカグヤと入れ代わりになる形で僕も入浴する。湯船に浸かっていると僕はまた先程の自問自答の世界へと逆戻りだ。


「ふう…」


 今日何度目かのため息、結論は出ない。


 シルフィさん、マニィさん、フェミさん…三人とも三者三様の魅力がある女性たちだ。その三人が結婚を少なくとも考えてはくれているといった実感はある。知らぬ事とはいえ僕が申し出たような形だ、それが拒絶されておらず、なんとなくだけど受け入れられるんじゃないか…そんな気がしている。


 今までの…、僕の二十年の人生においてこんな贅沢な悩みをした事は無かった、別にベタベタする訳じゃないけどいわゆるリア充といった状況だと思う。それに暮らしていくだけの…いや、大富豪も夢じゃないって額の稼ぎもある。日本中…、それこそ田舎でもお金の出し入れができるから…そんな理由で持っている郵便局で作った口座には軽く億を超えるお金が入っている。だから暮らしていくのに何の不満もない、慎ましく暮らしたなら一生やっていけるんではないかと頭に浮かんでくる。


「だけど、ここと異世界…行き来が出来るのは僕とカグヤだけ…」


 それだけは動かせない現実。そしてどうしてそれが成立しているかも分からない。だけど、紛れもない現実。


 だから僕は日本人として暮らしていくのか、あるいは異世界に生活の拠点を移してしまうのか…それが決められずにいる。異世界に行くにしてこの部屋の押し入れ以外には行く方法を知らない。異世界に行き続けるのならこの部屋に居続ける必要がある。


 学生でいられる期間にも限りがあるし、いつまでもここにいる訳もいかない。卒業して地元に帰ればもうここで暮らす事もないだろう。やっぱり結論は出ない、悶々と考えているうちに長く風呂に浸かり過ぎていたのか額にうっすらと汗をかきだしたのを感じた。


「上がろうかな」


 そう言って浴室から出た。着替えて部屋に戻るとカグヤが布団を敷いて待っていた。


「明日も早いんだから寝ないと」


 そう言ってカグヤが僕に就寝を促す。


「あ…うん、ありがと…。ねえ、カグヤ?」


「なに?」


「カグヤも一緒に寝るの?」


「当然」


「そ、そう」


 当たり前の事と言わんばかりのカグヤ、そんな彼女に若干及び腰になる僕。そしてカグヤは宣言通り布団に入ってくる。


「え、ちょ、ちょっと…」


 カグヤが布団に入ってくるのはいつもの事、なんなら抱きついてくるのも…。だけど今夜は…。


 すりすり…。


 仰向けに寝ている僕の胸元に頬擦りをしている。


「あの…?カグヤ…、何を…?」


「上書き…ふふっ」


 よくは分からないがカグヤは楽しそうに呟いた。


「今日のゲンタ、ミアリスとミミに体を擦り付けられてメスのニオイが付いたから…だから私ので上書き…」


「そ、そう…」


「誰にも渡さない…、誰にも…」


 ぞくっ…。


 カグヤの持つ妙な迫力と力強さ…、そして見た目の年齢とはとても似つかわしくない人を惹きつける魅力…。もしかして僕は決して逃げられない捕食者の糸に絡め取られたのではないか…、カグヤのなすがままになりながら僕はそんな風に思っていた。


……………。


………。


…。


 その頃…、異世界…ミーンの町にある商業区域…。


 この春、王都に進出した父親から商会とギルド長の座を引き継いだハンガスは焦りと不満を募らせていた。


「クソが…。なんでこんな上手く行かねえ…」


 受け継いだものは砂で作った建物より脆く崩れ落ちようとしていた。商業ギルドのマスターとしての立場は揺らぎ、経営しているパンや小麦やライ麦なとの販売は右肩下がり…。ギルドに所属している商人たちからはあの新参者の男と反目するに至った事を糾弾する声が後を絶たない。


 募らせた不満に比例するかのように酒量もまた増えた。今日もやけ酒に溺れていた。やがてハンガスは火照った体を冷まそうと夜風を求めて裏庭に出た。ややひんやりとした夜の空気、体は冷めていくだろうが不満や怒りに満ちた頭の中はとても冷めそうにはない。何か手近の物にでも当たり散らして不満を少しは発散したい気分だった。


 ガスッ!!


 ハンガスは目についた小石を蹴飛ばした。それが勢いよく転がっていき商会と外部を隔てる木屏もくべいにあたりカツンと音を立てた。


「クソッ、クソッ!!」


 それから二つ三つと目についた石を蹴飛ばす、それでも怒りは収まらない。ギルドも商売も上手くいかない、そんな状況が何個石を蹴ってもハンガスの怒りを鎮めるに至らないのだ。手当たり次第に目についた石を蹴飛ばしていくハンガスの動きはだんだんと力任せに…、雑で大振りなものへと変化していく。


 ズデンッ!!


 酔った体とあまりにも雑で大振りな石蹴りの動作がバランスを狂わせハンガスは無様に転倒した。新たな怒りがこみ上げてくる。ストレスの発散の為にしていた石蹴りが余計で新たなストレスになる。


「畜生がよォォッ!!」


 自分で勝手に増やした怒りにハンガスは怒声を上げる、そんな時だった。


 キイイィィ…。


 木屏の一部がドアのように開いた。商会の裏庭から通りに出る為の仕掛け扉だ、そこから一人、背の高いひょろっとした者が入ってきた。フード付きのローブを着て老人のように腰を屈めているがどうにもそれが不似合いだ、また、フードをすっぽりと頭からかぶっている為にその顔はよく分からない。


「誰だ、テメェ!?勝手に入ってきやがって…」


 突然の侵入者にハンガスは声を荒らげる、それと同時にひとつの疑問が浮かんだ。この木屏の一部が仕掛け扉になっている事を知る者は限られている、それを知っているコイツは一体…?


「へへへ…、どうやら荒れてるご様子で…。お忘れですかい、俺のツラァ…」


 そう言うと謎の男はフードを取りその素顔をハンガスに晒した。その顔を見てハンガスの表情は驚きに染まる。


「お、お前はッ…!!」


 ミーンの町が揺れようとしていた…。


 さて、この男は誰でしょう?


 皆さん、予想してね!

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